結納を交わしている、婚約指輪を贈っている、両家へのあいさつを済ませている、結婚式場を予約しているなど、双方に「将来結婚する」という明確な合意があった場合には、法的にも婚約が成立していたと判断されることがあります。
婚約が成立しているにもかかわらず、一方が正当な理由なく婚約を破棄した場合には、慰謝料や、結婚準備のために支出した費用などを請求できる可能性があります。
この記事では、婚約破棄で慰謝料を請求したい時に知っておきたい基礎知識と、請求する方法について解説します。
Contents
婚約破棄とは
婚約とは、近い将来結婚することを約束している状態をいいます。婚約は、必ずしも契約書を作成したり、結納を交わしたりしなければ成立しないものではありません。
ただし、単に交際していた、将来の話をしていた、結婚できたらいいねと話していた、というだけでは、法的な婚約と認められないこともあります。婚約が成立していたといえるかどうかは、結婚の約束がどれだけ具体的だったか、両家や友人に紹介していたか、結婚式場や新居の準備をしていたか、婚約指輪や結納の有無などを総合的に見て判断されます。
たとえば、以下のような事情があると、婚約の成立を示す事情として考えられます。
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・結納を交わした ・婚約指輪を贈った、または受け取った ・両家の親に結婚相手として紹介した ・結婚式場や披露宴会場を予約した ・新居を契約した、家具や家電を購入した ・職場や友人に結婚予定を伝えていた ・結婚退職や転居など、結婚に向けた具体的な準備を進めていた |
婚約破棄で慰謝料を請求できることがある
当事者が話し合い、お互いに納得して婚約を解消するのであれば、通常は慰謝料の問題にはなりません。
しかし、婚約が成立していたにもかかわらず、相手が正当な理由なく一方的に婚約を破棄した場合には、婚約不履行として、慰謝料を請求できる可能性があります。
たとえば、「ほかに好きな人ができた」「結婚する気がなくなった」「一緒にいるのに飽きた」「家風に合わない」など、相手の一方的・身勝手な理由で婚約を破棄された場合には、慰謝料が問題になることがあります。
また、相手が婚約中に浮気をしていた、暴力をふるった、妊娠をきっかけに一方的に逃げた、結婚準備を進めた後に突然破棄したといった事情がある場合には、慰謝料が高くなる可能性があります。
ただし、婚約を解消するだけの正当な理由がある場合には、慰謝料を請求できないことがあります。
慰謝料以外に請求できるもの
婚約破棄をされた場合には、慰謝料のほか、結婚準備のために支出した費用を請求できることがあります。
たとえば、結婚式場や披露宴のキャンセル料、新婚旅行のキャンセル料、新居の契約費用、家具・家電の購入費用、結婚準備のための引越し費用などです。
また、結婚を前提に退職した場合には、退職しなければ得られたはずの収入、いわゆる逸失利益が問題になることもあります。ただし、どこまで請求できるかは、婚約破棄の理由、退職の必要性、退職と婚約破棄との関係、再就職の可能性などによって変わります。
結納を交わしている場合には、結納金や婚約指輪を返還するかどうかも問題になります。どちらが婚約破棄の原因をつくったのか、贈与の趣旨、当事者間の合意などによって扱いが変わるため、返す・返さないを感情だけで決めないようにしましょう。
慰謝料の相場は事案によって大きく変わる
婚約破棄の慰謝料には、法律で決められた明確な金額表があるわけではありません。正式に結婚していた夫婦の離婚慰謝料と比べると、婚約破棄の慰謝料は低めになる傾向があります。
一般的には、数十万円から200万円程度の範囲で問題になることが多いですが、事情によっては300万円を超えることもあります。反対に、婚約の成立を示す証拠が弱い場合や、婚約破棄に正当な理由がある場合には、慰謝料が認められないこともあります。
慰謝料の金額に影響する主な事情は、以下のとおりです。
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・婚約がどれだけ明確だったか ・婚約期間の長さ ・結婚準備がどこまで進んでいたか ・婚約破棄の理由 ・相手の浮気、暴力、妊娠、中絶、出産などの事情 ・婚約破棄された側の年齢や生活への影響 ・結婚退職や転居などの有無 ・周囲に婚約を公表していたか ・相手の対応の悪質性 |
婚約破棄の慰謝料が高額になるケース
婚約が成立していて、一方的に婚約を破棄された場合でも、慰謝料の金額は事情によって変わります。相手に浮気や暴力があった、妊娠・中絶・出産が関係している、結婚準備が大きく進んでいたなどの事情があると、慰謝料が高額になる可能性があります。
(1)相手が浮気をした
婚約は、将来結婚することを前提とした関係です。そのため、婚約中に相手が浮気をし、その浮気が原因で婚約破棄に至った場合には、精神的苦痛が大きいと評価されることがあります。
