離婚する時に未成年の子供がいる場合には、
「父母どちらが親権者となるか」
「養育費の額はどうするのか」
「離婚したあと、子供の戸籍や姓はどうするか」
「離れて暮らすことになった親がどのように子供と会い交流するのか」
…など、決めなければならないことがいくつもあります。
子供がいる場合の離婚で最も大切なのは、「子供にとって、より良い選択」です。
この記事では、離婚後も子供が健やかに、そして安心して暮らすために知っておきたい10個の知識と、子供がいる時の離婚の進め方についてご紹介します。
子供がいる離婚で知っておくべき10個の知識
離婚すると、夫婦関係は解消されますが、親子関係までは解消されません。
しかし、離婚時には親権者をどちらにするか決める必要がありますし、離婚後に離れて暮らす親との面会交流や養育費についても取り決めておく必要があります。
(1)親権者を決めなければならない
未成年の子供をもつ夫婦が離婚する場合には、親権者を決めて離婚届に記入する必要があります。子供がいる夫婦で親権者を決めていない場合には、離婚届が受理されません。
そこで、まずは親権者を父母のどちらにするかを最優先に取り決める必要があります。
しかし、親権者を父母のどちらにするかは、離婚時に最ももめる問題のひとつです。
ただ「親権者にならなければ、子供と暮らせない」ということでもありません。たとえば、親権者を父にして、監護者を母にして母が子供を引き取って面倒を見ることもできます。
ただ、親権者と監護者を分けると、親権者と監護者が対立した時に子供に影響を与えかねないので、なるべく親権は分けない方がよいでしょう。
親権者について話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。申し立ては親権者の指定だけでもよいですが、離婚調停を申し立てる方が、養育費や面会交流などの問題も含めて解決できるので、効率的です。
親権者は、母親がなるケースが多いですが、最近は父親が親権者となるケースも増加しています。もし、父親で親権を勝ち取りたい場合には、下記の記事を参考にしてください。
▶ 父親が親権を勝ち取るためにアピールしたい5つのこと
(2)離婚後の親権者変更は簡単にできない
親権者について話し合いがまとまらない時、「早く離婚したいから、とりあえず相手に親権を渡し、後から変更しよう」とするケースがありますが、これはNGです。
一度決めた親権者を変更することはできますが、これは父母の話し合いだけで勝手に決めることができなくなります。
親権者を変更するためには、家庭裁判所の許可が必要なので、まず親権者変更の調停あるいは審判を申し立てる必要があります。
そして、家庭裁判所で変更を認めるのは、子供に暴力をふるったり育児放棄したりしていて、明らかに親権者にふさわしくない事情がある場合です。
このような事情がない限りは、親権者の変更はできませんので、親権者について離婚時に話し合い、調停などを利用して取り決めましょう。
(3)養育費を取り決める
子供と離れて暮らす親は、子供に養育費を支払う義務があります。養育費は、親権者に関係なく、父母が分担すべき費用です。
養育費については、金額、支払期間、支払方法など具体的に決めておきましょう。
家庭裁判所の調停や審判では、養育費の金額について父母の収入や財産などを基準に決めますが、その際に参考として活用されているのが、養育費の算定表です。
養育費の算定表は、父母の収入、子供の人数や年齢など、さまざまな要素から標準的な養育費を算出できるようになっています。
この養育費の算定表は、以前から低額すぎると批判されていましたが、2019年に16年ぶりに見直され、全体的に増額されましたので、参考にしてください。
▶ 養育費・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)
▶ 養育費・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)
▶ 家庭裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(令和元年12月23日に公表)」
