DNA鑑定とは?親子関係の調査の方法と費用

嫡出否認や親子関係不存在確認、認知などの家庭裁判所の手続では、血縁上の親子関係を確認するためにDNA鑑定が行われることがあります。
現在のDNA鑑定では、一般的に口の中の粘膜から採取した口腔内細胞などを使って、血縁上の親子関係を高い精度で調べることが可能です。

ただし、DNA鑑定によって血縁関係がないと判明しても、それだけで法律上の親子関係や戸籍の記載が自動的に変更されるわけではありません。
嫡出推定が及ぶ子との父子関係を否定する場合には、原則として嫡出否認の手続が必要です。嫡出推定が及ばない場合などには、親子関係不存在確認の調停や訴えを利用できることがあります。
2024年4月1日に施行された改正民法では、嫡出否認を申し立てられる人の範囲が広がり、手続期限も原則として1年から3年へ延長されました。

ここでは、親子関係を調べるDNA鑑定の方法や費用、鑑定を拒否した場合の扱い、血縁関係が否定された場合の養育費や慰謝料について解説します。

親子関係を調べるためのDNA鑑定

DNA鑑定は、父と子などの遺伝情報を比較し、血縁上の親子関係があるかどうかを科学的に調べる方法です。

家庭裁判所では、次のような事件でDNA鑑定が行われることがあります。

・嫡出否認
・親子関係不存在確認
・認知
・父を定める手続

ただし、すべての事件で必ずDNA鑑定が行われるわけではありません。
当事者の主張、婚姻や同居の状況、妊娠したと考えられる時期、戸籍の記載、関係者の合意などを踏まえ、裁判所が必要と判断した場合に鑑定が行われます。

親子関係不存在確認調停や認知調停について、裁判所も、親子関係の有無を明らかにするために鑑定を行う場合があると案内しています。鑑定費用は、原則として申立人が負担します。

DNA鑑定だけで法律上の親子関係は変わらない

DNA鑑定で血縁関係が否定されても、法律上の親子関係が直ちに消滅するわけではありません。

親子関係には、次の二つの側面があります。

・DNAなどによって確認される血縁上の親子関係
・民法や戸籍によって認められる法律上の親子関係

両者は必ずしも一致するとは限りません。
たとえば、民法の嫡出推定によって夫や前夫が父と推定されている場合、民間のDNA鑑定で血縁関係が否定されただけでは、戸籍上の父の記載は変更されません。

法律上の父子関係を否定するには、原則として家庭裁判所の嫡出否認調停または訴えを利用し、審判や判決などを得る必要があります。
最高裁判所も、嫡出推定が及ぶ父子関係については、DNA鑑定で血縁関係がないことが明らかになっただけで、当然に親子関係不存在確認の訴えによって父子関係を覆せるわけではないと判断しています。法律上の親子関係の安定や子どもの利益も考慮されるためです。

嫡出否認と親子関係不存在確認の違い

嫡出否認と親子関係不存在確認は、どちらも父子関係を争う場面で利用されますが、対象となるケースが異なります。

嫡出否認
婚姻中に生まれた子や、離婚後300日以内に生まれた子など、民法によって夫または前夫の子と推定される場合に、その父子関係を否定するための手続です。

2024年4月1日施行の改正民法により、一定の要件のもとで、次の人が嫡出否認を申し立てられるようになりました。

・父と推定される夫または前夫
・子ども
・母親
・一定の場合における母親の再婚前の夫

申立てができる期間は立場によって異なりますが、原則として、子どもの出生または出生を知った時から3年以内です。
なお、母親や子どもなどに申立権が認められる新しい制度は、原則として2024年4月1日以降に生まれた子について適用されます。

親子関係不存在確認
戸籍上は親子として記載されているものの、法律上の親子関係がそもそも成立していないことの確認を求める手続です。
たとえば、妊娠したと考えられる時期に夫婦が長期間別居しており、夫婦間に性交渉の可能性がなかったことが客観的に明らかな場合などには、親子関係不存在確認を利用できることがあります。

一方、嫡出推定が法律上及ぶ場合は、単にDNA鑑定で血縁が否定されたという理由だけで親子関係不存在確認を利用できるとは限らず、原則として嫡出否認の手続による必要があります。

