財産分与|対象となる財産・分ける時の注意点

財産分与とは、結婚後に夫婦が協力して作り上げてきた財産を離婚時に分け合うことをいいます。
分与の対象となるのは現金、預貯金、不動産、年金、自動車、生命保険、株式、将来受けとる退職金などです。なおこの際は、プラスの財産だけではなく、住宅ローンや借金などのなどのマイナスの財産も財産分与の対象となります。

一方、独身時代からもっていた預貯金などは結婚後に得たわけではないので「特有財産」として財産分与の対象から外されます。

離婚の際には、別れたいという思いが強くなり「離婚する」ということばかりに気持ちが向かいがちで、財産の分け方について注意深く考えない人もいます。また、「自分名義の財産は自分のものだろう」と判断して、夫婦で分け合うという考えすらない人もいます。
しかし、離婚をする時には、夫婦の経済面での清算を行ってから離婚することが後々のトラブルを回避するためにも大切です。

そしてそのためには、対象となる財産やそれぞれの割合、実際の分け方について正しく理解する必要があります。

財産分与とは

財産分与とは、夫婦が結婚している間に協力して作り上げ維持してきた財産を、離婚する時に夫婦それぞれで分け合うことをいいます。財産分与は、結婚生活で夫婦が協力して得た財産を公平に分配することを基本的な目的としています。

この際対象となる財産は、結婚生活を始めた以降の財産でこれを「共有財産」といいます。
どちらの名義になっているのかとか、どちらが経済的により貢献したのかなどの事情は関係ありません。

有責配偶者も請求できる

財産分与は、暴力や浮気などの離婚原因をつくった側(いわゆる有責配偶者)からも、請求することができます。
たとえば妻の不倫が原因で離婚することになった場合でも、この不倫をした妻にも財産分与の権利があります。
離婚原因がどちらにあるにせよ、夫婦が結婚している間に協力し合って取得した財産である以上、離婚する際には必ず分け合うように法律で認められているからです。

ただし、不倫や暴力という原因をつくった側には、慰謝料を支払う義務が生じます。そこで、この慰謝料を別途請求する場合や、財産分与の一部として計上することもあります。

財産分与の割合の相場

財産分与の分配の相場は、原則2分の1ずつの割合とするのが現在の主流です。
収入を得ていたのが夫のみで妻は専業主婦で稼ぎ出した財産がなかったとしても、原則として2分の1です。
妻は家事や育児を担当することで夫の稼ぎに貢献していたものと考えられるからです。

財産分与の種類

一般的に使われる財産分与と法的な財産分与には、多少違いがあります。法的に認められる財産分与は、4種類あります。

(1)清算的財産分与
結婚してから夫婦で築いた共有財産の精算です。
財産分与の中心となるもので、夫婦それぞれの取り分は原則として1/2ですが、財産をつくるのにどれくらい貢献したかも考慮されます。専業主婦でも、家事労働を氷解して原則2分の1の寄与度を認める傾向にあります。

(2)扶養的財産分与
離婚後の生活に、経済的な支障がある場合に、経済的なメドが立つまで一時的な援助の意味合いで支払われるものです。
たとえば、就職するまでなど短期的な支援のようなものです。「離婚後扶養」として支払われることもあります。

離婚後扶養とは、離婚前の話し合いによって離婚後も一定期間、収入の多い方から収入の少ない方へ生活費の援助を行うという取り決めのことです。

ただし、この離婚後扶養には法律的な規定があるわけではありません。したがって、調停多裁判などでは、財産分与や慰謝料の名目で支払われるケースが多くあります。
夫婦それぞれの年齢や子どもがいるか否か、互いの収入の程度などによって金額や支払期間はさまざまです。

(3)慰謝料的財産分与
慰謝料の意味合いで、財産分与の一部に含まれるもの
慰謝料と財産分与は本来別の性質のもので、財産分与とは別に支払われるものです。しかし、慰謝料の取り決めがない場合や離婚時に慰謝料が十分考慮されていないときには、財産分与の際に慰謝料も含めて行う場合があります。

(4)婚姻費用
結婚している間の生活費。
離婚前であれば別居中であっても生活費の支払い義務があるので、未払い分があれば財産分与の中で考慮して支払うことがあります。
つまり、離婚前の婚姻費用の清算ができていない時には、過去に支払われなかった婚姻費用も含めて財産分与を行うこともあります。