(4)養育費の支払いが遅れたらどうするか
離婚後しばらくは支払われていた養育費が、1年、2年もすると支払われなくなることがあります。
このような養育費の不払いを防ぐためには、協議離婚の時に「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成しておくことです。これがあれば、養育費の支払いがストップした時に強制執行をすることができます。
調停離婚、審判離婚、裁判離婚などの場合には、養育費について取り決めが行われているので、家庭裁判所に電話すれば相手に履行勧告・履行命令を出してもらいます。履行命令に従わないと、10万円以下の過料に科せられる場合があるので、一定の効果は期待できます。
それでも相手が応じない場合には、同様に強制執行を行うことになります。
(5)養育費の増額・減額の請求はできるか
養育費の支払いは、10年、20年と長期にわたります。その間には、事情がさまざまに代わることがあります。一度決めた養育費を増額したい・減額したいというケースもあるでしょう。養育費の増額・減額は、正当な理由があれば変更を請求することはできます。
変更したい時には、まず相手と話し合いますが、話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に申し立てます。
▶ 養育費が減額できる4つのケースと減額請求する時の5つの注意点
▶ 養育費の増額請求|養育費算定表16年ぶり見直しで増額傾向
(6)面会交流はどのように決めるか
離婚して離れて暮らす親と子が会うことを、面会交流といいます。
子供に暴力をふるう恐れがあったり、子供が会うことを拒否していたりしている場合には、面会交流は認められませんが、そのような事情がない限りは、裁判所も面会交流を推奨する姿勢をとっています。
離婚する時に「子供と会わないと約束してくれたら、養育費はいらない」など言っても、それは無効になります。
別れた相手と子供が会うことに、抵抗を感じる気持ちは十分理解できますが、離婚しても親子の縁は切れないのですし、子供の成長にとってよい影響を与えることもあります。
もし、お互いに冷静に話し合いができない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
面会交流の調停の申立書については、以下の記載事例を参考にしてください。
▶ 面会交流の調停とは|申し立て方法・主な流れ・有利に進める方法(過去事例付き)
(7)子供の戸籍と姓はどうするか
親が離婚しても、子供の戸籍は基本的にそのまま残り続けます。
父母が離婚すると、戸籍筆頭者でない側(多くの場合、母親)が除籍されますが、子供は父親の戸籍に残ることになります。これは、母親が親権者になっても自動で母親の籍に移ることはありません。
戸籍筆頭者である父親が親権者となり、子供を引き取って育てるなら特に手続きはありません。
しかし、除籍された母親が子供を引き取って育てる場合には、新しい戸籍をつくったうえで「子供の氏の変更許可申し立て」と「入籍届」の2つの手続きが必要になります。
「子供の氏の変更許可申し立て」は、親が結婚前の姓に戻る時だけでなく、婚姻時の姓(離婚しても苗字を変えない場合)も、必要です。同じ姓なのに変更許可が必要なのかと思われると思いますが、法律上は同じとはみなされませんので、同じように変更許可の申し立てが必要となります。
この際の申立人は子供自身になります。子供が満15歳未満の場合には法定代理人(通常は親権者)が申立てを行います。
「子供の氏の変更許可申し立て」は、家庭裁判所に申し立てます。
以下の申立書の記載事例を参考にしてください。
子供が15歳未満の場合
子供が15歳以上の場合
「子供の氏の変更許可申し立て」は簡単に手続きできますし、提出書類に不備がなければ審判書が交付されますので、それを持参して役所の戸籍係で入籍手続きを行います。
なお「子の氏の変更」をした子供は、満20歳になると満21歳になるまでに子供自身が姓を選択することができます。「生まれた時の姓に戻りたい」とい思った場合には家庭裁判所の許可なく、戸籍係に届出をするだけで戻ることができます。
その際には、元の戸籍にもどるか自分自身を筆頭とする新しい戸籍をつくるかも選択することができます。
