離婚裁判|弁護士なしで勝てるのか?

離婚裁判とは、家庭裁判所に離婚訴訟を起こし、「原告と被告を離婚する」という判決によって離婚をすることをいいます。
離婚裁判では、親権者の指定、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割についても、同時に請求することができます。

離婚裁判とは

協議離婚にも応じない、調停でも話し合いがつかない…それでもどうしても離婚したいという時、最後の手段は裁判です。

離婚裁判は、家庭裁判所の調停が不成立に終わった場合に離婚を求める訴訟を起こすことをいいます。訴訟を起こした者は「原告」、起こされた者は「被告」となり、法廷で戦うことになります。

訴訟を起こす裁判所は、原則として夫または妻の住所地の家庭裁判所ですが、調停を行った家庭裁判所で裁判を行う場合もあります。

(1)弁護士なしで勝てるのか

離婚は夫婦間の問題です。
しかし、裁判ともなると離婚を訴えた側を「原告」とし、訴えられた側を「被告」と呼んで、法廷で争うことになります。協議離婚や離婚調停で弁護士に依頼しないで相手と交渉をしていた人は、「裁判でも、弁護士がいなくても戦える」と思うかもしれません。しかし、裁判となるとこれまでの調停や審判とは異なります。
調停の申立書は、記載事例を参考に作成することができますが、訴状を作成するためには、やはり高度な法律の専門知識が必要です。

「調停を経験して家庭裁判所の雰囲気にも慣れたから、きっと裁判でも弁護士なしでも戦えるだろう」という考えは、通用しないと思っていた方がよいでしょう。

家庭裁判所の調停の場合には、一定の手続き規則に従った書類を提出し、自由に発言することができますが、裁判ともなればすべての手続きについて人事訴訟法や民事訴訟法その他の法律に従って行わなければなりません。

これらの知識がないと、たとえ離婚原因が相手の浮気や暴力だったとしても、不利な状況に追いやられてしまうこともあります。

(2)弁護士がいないことのメリット

弁護士がいないことのメリットといえば、弁護士費用がかからないことでしょう、
弁護士に相談するだけであれば、時間単位の料金ですが、裁判となると着手金や報酬金、その他実費ががかかります。

着手金や報酬金は、それぞれの事例によって異なりますが、日本弁護士会の調査によると、訴訟から受任した場合、53%が着手金30万円、26%が20万円かかったとしています。また、報酬金については、37%が30万円、20%が20万円かかったとしています。

▶ 日本弁護士会「市民のための弁護士報酬ガイド」

(3)弁護士がいないことのデメリット

弁護士がいないことの最大のデメリットは、自身が不利な状況になってしまうことです。
裁判では、証拠が大変重要です。自分の主張をいかに立証するかで勝敗が左右されるといっても過言ではありません。

しかし、何が裁判で有力な証拠として使えるのか、その証拠をどのように集め主張するべきなのかなどの判断ができないと、訴訟活動をすることは難しいのです。

ましてや、当事者は「自分が言っていることが真実なのだから、自分が勝つに決まっている」と思い込んでしまうものですから、裁判で自分勝手な主張を繰り広げてしまうこともあります。
そのような意味でも、第三者であり専門家である弁護士に依頼するのがよいということになるでしょう。

離婚裁判はどのように進むのか

離婚裁判は、家庭裁判所での調停が不成立に終わった時に起こします。
日本では、調停をしないでいきなり裁判を起こすことはできません。日本では「調停前置主義」という規定があり、調停を申し立ててからでないと裁判に進むことはできないことになっているからです。

なお、裁判は公開で行われます。したがって、夫婦間の問題やプライバシーな事柄が公になりますので、その覚悟をしっかり持つことを忘れないようにしましょう。
※本人や証人への尋問などでは、公開することによってその人の社会的生活に著しい支障をきたすと裁判所が判断した時には、非公開で行う場合もあります。

(1)訴状と必要書類を提出する

離婚裁判を起こすためには、管轄の家庭裁判所に訴状2通に必要書類を添えて提出します
これらの書類が受理されると、裁判所から原告と被告に第1回の口頭弁論期日を指定した呼出状が送達されてきます。
つまり被告は、この時初めて自分が訴えられたことを知ることになります。

(2)被告は答弁書を家庭裁判所と原告に送る

被告は、口頭弁論の前に訴状の内容を認めるか認めないか判断します。認めない場合にはその理由を記載した答弁書を裁判所と原告に提出します。
これによって、お互いの主張がそろうことになります。

(3)口頭弁論

第1回目の口頭弁論は、提訴から1カ月程度で行われます。初めの数回は、訴状や答弁書、事前に提出した準備書面、証拠品などをもとにそれぞれが主張を述べるだけなので、弁護士を代理人にした場合には、当事者が出廷しなくても問題はありません。
1カ月に1回程度、審理が重ねられ、「争点・書証の整理」「証拠調べ」とつづきます。双方の言い分が異なる部分を確認し、双方から提出された証拠書類を整理します。裁判で離婚が認められるには、原告側は離婚原因(不貞や暴力行為など)があることを立証しなければなりません。

離婚原因によっては、家庭裁判所の調査官が、法廷外で事実関係を調査することもあります。また、原告、被告それぞれに尋問が行われます。

判決が出るまでには、早くても半年、多くは1~2年かかります。

(4)和解離婚・認諾離婚

離婚裁判というと、判決が出るまで決着がつかないイメージがあると思いますが、裁判の途中で裁判官から和解を提案されます。双方がそれに応じれば和解離婚が成立しますし、被告が原告の言い分をすべて認めれば、「認諾離婚」が成立します。