認知を求める場合にもDNA鑑定が行われる

婚姻していない男女の間に生まれた子について、血縁上の父が任意に認知しない場合には、子どもなどが認知調停を申し立てることができます。
父が親子関係を否定している場合には、DNA鑑定が重要な証拠となることがあります。
認知調停で当事者間に合意が成立し、家庭裁判所が必要な調査を行ったうえで、その合意が正当であると認めた場合には、合意に相当する審判が行われます。
調停で合意できなければ、認知の訴えを提起して、裁判所の判決を求めることになります。

DNA鑑定に使われる検体

親子鑑定では、一般的に口腔内細胞が検体として使用されます。
専用の綿棒で頬の内側を数回こすって採取するため、痛みはほとんどなく、短時間で採取できます。
血液を使用する場合もありますが、現在は採取が簡単な口腔内細胞が広く使われています。

髪の毛、爪、歯ブラシ、たばこの吸い殻などに付着した細胞からDNAを抽出できる場合もあります。ただし、このような特殊な検体は、次のような問題があります。

・誰の検体か確認できない
・他人のDNAが混入している可能性がある
・十分な量のDNAを採取できないことがある
・裁判上の証拠としての信用性が低くなる
・本人の同意なく採取するとプライバシー上の問題が生じる

家庭裁判所の手続で行うDNA鑑定では、本人確認をしたうえで、指定された方法により検体を採取するのが一般的です。
民間業者へ歯ブラシや毛髪などを送って行う私的鑑定と、裁判所の手続で行う鑑定は、証拠としての扱いが異なることがあります。

本人に無断でDNA鑑定をしてよい?

市販品や民間業者を利用し、相手に知らせずにDNA鑑定を行うケースもあります。
しかし、DNA情報は、血縁関係だけでなく、個人の出自や遺伝的な情報にも関わる非常に機微性の高い情報です。
無断で使用した歯ブラシや毛髪などによる鑑定は、検体が本人のものか確認できず、裁判では信用性を争われる可能性があります。
また、鑑定対象者や子どものプライバシー、人格的利益を侵害するおそれもあります。

家庭裁判所での利用を想定している場合には、無断鑑定を進める前に弁護士へ相談し、裁判所の手続の中で適切な鑑定を行う方が安全です。

妊娠中にDNA親子鑑定はできる?

現在は、母体の血液に含まれる胎児由来のDNA断片を利用して、妊娠中に父子関係を調べるとする民間の検査があります。
このような検査では、母親から採血し、父親と推定される男性から口腔内細胞などを採取して比較します。

ただし、妊娠中の親子鑑定は、染色体疾患などを調べる一般的なNIPTとは目的が異なります。
NIPTの認証医療機関制度は、胎児の染色体疾患を調べる出生前検査を対象としたものであり、父子関係を確認する親子鑑定を認証する制度ではありません。
また、民間業者による出生前親子鑑定については、検査方法、精度管理、本人確認、説明体制などが業者によって異なります。結果をそのまま裁判上の確定的な証拠として利用できるとは限りません。

羊水や絨毛を採取する親子鑑定にはリスクがある

羊水検査や絨毛検査によって胎児の細胞を採取し、親子鑑定を行うことも技術的には可能です。
しかし、羊水穿刺や絨毛採取は母体の子宮内に器具を入れる侵襲的な処置であり、わずかながら流産などのリスクを伴います。

日本産科婦人科学会は、法的措置による場合などを除き、出生前親子鑑定のような医療目的ではない遺伝子検査のために、羊水穿刺などの侵襲的な医療行為を行わないよう求めてきました。
親子関係の確認だけを目的として、安易に羊水検査や絨毛検査を受けることは避けるべきです。
妊娠中の鑑定を検討する場合には、検査業者だけでなく、産婦人科医や弁護士にも相談し、母体と胎児への影響、結果の利用目的、出生後に改めて鑑定が必要になる可能性を確認しましょう。

DNA鑑定の費用と期間

家庭裁判所の親子関係不存在確認調停、嫡出否認、認知などの手続でDNA鑑定を行う場合、鑑定費用は原則として申立人が予納します。
裁判所の案内では、事案によって異なるものの、鑑定費用として約10万円または10数万円程度が必要とされる例があります。