(8)離婚後の子供の相続はどうなるのか
離婚して親子が離れて暮らすことになっても、親子の血縁関係は変わりません。
したがって、親権者でない親が死亡した場合には、子供は第1順位の相続人になります。親が再婚した場合でも、その配偶者や子供と共に相続する権利があります。
これは、離婚後音信不通の親の場合も同様です。
なお、相続財産には現金や預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。したがって、そのまま相続すると親の借金を子供が引き継ぐことになってしまいます。
この時、マイナスの財産の方が明らかに多い場合には、相続人は相続を放棄することができます。この相続放棄手続きは「相続を知った時から3カ月以内」に家庭裁判所に申し立てる必要があります。
「自分には関係ないことだ」と放っておくと、思わぬ借金を背負うことになりかねないので、十分注意してください。
(9)離婚後はいつ再婚できるか
離婚後は、男性は翌日にでも他の女性と再婚することができますが、女性には、100日間の「再婚禁止期間」があります。
これは、離婚してすぐに再婚した女性が出産した場合、生まれた子供の父親が前夫か現在の夫か分からなくなってしまうことを避けるためです。
ただし、以下のいずれかに該当する場合で、医師の証明書がある場合には、例外として100日以内でも再婚することができます。
①離婚より後に妊娠した
②離婚日以降の一定の時期に、妊娠していない
③離婚してから出産した
なお、再婚相手と子供が養子縁組をしても、実親との親子関係がなくなるわけではありません。なお、子連れ同士の再婚では、夫婦が互いの連れ子と養子縁組をしないと、相続の時に養子縁組をしなかった子供に、相続する権利はありません。
(10)離婚後の子供のケアはどうするか
離婚後の子供のケアは、最も大切な問題です。
両親の離婚は子供の生活に大きな変化を与えるのですから、子供が不安をもつのは当然です。
もちろん、「子供のために離婚するべきではないのではないか…」と離婚をためらう人も多いことと思います。
しかし、両親が家庭内で言い争っている姿を見続ける方が、子供にとって辛い場合もあるはずです。
「子供のために」と離婚を我慢していたはずが、夫婦関係が悪いことが原因で親の養育態度が十分ではなくなり、親と子供の愛着関係が健全に育まれないケースは、多いものです。
この影響は大変深刻で、子供の集中力がなくなったり、情緒が不安定になるなどの「愛着障害」といわれる症状が出てしまう場合もあります。
もちろん、両親が揃っている方がよいこともたくさんあるでしょう。
しかし子供にとってもっと大切なのは、両親の言い争いや怒鳴り声を聞いて、おびえたりすることなく無邪気に過ごすことができる環境、安心してくつろげる環境をつくってあげることではないでしょうか。
一番大切なのは、あなたが笑顔でいることです。親が安心して笑っていることは、子供にとっても幸せなはずです。
あなたと子供が笑顔でいるためにいちばん大切なことは何か。子供を守るためにするべきことは何なのか。……考え抜いた結果が「離婚」という選択肢であるなら、離婚は決して子供に悪影響を与えることではないはずです。
子供の親として、離婚を決めたのなら、その決断に自信をもって前向きに新しい人生を進みましょう。
子供がいる時の離婚の進め方
これまでは、子供がいる離婚で必要な手続きについてご紹介してきましたが、ここでは、実際にどのように離婚成立まで進むべきかについて、ご紹介します。
(1)別居時は子供を連れていく
別居は、離婚後の生活のリハーサルにもなりますし、冷静に話し合いをするための冷却期間にもなります。
離婚後に子供の親権をとりたいなら、子供は必ず連れて別居してください。「後から迎えに行こう」と思っていても、相手が引き渡してくれないことがありますし、後々親権争いになった時には、実際に子供と住んでいる親が有利になるからです。
ただし、相手に何も言わずに子供を連れて家を出るのはNGです。
捜索願を出されたり、後々「子供の連れ去り」として、問題になったりするからです。
ただし、DVなどの場合には無断で家を出ても不利にはなりません。