和解離婚
争点が整理されたところで、裁判官から和解がすすめられます。
和解は、判決ではなく当事者同士の話し合いで双方が納得のいく形で裁判を終わらせる方法です。
和解によって離婚に同意した場合には、訴訟は終了し和解調書が作成され離婚が成立します。

和解勧告は、裁判中に何度も行われますが、納得しなければ応じる必要はありません。ただ、仮に裁判に勝ったとしても相手が控訴すると、長い裁判が続くおそれがある場合には、和解に応じた方がよい場合もあります。

認諾離婚
認諾離婚とは、被告が原告の言い分をすべて認めて離婚を承諾する場合です。
被告が離婚を承諾すると「請求の認諾」として訴訟は終了し、「認諾調書」が作成され離婚が成立します。

ただし、この請求の認諾ができるのは満20歳未満の子どもがいない場合で、慰謝料や財産分与などについて問題がない場合に限ります。

(5)結審・判決

裁判の途中で和解も取り下げもなく、審理が終え離婚裁判が終わることを「結審」といいます。結審後1カ月ほどで、裁判官が判決を下し、原告、被告双方に判決とその理由を記載した「判決書」が届きます。

原告からも被告からも不服申し立てがなければ、判決が確定します。
離婚請求を認める判決が確定すれば、裁判離婚が成立し離婚届を提出します。

離婚の手続きは、原則として原告側(離婚を請求する側)が行います。
協議離婚の場合には、証人2人や相手の署名捺印が必要ですが、裁判離婚の場合には署名捺印も証人も不要です。

離婚成立10日以内に、「判決書の謄本」「判決確定証明書」と「離婚届」を役所に提出します。

判決に不服がある場合には、送達後2週間以内であれば、高等裁判所に控訴することができます。

離婚裁判で勝つためには

これまでご紹介したように、裁判で勝つためには、証拠が何よりも大切です。また、そもそも離婚裁判とするためには、裁判で戦うことができる「法定離婚事由」があることが必要です。

(1)離婚裁判で勝つための「離婚原因」はあるか

裁判で離婚を争うためには、民法770条1項で定める離婚原因(法定離婚原因)が必要です。つまり、裁判で争うためにはそれなりの大義名分が必要である、というわけです。

民法第770条第1項で定められる法定離婚原因とは、次のとおりです。

1号 配偶者に不貞な行為があった時
2号 配偶者から悪意で遺棄された時
3号 配偶者の生死が3年以上明らかでない時
4号 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない時

なお、民法770条2項では、「裁判所は、前項第1号ないし第4号の事由がある時でも、一定の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認める時には、離婚の請求を棄却することができる」と規定しており、民法第770条第1項で定められる法定離婚原因があれば必ず離婚請求が認められるというわけではありません。

(2)裁判は、「証拠」で決まる

裁判は「証拠がすべて」です。

「相手が浮気をした」「相手が暴力をふるった」などの事実があっても、それらの事実を証明できるだけの証拠が必要です。

証拠といっても、当事者が目撃した情報では足りません。
たとえば、「夫は特定の女性から、頻繁にメールが届き、すぐ削除する」とか「週に1、2度、外泊する」などというのは、証拠としては弱いのです。
「メールやSNSを削除するなんて、怪しい」とか「妻の直感だ。間違いない」など、どんなに主張しても、残念ながらそれは証拠にはなりません。

動画やメール・SNSのやり取りなど、それを裏づける客観的な証明力のある証拠が必要です。

したがって、「客観的な証拠があるか」「それは裁判で使える証拠なのか」「その証拠が、裁判所に主張事実の存在を認めさせることができるか」などの判断が非常に重要であるということになります。

(3)中心となるのは当事者

離婚裁判では、夫婦を当事者として、進められます。
夫婦双方が法廷で証言台に立ち尋問されますし、時として親族などが証人として法廷に出頭することもあります。

夫婦生活の苦しみを公の場で語るのは、大変なストレスとなることがありますから、それだけの覚悟を持っておく必要があります。

なお、審理は原則として、公開されます。
ただし、裁判所が必要と判断した場合には、非公開とすることができます。

(4)一審で負けても控訴できる

一審で判決が出ても相手が納得できない場合には、控訴することができます。
裁判をする段階まできたということは、夫婦の対立が深刻な状態であることを示していますから、一審で負けてそのままということは少なく、控訴するケースも多くあります。
したがって、裁判をするうえでは「長い戦いになる」ということを覚悟しなければなりません。

また、口頭弁論中、被告側からも「離婚を求め、慰謝料○○万円の支払いを求める」といった、反対の請求をされることもあります。これを「反訴」といい、被告からの請求と原告の請求(本訴)とが同時に審理されます。

(5)離婚に強い弁護士を探す

協議や離婚調停をひとりで戦ってきたという人も、裁判となったら訴状の作成段階から弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士に依頼する時には、離婚問題にどれくらい経験があるのかを確認しましょう。友人や知人など、実際に離婚問題で弁護士に依頼したことがある人がいれば、その人の意見を聞くのもよいでしょう。

ただ、どんなに離婚問題に精通している弁護士でも、相性が悪い場合もあります。
弁護士とは、裁判の結審まで長く付き合いが続くことも考えられるので、「話を聞いてもらえない」「親身になってもらえない」などと感じた時には、弁護士を変えることも検討しましょう。

まとめ

以上、離婚裁判となった時に弁護士なしで勝てるのかについて、ご紹介しました。
本人訴訟といって、提訴する本人が訴状を作成して手続きを進めることもできますが、離婚裁判で勝つためには法律的な知識だけでなく、法廷テクニックも必要になりますので、弁護士に依頼した方が有利になる、ということができるでしょう。
特に相手が代理人として弁護士を依頼している時には、協議や調停の段階から弁護士に依頼することをおすすめします。