婚約破棄の慰謝料は30万円~600万とさまざま|請求する方法&増額するケース

結納や婚約指輪を交わしている場合や、双方で結婚しようという合意が明確にできている場合には「婚約していた」とみなすことができます。

したがって、一方的に婚約を破棄された場合には、慰謝料を請求することができる可能性があります。

この記事では、婚約を破棄され慰謝料を請求したい時に知っておくべき知識と、請求する方法についてご紹介します。

婚約破棄とは

婚約とは、「近い将来結婚することを約束していること」をいいます。
婚約は、具体的な取決めをしていたり契約書を交わしているわけではありません。
したがって、「双方が結婚することに合意している」「結納を交わしたり婚約指輪をプレゼントされている」「親や友人に将来結婚すると紹介している」という事実があれば、婚約が成立していると認められることになります。

婚約破棄で慰謝料請求できることもある

当事者間で話し合い、お互いが納得したうえで婚約を解消するのであれば、とくにトラブルに発展することはないでしょう。

しかし婚約が成立していて、当然結婚すると思っていたのに、相手が理由もなく突然婚約を解消してきた場合や、別の交際相手ができたので婚約解消してほしいと突然言われた場合には、婚約不履行となります。

そして婚約不履行による精神的苦痛に対して慰謝料を請求することができます。
そのほか「家風に合わない」「一緒にいるのに飽きた」などの理由で婚約破棄をされた場合にも慰謝料を請求できる可能性があります。

慰謝料以外に請求できるもの

婚約破棄をされた場合には、慰謝料の他に、結婚を前提にしてかかった費用(新世帯の道具、披露宴や新婚旅行などの精算)のほか、結納の返還、結婚退職による逸失利益の賠償なども請求できる場合があります。

慰謝料の相場は平均200万円

婚約破棄の慰謝料ですが、正式に結婚した場合にくらべれば、婚約破棄による慰謝料の額は少ないのが実情です。

明確な基準があるわけではありませんが、精神的苦痛に対する損害賠償として数万円から数10万円である場合も多いようです。

しかし、婚約破棄に至った原因が相手の暴力であったり、「男性が女性に中絶を求めたのに女性が勝手に出産したので婚約破棄した」など身勝手な事情がある場合には、300万や500万円という慰謝料の請求が認められた判例もあります。
また、苦痛の程度や婚約期間、婚約破棄をした側の経済状況も慰謝料の額に影響を及ぼします。過去の事例では、男性の浮気による婚約破棄で、約680万円の慰謝料が認められたケースもあります(平成18年2月14日)。
したがって、平均すると200万前後となるケースが多いようです。
慰謝料を少しでも多く取りたいなら、後述する「婚約破棄の慰謝料が高額になるケース」を参考にして、証拠などを集めておくことが重要になります。

婚約破棄の慰謝料が高額になるケース

婚約が成立していて一方的に婚約破棄をされた場合も、慰謝料を請求することができますが、相手に不貞行為があった、相手が暴力をふるったなどの事情があると、慰謝料が高額になる可能性があります。

(1)浮気をした

婚約とは、結婚を前提とした状態にあるので、相手が浮気をしてそれを理由に婚約破棄をした場合には、当然精神的苦痛は計り知れないものがあるでしょう。
また、「実は、以前から他の相手とも付き合っていたのに、それを黙って婚約し破棄した」という場合にも、婚約不履行にあたります。

婚約破棄をされた側が、「将来当然に夫婦となること」を信じて、婚約指輪を購入していたり新居への引越し費用や結婚式場への申し込み費用を支出していた場合には、それらも請求することができます(東京地裁 平成17年3月17日)。

(2)暴力をふるわれた

暴力は絶対に許されない行為ですから、暴力の被害者は加害者に慰謝料を請求することができます。暴力をふるわれた上婚約を破棄されたとなれば、それは慰謝料を増額できる可能性は十分にあります。

過去の事例では、285万580円の慰謝料認容額(慰謝料以外の損害も含む)が認められた判決もあります。この事例では、男性の暴力が継続的に行われていたことと、事実婚状態であったことも影響しているとみられます(平成17年3月17日)。

(3)結婚を前提として退職した

結婚を前提として退職をした場合には、逸失利益(仕事を続けていれば得られたであろう利益)を賠償請求できることもあります。
この場合には、勤務先の平均勤続年数から推定して、「退職しなければ、あとどれくらい勤務できたか」と思われる期間を求めます。そして、月収から生活費を差し引いた残額に、この期間を掛けて計算し請求することになります。

(4)女性が妊娠している

女性が妊娠しているのに、一方的に婚約破棄をされた場合、その精神的苦痛は計り知れませんから、当然慰謝料を増額できることになるでしょう。
なお、未婚の女性が子どもを産んだ場合には、生まれた子は「非嫡出子」として母親と同じ戸籍に入ります。
この時、相手にきちんと認知手続きをしてもらいましょう。認知手続きをしてもらえば、父と子の間に法律上の親子関係が生じ、養育費を請求することができます。

