DV離婚の慰謝料はいくら?|相場・証拠・増額する方法

DVを理由に離婚をする場合の慰謝料の額は、50万円~500万円の範囲内である場合がほとんどです。ただし、これはあくまでも目安額です。

実際に慰謝料の金額を決める場合には、婚姻期間や支払う側の資力、離婚原因となった行為の内容など、さまざまな事項を考慮して決められることになります。

また、実際に身体や精神状態、生活にどのような被害が出たかを証明するための証拠があるか否かも非常に重要です。

暴力を受けた場合のケガの写真やうつ病、PTSDを発症した場合は、その精神障害についての診断書などもきちんともらっておきましょう。

この記事では、DVの慰謝料の目安と請求方法、増額したい時に必要な証拠などについて、ご紹介します。

DVの慰謝料相場

DVの慰謝料の額については算定表のようなものがある訳ではありません。自分が受けた苦痛の程度や期間を中心として、相手の悪意や離婚原因の大きさなど、さまざまな要素を金額に換算して出すことになります。

DVの被害に遭えば、相手を許せない気持ちになるのは当然です。
しかし、だからと言って「このくらい払ってもらわないと、気持ちが収まらない」と、怒りに任せてあまりに高額な慰謝料を請求しても、話し合いが進まなくなるだけです。

慰謝料に算定基準がないとはいえ、それなりの相場というものがありますので、まずは相場を知り、どのような要素が慰謝料の金額を左右するのかを理解して、折れるところは折れ、冷静に早期解決を目指す方が得策です。

相場は50万円~500万円

DVの慰謝料の額は、苦痛の程度・期間・回数、責任の重さ、結婚生活の期間診断書の有無など、さまざまな要素で左右されます。過去の判例を見ても、50万円~500万円の間が多数を占めています。

過去事例(1)慰謝料400万円(H17.6.22)

夫の意向に沿わない妻の態度について、極端に侮辱し暴行を加えたことが、「婚姻を継続しがたい事由」にあたり、慰謝料認定額400万円としたケースです(東京地裁平成17年6月22日判決)

・婚姻期間 20年~30年
・離婚原因 DV(暴力)
・慰謝料認定額 400万円(請求額500万円)

過去事例(2)慰謝料300万円(H21.8.28)

離婚したい夫が妻の首を絞め、無理やり離婚届を書くよう書かせようとして脅迫したことが、「婚姻を継続しがたい事由」にあたり、慰謝料認定額300万円としたケースです(東京地裁平成21年8月28日判決)。

・婚姻期間 30年以上
・離婚原因 DV(暴力)
・慰謝料認定額 300万円(請求額500万円)

過去事例(3)慰謝料200万円(H21.7.27)

夫からの暴力によって腰の骨にひびが入り、肋骨不全骨折したことが、「婚姻を継続しがたい事由」にあたり、慰謝料認定額200万円としたケースです。このケースでは、その骨折の診断書もあります(東京地判平成18年7月27日)。

・婚姻期間 10年~20年
・離婚原因 DV(暴力)
・慰謝料認定額 200万円(請求額2500万円)

過去事例(4)慰謝料100万円(H18.1.17)

夫の度重なる暴力、暴言が「婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたるとされ、慰謝料が認められた事例です(東京地裁18年1月17日判決)。

・婚姻期間 5年未満
・離婚原因 DV(暴力、暴言)
・慰謝料認定額 100万円(請求額500万円)

過去事例(5)慰謝料50万円(H18.8.28)

夫の暴力の他、間接的な暴行(物を投げるなど)の他、性格の不一致、生活費を渡さないなど経済的な暴力も算定要素とされた事例です(東京地裁18年1月17日判決)。

・婚姻期間 5年未満
・離婚原因 DV(身体的暴力、経済的暴力)
・慰謝料認定額 50万円(請求額500万円)

そもそもDVって?

DVの慰謝料を請求したいと思っていても、具体的にどのような行為がDVに当たるのか、知らない方も多いようです。

「髪を引っ張ってもケガをしていないのだから、DVじゃない」「悪いのはお前だ」という加害者の言い分をそもなな信用してしまっている方も多くいます。

そこで、ここでは改めてDVとはどのような行為をいうのか確認しておきましょう。

DV(ドメスティックバイオレンス)とは、パートナーなどの親密な関係にある相手から受ける暴力のことをいいます。ここでいう「暴力」には身体的な暴力だけではなく精神的な暴力や、性的暴力、生活費を渡さないなどの経済的な暴力も含まれます。

