離婚の財産分与|不動産(家・土地など)の5つの方法

離婚する時には、現金や預貯金だけでなく、マンションや戸建て、土地といった不動産についても財産分与の対象となります。分与の方法としては、受け取る側が差額を払う、売却してその利益を分ける方法が一般的です。

この記事では、離婚する際の不動産の財産分与についてご紹介します。

不動産の財産分与(基本ルール)

財産分与とは、夫婦で協力した財産について、離婚時に分与することをいいます。

分与の対象となる財産は、「結婚中に夫婦の協力によって得た財産」です。
したがって、名義が夫だったとしても離婚する際には、夫婦で分けて精算することになります。
また、夫が働いて得た収入によって購入した不動産であっても、妻の寄与、貢献度を評価して清算するのが原則として1/2ずつ分与するのが公平な態度と考えられています。

原則として2分の1

財産分与の割合は、夫婦で話し合って合意すれば自由に決めることができます。
しかし実際には、裁判所の過去の判例などを参考にするケースが多いようです。

平成8年に法制審議会で出された「民法の一部を改正する法律案要綱」では、離婚後の財産分与について離婚当事者の寄与の程度については、「そうでないことが明らかな場合以外」は、名義がない配偶者も、潜在的にその財産形成に貢献していると考え、原則として2分の1ルールを明言しています。

夫が亡くなった時に配偶者の妻が夫の財産を相続する場合、2分の1であることを考え合わせれば、財産分与の2分の1ルールは、夫婦平等の考え方に合致するものとみることができます。

共働き夫婦の場合は

夫と妻がそれぞれ独立して職業を持ち、結婚生活に必要な費用は各自が収入に応じて負担し、残りは各自が貯金するというケースでは、各自の財産は固有財産となります。
こうして、夫婦それぞれが貯えた資金で不動産を購入し、夫婦2分の1ずつの共有として登記するケースも増えてきています。

しかし、共働きといえども夫の方が収入が多く、妻はパート程度の補助的な収入しかない代わりに妻が家事育児を担っているというケースも多いでしょう。
その場合には、夫の方が収入は多くても、妻の家事育児の寄与を考慮すべきとなります。
また、たとえ収入が夫婦対等で、夫名義でマンションを購入して、月々のローンは妻の収入で支払っている場合でも、妻の家事育児の寄与を考慮すべきということになります。

不動産の財産分与(分与の方法)

離婚時の不動産の財産分与の方法としては、主に以下のようなものがあります。

(1)分与の割合に応じて共有する

分与の割合に応じて、離婚後も夫婦で共有する方法です。
この方法は、離婚した時点には、互いに受け入れやすい条件であることから、分与割合について争いがなければ、話し合いがスムーズにまとまる可能性があります。
しかし、離婚後に一方が売却したいと思った時に、自由に売却できないなどのトラブルに発展するリスクがあります。

(2)一方が全部を取得する

夫婦どちらかが、土地・建物の全部を取得して、取得した側が相手に分与の差額を支払うという方法です。

①夫の単独名義
・夫がそのまま所有して、妻に分与の差額を支払う
・妻が取得して、夫へ分与の差額を支払い、名義を変更する

②夫婦共有名義の不動産
・夫または妻が取得して、相手に分与の差額を支払い、相手の持分の名義を変更する

(3)売却して分与する

不動産を売却し、売却したお金を夫婦それぞれに分配する方法です。
分与の割合について話し合いがまとまっている場合には、もっともすっきりした分与の方法といえます。ただし、売却できるか分からない場合や売却したことで離婚後に住む場所がなくなるなどの不安が残る場合もあります。

(4)ローンも名義も変えない

ローンを夫が払い続け、妻は使用権を財産分与の代わりに得て、そのまま住み続ける方法です。
妻が専業主婦であった場合などは、離婚後も済む場所を失うことがないというメリットがあります。ただし、夫はマンションを売却したいと思っても妻が使用権を得ていることから、売却できなくなるというデメリットがあります。

(5)ローン付不動産の場合

ローン付不動産の場合には、評価額からローン残高を差し引いた差額が財産分与の対象となります。
評価額がローン残高を上回る場合には、差額を分け合います。評価額を下回る場合には、夫婦の一方が所有して支払いを続けるなどの方法があります。

ローンの引継ぎを含めて、どちらが不動産を取得するか決めます。
そのうえで、相手へのローンを除いた分の分与の差額を支払い、不動産名義を変更します。不動産の財産分与の方法では、もっとも一般的な方法です。

なお、この場合には、債権者との話し合いも必要です。債権者としては、債務者が変わる(会社勤めの夫から、パート勤めの妻に代わるなど)ということは、大きな問題となるからです。また、購入時の取得価格より売却価格または評価額の方が高い場合には、譲渡所得税がかかることもあるので、注意が必要です。