(5)婚約が周りに知られている

婚約をしたという事実は、会社の人や親せき、友人に知られているということも、増額をする正当な理由となります。
この時、友人や知人の証言があると、有利になります。辛い状況とは思いますが、弁護士に相談したうえで、周りに協力を求めてみましょう。

婚約破棄の慰謝料が請求できないケース

相手に婚約破棄をされても、いつでも慰謝料が請求できるわけではありません。
一方が勝手に結婚すると思い込んでいた場合や、被害者にも非がある場合には、慰謝料を請求することができないこともあります。

(1)婚約破棄された側にも非がある

婚約破棄された側が、浮気をしたり暴力をふるったりした事実がある場合には、婚約破棄をされても慰謝料を請求するのは難しいでしょう。
「結婚前に浮気をするような人は、結婚後にも浮気をするだろう」と思われても仕方ないからです。

民事法の分野では、「自ら手を汚している者は、その手で裁判所へ救済を求めることは許さない」というクリーンハンズの原則といわれるものがあります。
これは婚約破棄にも同じことがいえます。たとえ婚約破棄をされても、それが自分が浮気したり暴力をふるったりしたことが原因である場合には、離婚請求することは許されません。

(2)婚約した事実が曖昧である

「一方が勝手に結婚すると思い込んでいた」場合や、「付き合ってはいたが、結婚すると言った覚えはないと言われてしまった場合などは、慰謝料の請求が難しい場合もあります。
その場合には、交際期間や「結婚相手として紹介された」という第三者の証言をもとに婚約が成立していたことを証明する必要があります。

婚約破棄の慰謝料を請求する方法

婚約破棄の慰謝料を請求する場合には、まずは当事者間で話し合うことになります。
ただし、当事者に慰謝料を請求しても、婚約破棄をするような相手が誠意をもって対応することはあまりないでしょう。
その場合には、弁護士に依頼して交渉を依頼したり、家庭裁判所の調停を利用することになります。

(1)弁護士に依頼する

通常、慰謝料を請求する時には、まずは直接相手と交渉することからスタートします。
しかし、婚約破棄をするような相手と直接交渉するのは、精神的にとても辛いものですし、相手が話し合いにすら応じないケースもあります。
開き直って「単に交際していただけで、結婚するつもりはなかった」と言われ、慰謝料を請求できない場合があります。
婚約破棄による慰謝料請求は、契約書などの具体的な取り決めがあるわけではありませんので、「婚約が成立していた」と証明できるだけの証拠が必要となりますが、婚約破棄をされたなかで証拠を集めたり相手と交渉するのは、あまりにストレスでしょう。

弁護士に相談すれば、どのような証拠が必要になるかアドバイスをしてくれますし、相手との交渉も行ってもらうことができますので、ストレスが大きく軽減されることになります。

(2)家庭裁判所に調停を申し立てる

弁護士が交渉しても相手が応じない場合には、弁護士のアドバイスを受けながら家庭裁判所に慰謝料請求調停を申し立てます。
調停では、調停委員会が申立人と相手方から、婚約破棄までの経緯や、その原因がどこにあったかなどの事情を詳しく聞きます。
また、必要に応じて資料を提出しながら、解決案を提示したり解決のために必要な助言をする形で話合いを進めていきます。

調停では、慰謝料を請求するためには「結婚相手として紹介された」という親や友人の証言が必要になったり、交際期間がどれくらいだったかなどのさまざまな事情を考慮されます。

調停の流れ

慰謝料請求調停の申立書の記載方法については、以下の記載事例を参考にしてください。※記載事例は、離婚に伴う慰謝料請求の例ですが、詳細については、弁護士などに相談したうえで、作成することをおすすめします。

慰謝料請求調停の申立書の記載例

▶ 家庭裁判所「慰謝料請求調停」

(3)調停不成立なら裁判へ

調停が不成立となったら、裁判を起こすことになります。
裁判まで進むケースはあまりなく、ほとんどのケースで相手本人または弁護士が交渉したり調停を利用して話し合ったりして、解決するようです。

ただし、交渉や調停の中で、慰謝料額や前提事実の認識などが折り合わない場合には、稀に裁判まで進むこともあります。

まとめ

以上、婚約破棄をされ慰謝料を請求したいと思った時に知っておきたい基礎知識についてご紹介しました。
婚約破棄をされた場合には、慰謝料を請求できるケースがあり、相手の浮気や暴力があった場合には、さらに増額することができます。慰謝料の額は、個々の事情によってさまざまですが、平均で200万前後のケースが多いようです。

ただし、婚約破棄をされた側の暴力や浮気が原因だった場合には、慰謝料を請求することは難しくなります。

いずれにせよ、婚約破棄の慰謝料を請求する時には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
当事者間で話し合っても誠意ある対応がされず、ついつい感情的になってしまうケースも多いからです。
弁護士に間に入ってもらうことで、交渉をスムーズに有利に進めることができますし、調停や裁判になることも見据えて「効果的な証拠」のアドバイスをうけることもできます。
早期解決して、精神的苦痛を一日も早く癒し、新しい人生の第一歩を踏み出すためにも、弁護士に依頼するメリットは大変大きいでしょう。