どこに住むかについて不安がある人は、役所や福祉事務所に相談してみましょう。状況によっては、母子生活支援施設やひとり親家庭を優先した公営住宅を紹介してもらうことができます。
(2)別居中の生活費は請求できる
小さな子供を連れて別居する場合、生活費が心配になるのではないでしょうか。
仕事を見つける必要はありますが、この生活費の分担も夫婦の義務なので、収入のある側から婚姻費用として生活費を出してもらうことができます。
婚姻費用とは、結婚生活を送るために必要な生活費のことです。
これは、夫婦仲が悪い場合も離婚について話し合っている場合も同じです。
もし、相手が婚姻費用の支払いを拒否した場合には、婚姻費用の請求調停を申し立てましょう。婚姻費用の分担請求調停の申立書については、以下の記載事例を参考にしてください。
(3)離婚後の生活をシミュレーションする
離婚について悩んでいる時には、「離婚をするか、しないか」にばかり目が行きがちですが、離婚後の生活にむけて準備を始めることも大切です。
安定した生活を送れるように、離婚後の家計をシミュレーションしたり、仕事や住まいを探したりして、離婚後の生活設計を立てておきましょう。
また、離婚後に必要な手続きについても、大まかな流れは理解しておきましょう。
なお、ひとり親には就職支援や住宅の支援など、さまざまな支援制度が用意されています。これらの支援制度は、自分が申請しないと利用できないケースが多いので、積極的に申請をしてください。
なかでもすぐに手続きをするべきなのが「児童扶養手当」と「児童育成手当」です。これらは、申請が受理された翌月から支給が開始できます。母子家庭だけでなく父子家庭も利用できます(ただし、所得制限などの条件あり)。
手続きが早いほど、支給が早くなりますので、早めに手続きをしてください。
(4)もらえるお金を漏れなく受け取る
離婚時の財産分与や慰謝料など、離婚時にもらえるお金を漏れなく受け取るために、結婚後に夫婦で築いた財産についてはすべて把握しておくようにしましょう。
通帳や源泉徴収など、共有財産に関する資料は、早めに集めておきます。
夫婦どちらの名義であっても結婚後に夫婦で協力して築いた財産であれば、夫婦の共有財産とみなされます。現金、預貯金、株式などの有価証券、不動産、自動車、生命保険金、退職金、年金などのほか、住宅ローンなどのマイナスの財産もどちらも財産分与を計算する時に必要になりますので、両方を把握しましょう。
財産を把握する作業は、できれば離婚を切り出す前に始めましょう。離婚を切り出した後では、相手が通帳を隠すなどして確認するのが大変になってしまうからです。
(5)話し合いや調停を有利に進めるための証拠を準備する
話し合いをする場合でも、調停や裁判となった場合でも、離婚を有利に進めるためには、証拠が重要です。
相手の浮気や不倫が原因であれば、その現場の録音や録画、不倫相手とやり取りしたメールなどが証拠になります。
DVが原因であれば、やはり録音や録画の証拠、医師の診断書などが証拠になります。
何が証拠になるのかについては、個々の状況によって異なりますので、早めに弁護士に相談して、できる限りの証拠を集めておきましょう。
なお、離婚を有利に進めるために必要な証拠については、以下の記事を参考にしてください。
▶ 悪意の遺棄は民法770条の離婚事由|慰謝料は請求可能?証拠は必要?
まとめ
以上、子供がいる離婚で知っておきたい戸籍・養育費・親権などの基礎知識について、ご紹介しました。
子供がいる場合の離婚は、まずは子供が安心して健やかに成長できるように配慮することが大切です。両親の離婚によって、不安やさみしさを感じる子供は少なくありません。
離婚後は、その子供の気持ちを受けとめ、これからどういう生活を送るのか説明しましょう。そして、子供のせいで離婚するわけではないこと、今後も親として子供の幸せを第一に考えていくことを、笑顔で伝えましょう。
そして、子供を引き取って育てるうえで、辛いことがあれば、すぐに周りに頼ることです。身近に信頼できる友人や親族がいなければ、福祉事務所や役所に連絡してください。
助けてくれる人は、必ずいます。そのことを決して忘れず、一人で悩みを抱え込まないでください。