ただし、実際の金額は、次の事情によって異なります。

・鑑定する人数
・検体の種類
・鑑定機関
・当事者が国内にいるか
・再鑑定が必要か
・本人確認や出張採取が必要か

鑑定結果が出るまでの期間も一律ではありません。検体採取後、数週間程度かかることがありますが、裁判所の手続全体は、期日の調整や当事者の対応などによってさらに長くなることがあります。
「10日から15日で必ず結果が出る」と断定するのは避け、申立先の家庭裁判所や鑑定機関に確認しましょう。

私的なDNA鑑定と裁判用DNA鑑定の違い

民間のDNA鑑定には、主に次の二つがあります。

・個人的な確認を目的とする私的鑑定
・裁判や行政手続での利用を想定した法的鑑定

私的鑑定は、検体を自宅で採取して郵送できることがあります。費用を抑えられる一方、本人確認や採取の立会いがないため、誰の検体か争われる可能性があります。

法的鑑定では、通常、本人確認を行い、第三者の立会いや指定された施設で検体を採取します。検体の採取から鑑定までの管理過程が記録されるため、裁判上の証拠として提出することを想定した形式になっています。

家庭裁判所で親子関係を争う予定がある場合には、先に私的鑑定を行っても、裁判所から改めて鑑定を求められる可能性があります。

DNA鑑定を拒否するとどうなる?

DNA鑑定は身体への侵襲やプライバシーに関わるため、相手を物理的に拘束して強制的に口腔内細胞などを採取することは、通常行われません。
そのため、当事者がDNA鑑定に応じないケースもあります。

ただし、正当な理由なく鑑定を拒否した場合、裁判所がその態度を含め、ほかの証拠と合わせて事実を判断することがあります。
鑑定を拒否しただけで、直ちに親子関係がある、またはないと確定するわけではありません。
裁判所は、次のような事情も総合的に確認します。

・妊娠したと考えられる時期の交際関係
・夫婦の同居や別居の状況
・性交渉の可能性
・出生時期
・血液型
・当事者間のメールやメッセージ
・出産費用や生活費の支払い
・父親として行動していたか
・DNA鑑定を拒否した理由

「拒否すると必ず裁判で負ける」「受けておいた方がよい」と一律に説明するのは適切ではありません。
子どもの意思やプライバシー、検体採取の方法などに問題がある場合も考えられます。鑑定を求められた場合には、拒否または承諾する前に、鑑定の目的や方法を確認し、弁護士へ相談しましょう。

血縁関係が否定された場合

DNA鑑定によって血縁関係が否定された場合でも、慰謝料や養育費が直ちにどうなるかは、個別の事情によって異なります。
まず、家庭裁判所の手続によって法律上の父子関係が否定されたかどうかを確認する必要があります。
私的なDNA鑑定で血縁関係が否定されただけでは、法律上の父子関係や養育費の支払義務が当然に消滅するわけではありません。

将来の養育費はどうなる?

嫡出否認や親子関係不存在確認の手続によって、法律上の父子関係が否定された場合には、その男性は原則として父としての扶養義務を負わなくなります。

ただし、すでに調停調書、公正証書、判決などで養育費が決まっている場合に、DNA鑑定の結果だけを理由として一方的に支払いを止めることは危険です。
法律上の父子関係を否定する審判や判決などを得たうえで、養育費の取決めについても必要な手続を行うべきです。
嫡出否認には申立期限があります。期限を過ぎ、法律上の父子関係を否定できない場合には、DNA鑑定で血縁関係がないと判明しても、法律上の父として扶養義務が残る可能性があります。

過去に支払った養育費は返してもらえる?

