事実婚・内縁関係|メリットやデメリットは?配偶者や子どもの権利は?

事実婚・内縁関係と認められると、民法の婚姻に関する規定が準用され、できるだけ夫婦と同じような権利や義務が認められるようになっています。

この記事では、事実婚・内縁関係のメリットやデメリット、配偶者の権利や子どもの権利についてご紹介します。

事実婚・内縁関係とは

内縁関係とは、婚姻届は出していないけれど、生活をともにした夫婦同然の関係のことをいいます。「事実婚」と呼ばれることもあり、事実婚と内縁関係は、ほぼ同じ意味で使われています。

厳密には、内縁関係は、「さまざまな事情から婚姻届を出せない関係」という意味で使われ、事実婚は「自分たちの意思で婚姻届を出さない」という意味で使われるケースが多いようです。

「カップルがいっしょに暮している」という場合には、同棲となります。したがって、一緒に住めばそれがすぐに法的な意味での「事実婚」「内縁関係」と認められるわけではありません。

過去の裁判例によると、いわゆる同棲ではなく、事実婚・内縁関係というためには、①婚姻届は出していないが婚姻意思があり、②実質上の夫婦とした共同生活があり、③社会的にも、夫婦同然と認められているという3つの要素があることが必要とされています。

事実婚・内縁関係のメリット

事実婚を選ぶカップルは、以下のようなメリットを重視しているようです。

・姓が変わらないので、仕事上便利である
・互いの実家や親族と、ほどよい距離をとることができる
・税務上のデメリットがない

なお、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない義務がありますが、事実婚・内縁関係にもこれが準用されます。
生活費(婚姻費用)の請求ができる場合もありますし、不貞行為などをした場合には慰謝料などを請求できる可能性もあります。
また、内縁夫婦の共有財産として一定の寄与・貢献度があると認められれば、財産分与を請求できる可能性もあります。

事実婚・内縁関係のデメリット

夫婦2人だけであれば、事実婚・内縁関係はメリットがたくさんあるように思えます。しかし、子どもができたときにはデメリットを感じるケースが多いようです。

たとえば、生まれた子どもは非嫡出子となって母親の戸籍に入り、母の氏を名のることになり、子どもの戸籍上の父親の欄は空白のままになってしまいます。

子どもの戸籍の父親の欄に氏名が記載されるためには、子どもが父親に認知されることが必要となります。

また、内縁関係には既婚者と愛人という関係もあります。つまり、2人のうち一方あるいは両方が法律的な配偶者がいる場合です。この場合には、別の人との婚姻関係が継続されているので、「重婚的内縁関係」といいます。
しかし、別居生活が長く内縁関係の相手との生活が長い場合には、内縁関係であっても法的な保護が与えられることがあります。

過去には戸籍上の妻ではなく、内縁関係の女性に遺族年金の受給が認められた判例もあります。

事実婚・内縁関係の妻の権利

夫婦が同居して、夫婦と変わらない生活があり社会的にも夫婦同然と認められれば、、事実婚・内縁関係ということになり、一定の法的な保護が与えられます。

法律婚夫婦と同様、同居義務などはある

事実婚・内縁関係は、単なる同棲と違い、同居して夫婦としての結婚生活を営んでいるので、法律婚の夫婦と同様「同居義務」「協力する義務」「扶助の義務」「貞操の義務」があります。

たとえば夫が妻に生活費を渡さなくなれば、妻は夫に対して生活費を払うよう要求することができますし、子どもを父親が認知すれば父親はその子どもを扶養する義務が発生し、養育費を請求することができます。

また、事実婚・内縁関係で築いた財産があれば、その財産は共有財産となり財産分与の対象となります。
また、不貞や暴力などが原因で事実婚・内縁関係を解消せざるを得なくなった場合には慰謝料を請求することもできます。

相続権はないので遺言書などが必要

内縁関係の夫婦は、同居期間がどんなに長くても、遺産を相続することはできません。内縁の妻に対する財産承継が認められるのは、以下の制度を利用することになります。

遺言による遺贈
被相続人(亡くなった人)が、遺産の一部または全部を内縁の夫もしくは妻に遺贈するという意思を遺言書にしておいた場合です。

生前贈与・死因贈与
被相続人が生前に内縁の夫もしくは妻に対して贈与を行った場合には、財産が継承されます。被相続人の死亡により効力が発生する贈与契約(死因贈与)が締結されていた場合も内縁の夫もしくは妻に財産が承継されます。

特別縁故者の制度
民法では、第958条の3の第2項では、「被相続人と生計を同じくしていた者や、被相続人の療養看護に努めたなどの特別の縁故があった者の請求から請求があった場合には、相続財産の全部又は一部を与えることができる。」と規定しています。

内縁の妻(夫)は法定相続人となりませんが、この特別縁故者に対する財産分与の制度を利用することによって、内縁の内縁の夫もしくは妻が被相続人の財産を取得できる場合があります。