また、実はほかの相手とも交際していたのに、それを隠して婚約した場合や、別の交際相手を選ぶために婚約を破棄した場合にも、相手の責任が重く評価される可能性があります。
婚約破棄された側が、将来当然に結婚するものと信じて、婚約指輪、新居、結婚式、披露宴、新婚旅行などの準備を進めていた場合には、その費用についても損害として請求できることがあります。
(2)暴力をふるわれた
暴力は、婚約破棄とは別に、それ自体が不法行為となり得る行為です。相手から暴力を受け、そのうえ婚約を破棄された場合には、慰謝料が高額になる可能性があります。
継続的な暴力、けがの程度が重い場合、診断書がある場合、警察や相談機関への相談記録がある場合、すでに同居して事実婚に近い生活を送っていた場合などは、慰謝料や損害賠償額に影響することがあります。
暴力がある場合には、相手と直接交渉しようとせず、身の安全を優先してください。警察、配偶者暴力相談支援センター、自治体の相談窓口、弁護士などに早めに相談することが大切です。
(3)結婚を前提として退職した
結婚を前提として退職した後に婚約破棄された場合には、退職しなければ得られたはずの収入について、損害賠償を請求できることがあります。
ただし、退職したからといって、当然に長期間の収入すべてを請求できるわけではありません。退職の経緯、相手が退職を求めたかどうか、退職と婚約破棄との関係、再就職の可能性、退職後の期間などを考慮して判断されます。
退職に関する損害を請求したい場合には、退職時期、退職理由、相手とのやり取り、給与明細、源泉徴収票、退職証明書、再就職活動の状況などを整理しておきましょう。
(4)妊娠・中絶・出産が関係している
婚約中に妊娠したにもかかわらず、相手が一方的に婚約を破棄した場合には、精神的苦痛が大きいと評価されることがあります。特に、妊娠や中絶をめぐって相手が不誠実な対応をした場合、出産をめぐって一方的に責任を放棄した場合には、慰謝料が高くなる可能性があります。
未婚で子どもを出産した場合、子どもは母の戸籍に入ります。父との間に法律上の親子関係を生じさせるには、認知が必要です。認知がされると、出生時にさかのぼって父子関係が生じます。相手が任意に認知しない場合には、家庭裁判所の認知調停や、必要に応じて訴訟を検討します。
認知によって父子関係が生じれば、父に対して養育費を請求できます。2026年4月1日以降に認知がされた場合には、まだ養育費の取り決めがない段階でも、子どもを主に監護している親が、一定の条件のもとで法定養育費を請求できる制度も設けられています。もっとも、法定養育費は暫定的な制度です。実際には、父母の収入や子どもの生活実態に応じて、具体的な養育費を取り決めることになります。
(5)婚約が周囲に知られている
婚約していたことが、親族、職場、友人などに広く知られていた場合には、婚約破棄による精神的苦痛が大きいと評価されることがあります。
たとえば、職場に結婚予定を伝えていた、結婚退職を予定していた、友人や親族に結婚式の案内をしていた、SNSで婚約を公表していたといった事情は、婚約の成立や損害の大きさを示す資料になることがあります。
このような場合には、招待状、メール、LINE、SNSの投稿、式場との契約書、親族や友人の証言などを整理しておきましょう。
婚約破棄の慰謝料が請求できないケース
婚約を破棄されたからといって、必ず慰謝料を請求できるわけではありません。婚約が成立していたといえない場合や、婚約破棄に正当な理由がある場合には、慰謝料が認められないことがあります。
(1)婚約破棄された側にも大きな原因がある
婚約破棄された側が浮気をした、暴力をふるった、重大な借金や婚姻歴を隠していた、結婚生活に重大な影響を与える事実について虚偽の説明をしていた、といった場合には、相手が婚約を解消しても正当な理由があると判断されることがあります。
このような場合、婚約破棄された側が慰謝料を請求することは難しくなります。むしろ、事情によっては相手から損害賠償を請求される可能性もあります。
(2)婚約した事実が曖昧である
婚約破棄の慰謝料を請求するには、まず「婚約が成立していた」といえることが必要です。
一方が勝手に結婚すると思い込んでいた場合や、交際中に将来の話をしただけの場合、相手が「結婚するつもりはなかった」と争っている場合には、婚約の成立を証明する必要があります。
婚約の証拠としては、婚約指輪、結納、両家顔合わせ、結婚式場の予約、新居の契約、結婚に関するLINEやメール、職場への報告、友人や親族の証言などが考えられます。
証拠が少ない場合でも、交際期間、同居の有無、親族との交流、結婚準備の進み具合などを総合して婚約が認められることもあります。反対に、交際期間が長くても、結婚の具体的な約束がなければ婚約とは認められないこともあります。
(3)婚約破棄に正当な理由がある
婚約破棄に正当な理由がある場合には、慰謝料請求は難しくなります。
たとえば、婚約相手の暴力、浮気、重大な借金の隠ぺい、反社会的勢力との関係、重大な経歴詐称、結婚生活に深刻な影響を与える事実の隠ぺいなどがあれば、婚約を解消する理由として認められる可能性があります。