(1)清算的財産分与

清算的財産分与とは、財産分与の主となるもので「結婚生活を始めてから夫婦が協力して築いてきた共有財産を夫婦で分け精算すること」です。
対象となるのは、夫婦が協力して購入した家屋や有価証券、美術品、宝飾品などがあげられます。

妻が専業主婦であり夫の収入だけで生活していた場合や、預貯金や不動産の名義が夫または妻である場合でも、財産を築き維持できたのは夫や妻の家事労働などの内助の功があったからとみなされるので、財産は夫婦共有のものと考えられます。

なお、夫婦であってもすべてを共有しているわけではなく、個人の所有と認められる財産は、財産分与の対象とはなりません。たとえば、独身時代に貯めたお金や購入したものは、財産分与の対象外です。

ただし、協議離婚の場合には、財産をどう分けるかは夫婦の自由です。一方調停や裁判になった場合には「その財産を築くのにお互いどのくらい貢献したか」という目安で分けられます。

なお、離婚する時には、この共有財産をそれぞれの貢献度によって分配していきます。貢献度は、原則として2分の1ずつとするのが現在の主流です。これは、妻が専業主婦の場合も過疎の家事労働を評価するので、同じように2分の1ずつです。

特有財産と共有財産がはっきりしていれば、それぞれ対処することができますが、実際は分配の仕方についてトラブルが生じることもあります。

たとえば、相手にプレゼントとして贈ったものは、相手に対する贈与として特有財産とみなされますが、「離婚したのだから、返してほしい」と主張されることも多く、協議が難航するケースもあります。

また、交渉前には、共有財産を正確に把握するためにも、なるべく早めに財産のリストアップをしておくことをおすすめします。財産は申告制なので、相手に隠されれば対象外になってしまうこともあります。したがって、協議離婚をするつもりでも、早めに弁護士に相談してどのような財産が共有財産となるのかについてアドバイスを受けておき、相手に隠されないように対策をとるようにしましょう。

(2)扶養的財産分与

夫婦の一方に離婚後の経済的な不安がある場合には、収入の多い方から少ない方に財産分与の名目で離婚後の生活を援助することがあります。

扶養的財産分与とは、このように離婚したあと夫婦の一方に経済的な不安がある場合に、もう一方が生活費を援助する意味での財産分与です。

扶養的財産分与は、請求する側の生活状況などを考慮して決められ、清算的財産分与や慰謝料とは別に加算されます。
たとえば「離婚後3年間、婚姻費用相当額の支払いを続ける」というような内容のものが、扶養的財産分与です。

夫婦に共有財産がなくても、離婚後の生活が経済的に不安定になる場合は、このような形で財産分与を請求できることがあります。

これまでずっと専業主婦だった場合や、小さなこどもがいてフルタイムで働くのが無理だったりする場合には、離婚後すぐに仕事を開始できない場合もあります。

しかし、妻は結婚生活を送るうえで家庭を守り、働く夫を支えて安定した収入に貢献してきたのです。離婚する夫婦でもしばらくは、前妻の生活費を援助すべきという考えは、自然であるといえるでしょう。

しかし実際には扶養的財産分与は、その他にも「夫の収入が多い」「離婚原因が夫にある」など複数の事情が考慮されてはじめて認められるものなので、実際にはほとんど認められませんので、「当然請求できる」と思い込むのは危険です。

(3)慰謝料的財産分与

慰謝料的財産分与とは、慰謝料の取り決めがない場合や慰謝料が十分に考慮されていない時に、慰謝料を含めた分与を行うことです。

離婚=慰謝料とイメージする人もいますが、慰謝料は離婚する時に必ずもらえるものではありません。

慰謝料は、離婚原因が浮気や暴力などの不法行為があり、精神的な苦痛を受けた時に損害賠償として請求できるものなので、慰謝料が発生しない場合の離婚(性格の不一致など)については、慰謝料的財産分与は発生しません。

たとえば、夫婦が双方とも不倫をしていた場合には、互いに慰謝料を請求できることになりますが、実際には痛み分けとして慰謝料の請求はなしと判断されます。たとえ、相手の浮気の方が先で、それが原因で自分が浮気をしたというような理由があったとしても、相手に慰謝料を請求することは難しくなります。