(1)身体的暴力

DVの「身体的暴力」とは、殴る、ける、平手でうつ、ものを投げつけるなどの身体に対する暴力のことです。

・髪の毛を引っ張ってひきずり回したり、蹴とばしたりする
・部屋中の物を壁に投げつける
・刃物などの凶器を顔の前に突きつける
・スカーフなどで首を締めあげる
・腕をねじ上げて、家の外に引きずり出す
・げんこつで殴りつける、酒の瓶で殴りつける
・階段の上から肩を叩き、落とそうとする
・やけどをさせる

(2)精神的な暴力

DVには、暴言や、大声で怒鳴る、長時間無視する、などの精神的な暴力も含まれます。精神的な暴力をうけた被害者は、PTSD(外傷後ストレス障害)や、うつ病を発症するケースもあり、刑法上の傷害と言えるほどの精神障害を発症した場合は、刑法上の傷害罪として処罰されることもあります。

・大声で怒鳴りつける、暴言を浴びせる
・「誰のおかげで生活できると思っているんだ」と高圧的に言い口答えを許さない
・長時間無視する
・大切にしているものを、わざと壊す、わざと捨てる
・子どもに危害を加えると脅す
・殴るふりをしておどす
・離婚を願うことはわがままであると思い込ませる

(3)性的な暴力

性的関係を強要したり、中絶を強要するなどの性的な暴力もDVとされます。性的な関係は、それが夫婦間の性交であったとしてもも、強姦罪(刑法第177条)に当たる場合があります

・無理やりポルノビデオやポルノ雑誌をみせる
・性行為を強要し、拒否すると暴言を吐く
・妊娠した者が望んでいないにも関わらず中絶を強要する
・避妊に協力せずに性行為を行う

(4)経済的暴力

生活費を渡さなかったり、外で働くことを許さない行為は、DVの「経済的暴力」にあたる可能性があります。

・十分な生活費を渡さず、必要以上に節約を強要する
・働きたいと望んでいるにも関わらず外で働くことを許さない
・仕事を辞めさせる
・支出をこまかく監視する

(5)社会的暴力

人間関係を監視したり、行動を監視・制限する行為は、社会的暴力にあたる可能性があります。

・実家や友人との電話や手紙を細かくチェックし、付き合いを制限する
・人の前でバカにしたり、命令口調で話をする
・友人との旅行を許さない

DVの慰謝料金額を増額されるケース

DVは法定離婚原因に該当するので、DVを理由に離婚をすることができます。
さらに、裁判の前段階での協議や調停でも、DVの証拠があれば、離婚を有利に進めることができ慰謝料を増額できる可能性があります。
離婚裁判になった場合にも不可欠となるのが、DVを裏づける証拠です。

(1)DVを裏付ける証拠

DVを裏づける証拠として最も有効なのは、暴力をふるわれている時や暴言をはかれている際の録画や録音です。

「壊されたスマホの画像」や、「壁を殴って空いた穴」などは、それが加害者の暴力によるものなのか証明できないと、証拠と主張しても難しくなります。

もし、「DV加害者が怖くて、録画や録音などできない」という場合には、友人へ相談しているメール履歴も証拠になります。また、日々の暴力や暴言態度を記載した日記や、警察への相談実績なども有力な証拠になります。

なお、日記やメモを記す場合は「〇月△日、×時頃、殴る蹴るの暴行を受け、スカーフで首を締めつけられた」「〇月△日、×時に何度も死ねと言われ、その後何時間も無視された」「人前で何度も怒鳴られ罵倒された」など、DVについて可能な限り詳細をメモするようにしましょう。

相手の暴力がどの程度なのか、どのくらいの頻度で受けていたのかを証明することが、判決における請求額のカギとなり、慰謝料の額に影響します。

(2)加害者の経済力・社会的地位

加害者の経済力や社会的な地位も、慰謝料の額を左右します。
この時、加害者自身に財産はなくても、実父の会社に勤めているなど、いずれは社長になる立場にある場合などの事情がある場合は、それも考慮されます。

過去には、夫の暴力と不貞行為によって、離婚した事例(結婚生活15年 最後の2年は別居)で、現時点で夫名義のめぼしい財産はないものの、夫は実父が社長をしている家業に従事していて、いずれは家業を引継ぐこととみられることから、将来の社会的経済的地位が考慮された事例があります。

この事例では、財産分与300万円、慰謝料200万円、夫の愛人に対して100万円の慰謝料を支払うよう命じました(水戸地裁 昭和51年7月19日)。

(3)子どもの有無

子どもがいるかいないかも、慰謝料の額に影響を及ぼすことがあります。
子どもがいないと経済的な負担が少なく、離婚のハードルが低くなるケースが多いからです。しかし、子どもがいないからと言って、かならず慰謝料の額が低くなるわけではありません。
繰り返しになりますが、DVの頻度や苦痛の程度、期間、証拠の有無などから、慰謝料が増額できる可能性は十分あります。

