離婚の取り消し|ケース別離婚の取り消し方

離婚する意思がないのに離婚届を出したとしても、その離婚は無効です。
しかし、戸籍に離婚と記載されてしまった以上は、すぐに離婚届を抹消できるわけではありません。
家庭裁判所に「離婚無効の調停」を申し立て、調停が不成立の場合には、離婚無効の確認を求める訴訟を起こすことになります。

離婚を取り消したい時

離婚届に判を押してしまってから、「やはり離婚はしたくない」と思うこともあります。また、離婚届を提出してから「離婚するべきじゃなかった」と、後悔するケースもあるでしょう。
それでは、離婚届を取り消したい時には、どのような方法で取り消せばよいのでしょうか。

(1)離婚届を提出する前なら「不受理申出」を!

思わずカッとなって、感情のおもむくままに離婚届に判を押してしまったものの、落ち着いてから考えると「やはり離婚したくない」という気持ちになることがあります。
できれば離婚はしたくないと考えるのが普通ですから、気持ちがゆれ動くのは当然のことです。
離婚届に署名し判を押しても、離婚届が提出される前であれば、離婚は成立していません。したがって、相手に「気持ちが変わったから、届出をやめてほしい」と申し入れ、そのうえで、相手とよく話し合いをするようにしましょう。

ただ、相手に署名・捺印した離婚届を渡してしまっている場合には、いつ届け出られるか分かりません。相手に「やっぱり離婚したくない」と伝えたところで、「署名・捺印しておいて、今さら何を言うか」と拒否されることもあるでしょう。
相手に届出をやめてほしいと申し入れても拒否された場合には、事前に離婚を防止する方法として「離婚届の不受理申出」を提出しましょう。これは、届出に署名捺印したものの、その後離婚する意思が変わったので、離婚届が提出されても受理しないでほしいと、市区町村役場に申し出る制度です。

不受理申出の届け出をしておけば、その後に届出られた離婚届に対して、役場の職権で離婚届の提出をストップしてもらうことができます。
この不受理申出の届け出は、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出しそうな時にも、提出することができます。

不受理届の記載方法については、以下の記載事例を参考にしてください。

不受理申出の効力は、本人が不受理を取り下げるか本人が死亡するまで続きます。したがって、その後やはり離婚することになった場合には、不受理を取り下げてから離婚届を提出することになります。

財産処分を防ぐ保全処分も申請しよう

いずれは離婚する意思はあるものの、離婚に伴うお金の問題でもめているというような事情があるケースでは、相手が夫婦の共有財産を勝手に売却してしまうことがあります。
このような恐れがある場合には、前述した離婚届不受理の申し出を行うとともに、家庭裁判所に離婚、財産分与請求などの調停や審判を申し立てたうえで、「調停・審判前の保全処分」を申し立てることを検討しましょう。

申し立ての際には、財産を守る必要性や緊急性を証明しなければなりませんが、家庭裁判所が必要性や緊急性を認めてくれれば、財産の仮差押えや仮処分などの命令が出されます。この命令には強制執行力がありますので、口座は凍結され勝手に処分することができなくなります。

(2)離婚届を提出した後

離婚したくないのに離婚届が提出され、戸籍上離婚となってしまった場合には、面倒な手続きが必要です。
もちろん、本当に離婚する意思がないのですから、離婚は無効です。しかし、戸籍に離婚と記載されてしまった以上は、役所に離婚届を抹消してくれるように申し出ても、役所で手続きをすることはできません。

したがって、離婚届が提出されてしまった時には、家庭裁判所に「離婚無効の調停」を申し立てて相手と話し合い、それでも結論が出ない場合には、地方裁判所に訴訟を起こす必要があります。

※「離婚無効の調停」や「離婚無効確認の訴え」の流れについては、後ほど詳しくご紹介します。

離婚を勝手に出された時

自分は離婚するつもりがないのに、相手が離婚届を勝手に出してしまった場合には、戸籍上は離婚となってしまいます。

もちろん、離婚届は双方の意思に基づいて提出されるべきものですから、勝手に提出されたとしても、離婚は無効です。
しかし、戸籍に離婚と記載されてしまった以上は、役所の窓口でどれだけ「それは自分の意思に反するものだ。この離婚は無効だ」と主張しても、役所では取り消しの手続きをすることはできません。役所の戸籍係にその権限はないからです。