事実婚・内縁関係の子どもの権利

事実婚・内縁関係の男女に子どもがいる場合には、その子どもは「非嫡出子」として母親の戸籍に入り、父親の欄は空欄となります。

親権者は原則として母親

未婚の女性が子どもを産んだ場合には、通常その生まれた子どもは「非嫡出子」となり、母親と同じ姓を名乗ることになります。親権者も原則として母親にありますが、話し合って合意すれば父親を親権者とすることもできます。
なお、子どもを父親と同じ席に入れるには、まず同じ姓に変更する必要があるので、家庭裁判所に子どもの氏の変更許可を申し立てることになります。

申し立てに必要な書類は、以下のとおりです。

①申立書
②標準的な申立添付書類
③申立人(子)の戸籍謄本(全部事項証明書)
④•収入印紙800円分(子1人につき)・•連絡用の郵便切手

▶ 家庭裁判所「子の氏の変更許可」

父親に認知してもらう重要性

事実婚・内縁関係の男女に子どもがいる場合には、その子どもを父親が認知するかどうかがポイントとなります。男性が認知の手続きをすれば、父親と子どもの間に法律上の親子関係が生じて、扶養の義務が発生します。
父親に扶養義務がないと、事実婚・内縁関係を解消したときに養育費を請求できなくなるので、必ず父親には認知の手続きをしてもらいましょう。

また、父親が認知をすると、父親と子どもの親子関係は法的に認められるので、父親の遺産を相続する権利が発生します。認知しないまま父親が死亡した場合には、3年以内なら裁判所に認知を提起することができます。

事実婚・内縁関係の住民票

住民票とは、「誰と誰ががどのような関係で住んでいるか」を証明するものです。
内縁関係・事実婚の場合に住民票にどのように記載するかについては「住民基本台帳事務処理要領」で下記のとおり規定しています。

・ 内縁の夫婦は、法律上の夫婦ではないが準婚として各種の社会保障の面では法律上の夫婦と同じ取扱いを受けているので「夫(未届)、妻(未届)」と記載する。
・ 内縁の夫婦の子の世帯主(夫)との続柄は、世帯主である父の認知がある場合には「子」と記載し、世帯主である父の認知がない場合には「妻(未届)の子」と記載する。

事実婚・内縁関係を解消したい時は

事実婚・内縁関係を解消したい時には、法的手続きは特に必要ありませんが、財産分与や慰謝料の請求はできます。

慰謝料を請求できることもある

パートナーの不貞行為や暴力などがあった場合には、法律婚のときと同様に慰謝料を請求することができます。

慰謝料の額は、個々の状況や証拠の有無によって大きく異なりますが、過去の事例からみると、内縁関係・事実婚の期間が長いと慰謝料の額も上がる傾向にあります。しかし、期間が長いからといって必ずしも慰謝料の額が上がるとは限らないので注意が必要です。

原因別の慰謝料相場
・浮気
100万~500万円

・DV
50万~500万円

・悪意の遺棄
50万~300万円

・性行為の拒否
100万~300万円

期間別の慰謝料相場
・5年未満
平均193万円

・5年以上
平均305万円

・10年以上
平均430万円

・15年以上
平均530万円

・20年以上
平均700万円

事実婚・内縁関係を解消したいのに、その条件などについて話し合いがまとまらない時には、家庭裁判所に調停を申したたえることもできます。財産分与や慰謝料、子どもがいる場合など、普通の離婚調停と同じように進められます。

調停の申立ては、相手方の住所地の家庭裁判所、またはは当事者が合意で決めた家庭裁判所に対して行います。
申立書の他、手数料として収入印紙1,200円と連絡用郵便切手800円程度も必要です。
調停が成立しない場合には、裁判を起こして請求することになります。

申立書の記載方法については、以下の記載例を参考にしてください。

内縁関係調整調停申立書の記載事例

▶ 家庭裁判所「内縁関係調整調停」

事実婚・内縁関係の証拠が必要

内縁関係調整調停で問題になるのは、事実婚に婚姻届がなく、夫婦となった年月日をはっきり証明できないケースです。

財産分与や年金分割が適用されるのは、事実婚・内縁関係があった期間に築き上げた財産なので、期間を明確にしないと分割することができなくなってしまいます。
したがって、慰謝料を請求する際の証拠(浮気の証拠や暴力の証拠)だけでなく、事実婚の開始日が分かる証拠も揃えておきましょう。

・住民票
同じ住所に移動したことを記載する住民票は裁判の際に事実婚を証明する書類になります。

・友人の証言
結婚披露宴をした時の、披露宴に参加した友人の証言も、事実婚を証明するための有力な証拠とすることができます。

まとめ

以上、事実婚・内縁関係のメリットやデメリット、配偶者や子どもの権利についてご紹介しました。
事実婚・内縁関係を解消するのは、婚姻届を出していないので離婚届は不要ですが、2人で築き上げた財産などがあれば、その財産は夫婦と同じように財産分与の対象となります。また、事実婚・内縁関係を解消する原因をつくった側に慰謝料を請求することもできます。不明点や疑問点がある場合には、弁護士等に相談するようにしましょう。