DV被害に遭った時に知っておきたいこと

DV被害者のなかには、日常的に繰り返す暴力・暴言などに慣れてしまい、「悪いのは私の方だ」と思い込んでしまっているケースも少なくありません。加害者の機嫌のよい時には優しくされるので、感覚が麻痺してしまうようです。
また、日常的なDVに諦め、無気力となり、今の生活を失うよりマシだ、という理由から、DVを隠す傾向も見られます。
しかし、悪いのは被害者ではなく加害者です。そして、DVは必ず繰り返されしかもエスカレートしていきます。
DVは、以前は「家庭内のもめ事」と軽視されるケースが多かったのですが、DV防止法の制定・改正により「いかなる場合でも、暴力は許されない」という考え方が広がっています。

(1)DVは繰り返される

暴力が繰り返されている場合には、一刻も早く加害者から離れることが大切です。

実家に避難することもお勧めですが、実家の両親が離婚に反対している場合などは、居心地が悪かったり、戻るように説得されたりしてしまう場合もあります。

安全な避難先を見つけることが難しい場合には、警察または都道府県に設置されている配偶者暴力相談支援センターに相談すると、一時保護などの措置を受けられます。
また、DVシェルターへの入居を紹介してくれる場合もあります。

DVシェルターの利用法については、下記の記事で詳しくご紹介しています。あわせてご覧ください。

▶ DVシェルターの利用法&知っておきたい8つのこと

(2)「愛しているからやった」に騙されない

暴力をふるう夫のなかには、暴力をふるった後に別人のようにやさしくなって「愛しているからやった」「悪いのはお前だ。お前のためを思ってやった」など言い訳をしながら謝る人がいます。

暴力をふるわれた妻も、暴力と謝罪が繰り返されるパターンに慣れてしまい「怖いのは一時だけ」「本当はやさしい人で、私を愛してくれる」と感覚が麻痺して離婚を思い立っても我慢してしまうのです。

しかし、「愛しているから暴力を振るう」などの言い訳が通用するはずがありません。そして、残念ですがこのようなパターンは、これから先ずっと繰り返されます。暴力によって服従する妻に対してはますますエスカレートすることもあります。

(3)子どもへの悪影響もある

DVは、子どもへの暴力、虐待につながることもあります。
また、暴力をふるう親を見たり、子ども自身が暴力を受けたりすると、子どもの心は深く傷つきます。DVは将来にわたって連鎖し、子どもが成長して将来暴力をふるうようになってしまうこともあるのです。

実際、子どもを虐待する親には子ども時代に父親が母親に暴力をふるうのを見て育った人や、虐待された経験のある人が少なくないのです。

「子どものためにDVを我慢する」は、間違いです。子どもがDVの被害者にならないためにも、そして、将来子どもがDVの加害者にならないためにも、DV加害者からは一刻も早く避難しましょう。

(4)被害者であることは「恥」ではない

配偶者から暴力をふるわれることを恥ずかしいことと考えたり、自分にも落ち度があると考えてしまう人がいます。そして、誰にも相談できず「自分さえ、我慢すればいいのだ」とその悩みをひとりで抱え込んでしまう人もいます。

しかし、暴力は犯罪であり、悪いのは加害者です。自分を責める必要は全くないのです。我慢せずに周りに助けを求めましょう。

(5)暴力を受けたら、保護命令を申し立てよう

DVの被害者が生命・身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、被害者が地方裁判所に申立てを行い、加害者に対して保護命令を出すことができます。
加害者が保護命令に違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。
なお、子の保護命令は、離婚後の元配偶者の暴力が怖い場合や子供を連れ去られる恐れがある時は、再度申立てることもできます。

離婚後も暴力が心配な場合や、子どもを連れ去られるおそれがある場合には、保護命令を再度申立てることを検討しましょう。

被害者の保護(保護命令制度)の内容は以下の5つです。

・被害者への接見禁止命令
・退去命令
・電話等の禁止命令
・被害者の未成年の子への接見禁止命令
・被害者の親族等への接見禁止命令

婦人相談所における一時保護件数

▶ 内閣府男女共同参画局「婦人相談所における一時保護件数」

(6)別居中の生活費は請求できる

「家を出たくても、当面の生活費が不安」という人も多いでしょう。
その場合には、別居中の生活費(婚姻費用)を相手に請求しましょう。
婚姻費用とは、結婚生活に必要なお金で、民法では夫婦は双方が同レベルの生活を送るべきと規定されていて、夫婦には今費用の分担義務があります。
婚姻費用は同居か別居かにかかわらず分担義務があるため、別居中も離婚が成立するまでの期間の婚姻費用を請求することができます。