(4)婚姻費用の精算的な意味の慰謝料

婚姻費用とは、結婚生活を維持するための費用です。
専業主婦の場合には、生活費を渡すのは夫の役目で、共働き夫婦の場合には、協議で決めることになります。
婚姻費用には住居費、食費、医療費、交際費、養育費、教育費、医療費、娯楽費などが含まれます。
しかし、離婚の話し合いをしている時には別居中の相手から生活費を支払うよう言われても、払いたくないと思うケースが多く、実際勝手に家を出てしまい、婚姻費用の話し合いに応じないケースも多いようです。

婚姻費用の清算とは、離婚前の婚姻費用の清算ができていない時にその婚姻費用を実質的に財産分与に含める形で分与を行うことです。
つまり財産分与する際に婚姻費用が関係してくるのは、婚姻中に婚姻費用を請求しても分担されず、未払い状態にある時です。

共有財産に含まれる財産・含まれない財産

財産分与を行うときには、まず共有財産に含まれる財産・含まれない財産をリストアップする必要があります。
財産分与の対象となる夫婦の共有財産とは「婚姻期間中に夫婦が協力してつくり上げてきた共有財産のすべて」です。
具体的には、預貯金、現金、有価証券、投資信託、不動産、年金(保険料)、自動車、家財道具、ゴルフ会員権、将来受け取る予定の退職金、へそくりなどです。夫婦一方の名義になっているものでも、共有財産とみなされるものがあります。

「へそくりは自分の努力でつくったものなのだから、自分のものになる」と考える人がいます。しかし、実際には婚姻中に夫婦が協力して得た共有財産とされ、当然分与の対象となります。

ただし、調停や裁判で「○○円のへそくりがあります」と正確に申告しているケースはほとんどありません。ですから、相手がへそくりを確実に持っているということを証明できる証拠がない限り、へそくりについて財産分与の請求は難しくなってしまいます。

結婚前から所有しているものや相続した財産、携帯電話、パソコンなどは個人特有のもの「特有財産」として財産分与の対象にはなりません。
また、相手にプレゼントしたものも、贈与とみなされ共有財産とはみなされません。

不動産、自動車などの分配の仕方

不動産や自動車などそのままでは分配することができない場合には、それらの金銭的な価値(評価額)を出したうえで分け方を決めていきます。
不動産の評価額は時期によって変動するので、財産分与をする時点での評価額で計算します。この際問題となるのは「いくらで売れるか」で、いくらで買ったかは考慮されません。
評価額は個人で調べると、後々「本当はもっと価値があるのではないか」などのトラブルになりやすいので、弁護士に相談して、不動産業者や不動産鑑定士などの専門家と連携して、査定してもらうよう依頼する方がよいでしょう。

なお、自動車は中古車販売会社に査定を依頼すれば、市場価格を知ることができますので、あまりトラブルに発展するケースは少ないようです。

住宅ローンなどの負債や借金の分け方

共有財産には、プラスの財産だけではなく住宅ローンや借金などのマイナスの財産も含まれます。住宅ローンなどの大きな債務をどう分けるかが離婚時に大きな問題となることがありますが、売却できるものはローン残高と売却したときの差額を出して分与するのが一般的です。
ローン残高が上回る場合、つまり差額がマイナスになる場合には、離婚する前に物件を売却し、マイナス分をほかの共有財産(現金や預貯金など)を充ててローンを完済する方法が考えられます。

しかし、ローンが残っている場合には面倒な手続きが必要となります。債権者の審査や承認が必要となり、夫婦間だけでは進められないからです。購入時より売却価格や評価額が高くなっている場合には、譲渡所得税がかかることもあります。
早めに税理士や弁護士に相談した方が有利に交渉することができるでしょう。

退職金や年金の分け方

近い将来支給されることがすでに確定している退職金も、賃金の後払い的な性格をもっているため、財産分与の対象となります。
ただし定年退職までまだ相当の期間がある場合には、会社の経営状態や退職理由によっては退職金が支給されるかどうか分からないので、財産分与の対象とはされないことがあります。
離婚時にすでに支給されている退職金も、婚姻期間に対応する部分については財産分与の対象となります。
ただしすでに退職金が支給されていても、生活費などに費やしてもうなくなっている場合には、財産分与の対象とならない可能性があります。