法律上の父子関係が否定されたからといって、過去に支払った養育費が当然に全額返還されるわけではありません。
過去の養育費は、すでに子どもの生活費、教育費、医療費などとして使われていることが一般的です。

返還を求められるかどうかは、次のような事情によって判断が異なります。

・法律上の父子関係がいつ、どの手続で否定されたか
・養育費の取決めがあったか
・支払った男性が血縁関係がないことを知っていたか
・母親が血縁関係について虚偽の説明をしていたか
・支払いが子どものための扶養として行われたか
・返還を求める法的根拠があるか
・消滅時効が完成していないか

不当利得返還請求や損害賠償請求が検討される場合はありますが、個別性が高く、必ず認められるものではありません。
子ども本人に対して、生活のために使われた養育費の返還を求めることも、容易には認められません。
過去の養育費の返還を検討する場合には、父子関係を否定する手続と合わせて、弁護士へ相談する必要があります。

慰謝料を請求できる場合

DNA鑑定で夫の血縁上の子ではないと判明し、妻または元妻の不貞行為が明らかになった場合には、夫または元夫が慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、血縁関係がないという事実だけで、直ちに不貞行為や慰謝料請求が認められるわけではありません。

慰謝料請求が認められるためには、一般的に次のような事情を確認する必要があります。

・婚姻中に配偶者以外の人と性的関係があったか
・交際時点で夫婦関係がすでに破綻していなかったか
・相手が既婚者であることを知っていたか
・故意または過失があったか
・精神的損害が生じたか

妻が父子関係について意図的に虚偽の説明をし、夫が長期間にわたって父親として養育費などを負担した場合には、不貞慰謝料とは別に、欺罔行為などを理由とする損害賠償が問題になることもあります。
しかし、請求が認められるか、どの範囲の損害が認められるかは事案によって大きく異なります。

慰謝料や損害賠償の時効

不法行為を理由とする慰謝料や損害賠償請求は、原則として、被害者が損害と加害者を知った時から3年間行使しないと時効によって消滅します。
また、不法行為の時から20年が経過した場合にも、原則として請求できなくなります。

ただし、いつ「損害と加害者を知った」といえるかは、DNA鑑定を行った日、鑑定結果を知った日、不貞相手を特定した日などによって争いになることがあります。

父子関係の否定、養育費の返還、慰謝料請求では、それぞれ期限や時効の起算点が異なるため、早めに専門家へ相談しましょう。

DNA鑑定を行う前に確認したいこと

DNA鑑定の結果は、父母だけでなく、子どもの生活やアイデンティティーにも大きな影響を与えることがあります。
鑑定を行う前に、次の点を確認しておきましょう。

・鑑定の目的
・結果を誰に伝えるか
・子どもにどのように説明するか
・法的手続に使用する予定があるか
・嫡出否認などの期限を過ぎていないか
・法律上の父子関係を変更できるケースか
・鑑定後の養育費や戸籍をどうするか
・検体の採取について本人の同意があるか
・鑑定機関の本人確認や精度管理が十分か

とくに、未成年の子どものDNA鑑定では、親の知りたいという希望だけでなく、子どもの利益やプライバシーも考える必要があります。
夫婦間の争いの証拠として子どもを利用したり、結果を感情的に本人へ伝えたりすることは避けなければなりません。

まとめ

DNA鑑定は、血縁上の親子関係を科学的に確認するための有力な方法です。嫡出否認、親子関係不存在確認、認知などの家庭裁判所の手続でも、必要に応じてDNA鑑定が行われます。

ただし、DNA鑑定によって血縁関係が否定されても、法律上の親子関係や戸籍の記載が自動的に変わるわけではありません。
嫡出推定が及ぶ場合には、原則として嫡出否認の手続が必要です。2024年4月1日の法改正により、一定の場合には夫や前夫だけでなく、母親や子どもなども嫡出否認を求められるようになり、申立期限は原則として3年に延長されました。

DNA鑑定には、通常、口腔内細胞が使用されます。毛髪や歯ブラシなどを使う私的鑑定もありますが、本人確認や検体の管理に問題がある場合には、裁判上の信用性が低くなる可能性があります。
妊娠中の親子鑑定を提供する民間業者もありますが、一般的なNIPTとは目的が異なります。羊水や絨毛を採取する検査には流産などのリスクがあるため、親子鑑定だけを目的として安易に受けるべきではありません。
また、法律上の父子関係が否定されても、過去に支払った養育費が当然に全額返還されるわけではありません。慰謝料や損害賠償についても、不貞行為、虚偽の説明、婚姻関係の状況などを個別に検討する必要があります。

親子関係をめぐる手続には期限があり、子どもの戸籍や養育費、相続にも影響します。DNA鑑定を行う前に、家庭裁判所の手続でどのように利用するのかを整理し、弁護士などへ相談することが大切です。