もし相手に婚姻費用を請求しても、応じてくれない場合には、婚姻費用分担の調停を申し立てることができます。調停でも話し合いがまとまらない場合には、裁判所による審判が下され、婚姻費用の金額が決定されます。

婚姻費用分担請求の調停の申し立て方法については、下記の記事で詳しくご紹介しています。あわせてご覧ください。

▶ 婚姻費用分担請求の調停の申し立て方法と必要書類

(7)親権を喪失・停止させることもできる

DVを理由に別居する時には、かならず子どもを連れて家を出てください。
子どもが虐待されるリスクがありますし、「後から迎えに行こう」と思っていても、子どもの引き渡しを拒否されるケースが多いからです。

やむを得ない事情があり、離婚する時に子どもの親権者となれなかった場合でも、子どもを虐待する恐れがあるなど、子どもの利益が著しく害されている場合には、家庭裁判所に審判を申立てて、親権を喪失させることができます。
ただし、親権喪失では親権が無制限に奪われるため、自動を虐待する親の親権を制限したい場合でも親権喪失の申立てはほとんど行われていません。

そのため親権喪失に代わるゆるやかな措置として、最長2年間、親権を喪失させず停止する措置がよくとられます。親権停止の期間は、子どもの生活状況などをもとに家庭裁判所が定めます。

(8)面会交流は拒否できる場合も

離婚で離れて暮らすことになった親にも、子供と会ったり連絡する権利は認められます。

しかし、DVなどの恐れがあり子どものマイナスになるような場合には、面会交流を拒否・制限することができます。面会交流を拒否・制限できる事例としては「子どもへの暴力・暴言」「子どもを連れ去る恐れがある」「子どもにふさわしくないことを体験させる」などがあります。

DVの相談窓口

DV防止法にもとづいて、DV被害の相談件数も年々増加傾向にあります。

DV防止法では、身体的暴力またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けている妻や子供の保護についての規定もあります。

同居を続けていることが身体的に危険である場合には、勇気を出して保護を求めましょう。そして、具体的な離婚の話し合いは身の安全をまず確保してから進めましょう。

・配偶者暴力相談支援センター
・警察への相談
・弁護士への相談

(1)配偶者暴力相談支援センター

全国の都道府県には、自治体によって女性センターや婦人相談所など名称は異なりますが、配偶者暴力相談支援センターを設置しています。暴力や離婚の相談または相談機関の紹介、離婚後の自立のための情報提供を行ってくれますし、緊急の場合には、シェルターなどの一時保護も行っています。

配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数

▶ 内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数」

下記の「暴力相談ナビ」に電話すれば、最寄りの相談窓口を紹介してもらうことができます。

全国統一ダイヤル「暴力相談ナビ」
0570-0-55210

(2)警察

警察も以前は、夫婦間の問題に介入したがらない傾向がありましたが、DV防止法の施行で、現在は、積極的に夫婦間暴力の窓口となっています。

警察における配偶者からの暴力事案等の相談等件数

▶ 内閣府男女共同参画局「警察における配偶者からの暴力事案等の相談等件数」

しかし、警察に被害届を出したことが加害者である配偶者に知られてしまうと、さらにDVがエスカレートすることもあります。警察に被害届を出す場合には、身辺の安全を確保してからのほうが無難といえます。

(3)弁護士

DV被害で悩んだら、早目に弁護士に相談することをおすすめします。
友人や家族に相談することも大切ですが、DV被害に詳しい弁護士であれば、個々の事情に沿って適切なアドバイスをしてくれますし、離婚裁判となった場合に何が有力な証拠にになるのかなどについても具体的にアドバイスをしてくれるからです。

また、緊急性が高い場合には、保護命令の申立て手続きについてサポートしてくれますし、一時保護などのためのシェルターを紹介してくれることもあります。

弁護士費用がない場合には、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助の利用も検討しましょう。法テラスでは無料法律相談を行っているほか、弁護士費用の立て替えなどを行っています。
(※ただし、民事法律扶助を利用するためには、資力が一定額以下であることや、一定の条件と審査があります。)

まとめ

以上、DVを理由に離婚する方法と慰謝料の相場についてご紹介しました。
DV慰謝料の相場は、50万円~500万円と幅があり、金額は結婚期間やDVの回数、頻度などさまざまな要素が考慮されます。そして、その際には証拠の有無が金額を大きく左右します。
一方、請求する側に非があったり財産分与で経済的に満たされたりする場合には、慰謝料は低くなる可能性があります。

いずれにせよ、慰謝料を少しでも多く支払ってもらいたい場合には、離婚の慰謝料請求に精通している弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

1件のコメント

ただいまコメントは受け付けていません。