そもそも退職金が支給されるのか否かは、会社の就業規則や支給実績を参考にして確認して、この退職金の分配をいつ請求するについても明確にしておく必要があります。

年金も分割の対象となりますが、分割の対象となるのは、夫が加入している厚生年金にあたる部分のみで、対象期間も婚姻中に限られています。夫が自営業などで厚生年金に加入したことがない場合には、年金分割はできません。

共有財産に含まれない財産

結婚前から所有しているものや、結婚前に貯めていた預貯金は個人特有のものであり「特有財産」として財産分与の対象にはなりません。

結婚前にした株式投資が結婚したあと成功した場合など、特有財産を資金として得た投資の利益も特有財産として認められるので、財産分与の対象にはなりません。

夫婦共働きで、結婚生活に必要な費用を収入に応じて分担し、それ以外の収入を各人名義の財産としていた財産も対象とはなりません。

父母などから相続したり贈与された財産も特有財産です。相続する権利は相続する本人のものだからです。なお、相続したのが借金だった場合のも特有財産として離婚後に相手に返済の義務を負わせることはできません。

特有財産とは

独身時代に手に入れた財産
・現金・預貯金
・株・債権
・不動産
・自動車
・家電・家財道具
・借金
・年金・生命保険・将来の退職金(独身時代に納めた額について)

相続した財産(生前贈与された資産も含む)
・現金・預貯金
・株・債権
・不動産
・自動車
・骨董品

個人で築いた財産
・独身時代に行った投資の配当金
・独身時代の財産で行った投資の配当金
・趣味やギャンブルなどで作った借金

単独で使用するもの
・男物・女物の区別があるアクセサリー、時計、バッグ
・携帯電話、パソコン
・日常的に消費されてしまうもの(洋服、靴など)
※ただし、高額な時計や宝石など、その取得や維持に他方が寄与しているといえる場合には共有財産として財産分与の対象となります。

財産分与の支払い方法・請求手続き

財産分与や慰謝料について話し合いがまとまったら、次は支払い方法や引き渡しについて話し合っておく必要があります。
受け取る側としては、財産分与や慰謝料は一括でもらいたいところでしょうが、支払う側の負担が大きくなるので、その場合には分割で支払ってもらうことになります。
ただし、分割払いとすると相手が失業した時などに支払ってもらえないリスクがあるからです。

共有財産には現金や預貯金以外にも不動産などが含まれていますので、そのような場合には、現物(不動産)で支払うこともできます。
現金で支払う場合には、「一括払いで支払う方法」と「分割払いで支払う方法」がありますが、受け取る側の立場でいえば「一括払い」が望ましいといえるでしょう。

財産分与の取り決めは公正証書にする

財産分与について取り決めたら、支払う月日、金額、期間、方法などをすべて文書にして公正証書にしておきましょう。強制執行認諾約款付きの公正証書にしておけば、支払いが滞った場合に強制執行することができるようになります。
なお、調停や離婚裁判で支払うことが決められた場合には、調停調書や判決に基づいて強制執行することができます。

離婚後に財産分与や慰謝料を請求する場合

離婚したあとでも、「年金分割をし忘れた」「共有財産のリストに漏れがあった」「自分の把握していない共有財産があった」など、もらうべき共有財産があることが分かった場合には、離婚後に財産分与請求調停や裁判を申立て財産分与を請求することができます。

財産分与の時効

財産分与について請求できる期間は2年です。
つまり、離婚が成立して2年が過ぎると相手に新たな支払いを請求することはできませんし、取り決めた内容を変更するよう求めることもできなくなります。

また財産分与について取決めた内容でも、請求せず支払いがなされないままの状態を放っておくと、支払う義務も支払ってもらえる権利も10年で消滅しまいます(消滅時効)。
支払ってくれない相手に交渉するのは気が重いことですが、弁護士に依頼すれば、相手との交渉はすべて弁護士が行ってくれるので、ストレスが大きく軽減されます。

まとめ

以上、財産分与の種類や分配の方法、注意すべき点などについてご紹介しました。
財産分与は、離婚の際にもっとももめるポイントのひとつで、相手が財産を隠してしまえば、現実問題として請求することはできなくなってしまいます。
したがって、離婚を考え始めたらすぐに弁護士に相談し、どのような対策が必要かアドバイスを受けることをおすすめします。