不動産の財産分与のトラブル

前述したとおり、家やマンションなどの不動産を売却せずに分与する場合は、夫婦どちらかが所有して分与の差額を相手に現金で支払う方法が一般的です。

ただし、この分与方法の場合には、一括で支払うか分割払いにするかでトラブルの原因になることがあります。

支払期間はなるべく短期間で

一括払いにすると、支払う側の負担が大きくなりますし、一方受け取る側も気持ちが大きくなり無駄遣いをしてしまいがちになります。

分割払いにすると、支払う側の支払いが後々負担になり、支払が遅延するケースも多々あります。受け取る側にしての「別れた側が、きちんと支払ってくれるのか」という不安があるでしょう。

したがって、分割払いの場合には、初回支払金額をできるだけ高く設定し、分割回数を2~4回程度の短期間で支払いが終わるように設定すると、支払う側の負担も長引かずにすみますし、支払の遅延などを防ぐことができます。

不動産の評価額を正確に知ろう

どのような分与方法にせよ、不動産の評価額は時期によって変動があります。そこで、離婚成立の時点か、または離婚前の別居開始時点を基準に評価額を算出する必要があります。

不動産の評価額を算出する際には、近隣エリアの類似物件の取引価格を参考にしたり、国税庁の路線価や国土交通省の公示価格を参考にしたりします。

この時、面倒でも不動産鑑定士に依頼して評価額を算出してもらうと、正確な評価額を知ることができます。不動産鑑定士に依頼すればその分費用はかかりますが、正確な情報を知ることで、後々のトラブルを防ぐことができます。

不動産の財産分与(税金がかかるケース)

不動産の財産分与の場合、それぞれの名義人(支払う側)に譲渡所得税がかかる場合があります。また、受け取る側に不動産取得税、登録免許税(名義変更の際)がかかります。

所得税(優遇措置あり)

居住用の不動産の譲渡では、慰謝料や財産分与を行う際に、「離婚成立後に譲渡」することで、譲渡所得税をおさえることができます。
居住用不動産は、親族以外の者への譲渡を行う際に、譲渡所得から最高3,000万円の特別控除を受けることができます。つまり、離婚後に譲渡すれば、譲渡益が3,000万円までは税金がかかりません。

さらに、その居住用不動産が所有期間10年を超えている場合には、同様に「親族以外の者への譲渡」という条件を満たしていれば、軽減税率の適用を受けることができます。

不動産取得税

譲渡所得税の面からみれば、不動産を譲渡する側にとっては、離婚後に譲渡する方が得する可能性がありますが、受け取る側にとっては、離婚前に居住用不動産を受け取る方が、税金を軽減できる場合があります。

受け取る側が、離婚前に居住用不動産の贈与を受けた場合、そのまま住み続ければ贈与税の特別控除額2,000万円と、通常の基礎控除額110万円の合計2,110万円までは、税金がかかりません。
ただし、この贈与税の特別控除を受けることができるのは、結婚20年以上の夫婦に限ります。

不動産の財産分与(名義変更)

不動産の名義変更をする場合には、速やかに名義変更をするようにしましょう。
離婚の財産分与として自宅などの不動産を取得しても、名義が相手のままなら、まだ自分のものになったとはいえないからです。

名義変更の登記手続き

不動産の名義変更(所有権移転登記)をするためには、不動産所在地の地方法務局で名義変更の登記手続きを行う必要があります。オンライン申請も受け付けています。

所有権移転登記は、必要な書類の作成や手配などについて、法務局の窓口で聞くことができるので、自分で申請することはできます。ただし、法務局に何度も足を運ぶ必要があります。
これらの手続きは、専門知識も必要になるので、司法書士に依頼する方がスムーズでしょう。

なお、相手の名義で借りていた土地やマンションに、離婚後も住み続ける場合には、借地権や借家権の譲渡ということになるので、地主や家主に契約者の名義変更を申し出る必要があります。

名義変更に必要な書類

手続きの際には、所有権移転登記申請書、固定資産評価証明書、譲渡者の登記済権利証、印鑑証明、譲渡される側の住民票、不動産分与を証明するための離婚協議書、調停調書などが必要です。

自分で用意する書類はすぐに手配できますが、問題は相手からもらう書類です。
必要書類を離婚する時にもらえなかった場合には、受け取るまで何度も催促すること。とくに権利証が相手側にあると、知らないうちに売却されてしまうこともあるからです。
このようなトラブルを回避するためにも、権利証などの書類は、早め早めに回収することを心がけてください。

まとめ

以上、不動産を財産分与する際の注意点や、必要な手続きについてご紹介しました。
不動産の評価額は、磁気によって変動するものなので、離婚が成立した時、または別居時の価格を目安に算出するのが一般的ですが、トラブルを防ぐためには不動産鑑定士に依頼するのがおすすめです。
財産分与の方法は、不動産を売却処分する、どちらかが取得するなどいくつかの方法がありますが、話し合いがスムーズにまとまらなかったり、自分に不利な分与方法となりそうな時には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。