ただし、どの事情が「正当な理由」にあたるかは、具体的な事実関係によって変わります。自分では正当な理由があると思っていても、裁判では十分と判断されないこともあります。婚約破棄をする側も、される側も、事前に証拠と見通しを確認しておくことが大切です。
婚約破棄の慰謝料を請求する方法
婚約破棄の慰謝料を請求する場合には、まず当事者間で話し合うことになります。ただし、相手が婚約の成立を否定したり、婚約破棄の理由を争ったりすることもあります。
感情的に対立している場合や、相手が話し合いに応じない場合には、弁護士に依頼して交渉してもらう、家庭裁判所の調停を利用する、裁判を起こすといった方法を検討します。
(1)弁護士に依頼する
婚約破棄の慰謝料請求では、「婚約が成立していたこと」と「相手の婚約破棄に正当な理由がないこと」を示す必要があります。
相手が「単に交際していただけ」「結婚するつもりはなかった」「婚約破棄には正当な理由がある」と主張してくることもあります。そのため、感情だけで請求しても、話し合いが進まないことがあります。
弁護士に相談すれば、どのような証拠が必要か、慰謝料や損害賠償をどの程度請求できそうか、結婚準備費用や退職による損害をどのように整理するかについてアドバイスを受けられます。
また、弁護士が代理人として交渉すれば、相手と直接やり取りする精神的負担を減らせます。相手が不誠実な対応をしている場合や、妊娠・暴力・退職など重大な事情がある場合には、早めに相談した方が安全です。
(2)家庭裁判所に調停を申し立てる
当事者間の話し合いや弁護士による交渉で解決しない場合には、家庭裁判所の慰謝料請求調停を利用できることがあります。
調停では、調停委員会が申立人と相手方から、婚約に至る経緯、婚約破棄の理由、結婚準備の状況、精神的苦痛、支出した費用などを聞き取り、必要に応じて資料を確認しながら、話し合いによる解決を目指します。
婚約破棄の慰謝料請求では、婚約指輪、結納、式場予約、新居契約、LINEやメール、親族・友人の証言、退職関係の資料、妊娠・中絶・出産に関する資料などが重要になることがあります。
調停は話し合いの手続きです。相手が合意しなければ、調停だけで強制的に慰謝料を支払わせることはできません。その場合には、裁判を検討することになります。
(3)調停不成立なら裁判へ
調停でも合意できない場合には、裁判を起こして慰謝料や損害賠償を請求することになります。
裁判では、婚約が成立していたこと、相手の婚約破棄が不当であること、精神的苦痛や実際の損害が生じたことを、証拠に基づいて主張・立証する必要があります。
裁判まで進むケースは多くありませんが、相手が婚約の成立自体を否定している場合、請求金額に大きな差がある場合、妊娠・暴力・退職など重大な事情がある場合には、裁判での解決が必要になることもあります。
裁判は手続きが複雑で、証拠の出し方や主張の組み立てが結果に影響します。裁判を検討する場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。
婚約破棄で注意したい時効
婚約破棄による慰謝料や損害賠償の請求には、時効があります。
婚約破棄が不法行為にあたる場合、原則として、損害および加害者を知った時から3年で時効にかかります。また、不法行為の時から20年が経過した場合にも請求できなくなります。
暴力によってけがをした場合など、人の生命・身体を害する不法行為が含まれるときは、時効期間が異なる可能性があります。
婚約破棄直後は気持ちの整理がつかず、すぐに請求する気になれないこともあります。しかし、時間が経つと証拠が散逸したり、相手と連絡が取れなくなったりすることがあります。慰謝料や損害賠償を検討している場合には、早めに証拠を整理し、弁護士に相談しましょう。
まとめ
婚約破棄をされた場合でも、必ず慰謝料を請求できるわけではありません。まずは、法的に婚約が成立していたといえるか、相手の婚約破棄に正当な理由がなかったかを確認する必要があります。
結納、婚約指輪、両家顔合わせ、結婚式場の予約、新居の契約、職場や友人への報告などがある場合には、婚約の成立を示す事情になります。相手の浮気、暴力、妊娠・中絶・出産、結婚退職、結婚準備費用の支出などがある場合には、慰謝料や損害賠償の金額に影響することがあります。
一方で、婚約破棄された側に浮気や暴力、重大な隠し事などがあった場合や、婚約の成立を示す証拠が弱い場合には、慰謝料請求が難しくなることもあります。
なお、現在は女性の再婚禁止期間は廃止されており、男女ともに離婚後すぐ再婚できます。また、成年年齢は18歳であり、婚姻できる年齢も男女とも18歳です。妊娠・出産が関係する婚約破棄では、認知や養育費、法定養育費の制度もあわせて確認する必要があります。
婚約破棄の慰謝料請求は、感情的な対立が強くなりやすく、証拠の有無によって結果が大きく変わります。相手と直接話すのがつらい場合や、相手が誠実に対応しない場合には、早めに弁護士へ相談し、交渉・調停・裁判の見通しを確認しましょう。