したがって、まずは家庭裁判所に「離婚無効の調停」を申し立て、相手が調停で離婚無効を認めない時には、地方裁判所に「離婚無効確認の訴え」を提起する必要があります。そして、審判書などの謄本を役所に持参する必要があります。

(1)離婚無効の調停申し立て

離婚届を勝手に提出されてしまった場合には、まず家庭裁判所に離婚無効の調停(協議離婚無効確認調停)の申立てをします。

調停で調停委員を交えて話し合いをして、相手が非を認め確かに一方的な届出であり、離婚無効とされても仕方ないということになれば、離婚が無効であると確認する審判が下ります。

離婚無効の調停(協議離婚無効確認調停)の申立書の記載方法については、以下の記載事例を参考にしてください。

▶ 家庭裁判所「協議離婚無効確認調停」

(2)相手が認めない時は「離婚無効確認の訴え」

離婚無効の調停で相手が非を認めず、「離婚届は、双方が納得して署名押印したものだ」と主張してくるようであれば、調停では結論が出せません。
調停が不成立になった場合には、あらためて地方裁判所に「離婚無効の確認を求める訴訟」を起こし、裁判の判決で結論をつけなければなりません。

裁判では、離婚が無効であるという主張を裁判所に認めてもらうために、その主張を裏付ける証拠が必要となります。この証拠をもとに自分の主張をいかに立証するかで勝敗が左右されると言っても過言ではありません。

「離婚が無効であるのは確実だから」というような理由で、自分だけで裁判を進めるのは危険です。絶対にできないわけではありませんが、相手が弁護士を依頼してきたら、1人で裁判に挑んでも、不利な状況に追いやられてしまいます。
したがって、裁判を起こす場合には、かならず弁護士に相談するようにしてください。

(3)市区町村役場で手続きをする

離婚が無効であるという審判または判決が出たら、その謄本を市区町村役場に持参して、戸籍の訂正を申請します。すると、離婚の記載が抹消され、元の婚姻状態に戻ります。
この時、離婚の記載のない従前の戸籍の再製を依頼すれば、離婚の記載のない戸籍が再製されます。

(4)勝手な離婚届作成の刑事責任

愛人と結婚したいために、妻に無断で離婚届を作成して市区町村役場に提出するケースがあります。もちろん、これまでご紹介したようにこのような離婚届は無効ですが、それ以前に妻が訴えれば、夫は犯罪人として処罰されることになります。

まず、妻が知らない間に離婚届を作成する行為は、私文書を偽造する行為であり「私文書偽造罪(刑法159条)」に該当し、3カ月以上5年以下の懲役に科せられる可能性があります。
また、偽造した離婚届を役場に提出する行為は、「偽造私文書行使罪(刑法161条)」に該当し、同じく3カ月以上5年以下の懲役に科せられる可能性があります。
さらに、戸籍簿に不実の記載をさせる行為は、「公正証書原本不実記載罪(刑法157条)」となり、5年以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられる可能性があります。

(5)重婚とされるリスクもある

夫が愛人と結婚したいために、妻に無断で離婚届を提出し、その後愛人と婚姻届を提出すると、「重婚」となってしまうリスクがあります。
これまでご紹介したように、勝手に提出した離婚届は無効ですから、その取り消しを請求することができます。しかし、愛人との婚姻届が虚偽届出ではないことから、裁判所によって取り消された婚姻は、戸籍に取り消しが記載され抹消されますが、その記載のない戸籍の再製が許されるわけではないというリスクがあります。

まとめ

以上、離婚届を署名押印したものの、「やはり離婚したくない」と思った時の対処法、勝手に離婚届を提出された時の離婚無効の調停の申立てなどについて、ご紹介しました。

離婚届を勝手に出されたくない時には、「離婚届不受理」の申し出をしておくことが大切です。もし、不受理制度を知らなかった、あるいは間に合わず、意思に反して離婚届が提出されてしまった時には、家庭裁判所に「離婚無効の調停」を申し立てましょう。
もし調停が不調になった場合には、地方裁判所に離婚無効確認の訴えを起こします。

また、勝手に夫婦の共有財産を処分されることがないよう、「財産処分を防ぐ保全処分」の申請をしておく方がよいケースもあります。

いずれにせよ、早めに弁護士を相談して、早め早めに必要な手続きを行うようにして、相手の勝手な行為を阻止できるようにしておきましょう。