妻からのハラスメント|離婚したいと考えた時の注意点

妻からの暴言・暴力、ハラスメントに悩み、離婚したいと考えた時、妻が離婚に応じれば、離婚原因を問わず協議離婚を成立させることができます。
しかし、妻が離婚を拒否したり、財産分与や慰謝料などの条件で話し合いがまとまらなかったりした場合には、家庭裁判所の調停や離婚訴訟を利用することになります。
妻から受けた暴言・暴力やハラスメントについて客観的な証拠があれば、離婚調停や訴訟で夫婦関係が破綻した経緯を説明しやすくなります。行為の内容や程度によっては、妻に慰謝料を請求できる場合もあります。
なお、配偶者暴力防止法は、被害者の性別を限定していません。夫が妻から暴力や脅迫を受けている場合も、同法に基づく相談や保護命令の対象になり得ます。

妻からのDV、ハラスメントも見過ごせない

「妻から毎日のように罵倒される」「物を投げられたり殴られたりする」「行動や交友関係を細かく監視される」など、妻からの暴力や暴言、ハラスメントに悩む男性もいます。
被害が長期間続くと、不眠、食欲不振、動悸、強い不安などが生じ、心療内科や精神科でうつ病、適応障害などと診断されるケースもあります。

内閣府の2023年度調査では、結婚経験のある男性の22.0%が、配偶者から何らかの暴力を受けた経験があると回答しています。また、被害経験のある男性の57.2%は、どこにも相談していません。
参考:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書・配偶者暴力」

(1)共働きの増加だけが原因とはいえない

従来、DVは夫から妻に対する暴力として語られることが多く、実際に公的な相談機関へ寄せられる相談も女性からのものが大半を占めています。
DVは、相手を支配しようとする言動、夫婦間の葛藤、本人の行動傾向など、さまざまな事情が重なって起こります。
また、男性の被害が以前より相談や報道を通じて表面化するようになった可能性もあります。「男性なら抵抗できる」「妻からの暴力は深刻ではない」と決めつけず、個々の被害内容を確認することが大切です。

(2)男性自身の羞恥心や抵抗感

「妻から暴力を受けていると知られるのが恥ずかしい」「男性なのだから我慢するべきだと思われそうだ」と考え、被害を相談できない男性もいます。
内閣府の調査でも、配偶者から被害を受けた男性は、女性よりも誰にも相談していない割合が高くなっています。
しかし、被害者が男性であっても、暴力や脅迫を我慢する必要はありません。配偶者暴力防止法や刑法は、被害者の性別によって適用を区別していません。

暴言や暴力によって心身に異常が生じている場合には、妻と二人だけで解決しようとせず、次のような機関へ相談しましょう。

・警察
・配偶者暴力相談支援センター
・自治体の男性相談、男女共同参画相談
・法テラス
・弁護士
・医療機関

DV相談ナビの全国共通番号「#8008」に電話すると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
参考:内閣府男女共同参画局「DV相談について」

妻の暴言、暴力、ハラスメントを理由として離婚や慰謝料を求める場合には、具体的な行為を説明する証拠が重要です。
ただし、証拠が十分にそろうまで危険な場所にとどまる必要はありません。暴力が激しくなっている場合や、刃物を持ち出す、殺害をほのめかすなどの行為がある場合には、証拠集めよりも避難と安全確保を優先してください。

(3)妻からのDV、ハラスメント離婚事例

妻から夫への暴言・暴力や虐待的な行為は、現在の民法770条1項4号に定められた「婚姻を継続し難い重大な事由」を判断する重要な事情になります。

2026年4月1日の民法改正によって、裁判上の離婚原因は次の4つとなっています。

・配偶者の不貞行為
・配偶者の悪意の遺棄
・配偶者の3年以上の生死不明
・その他、婚姻を継続し難い重大な事由

参考:e-Gov法令検索「民法」

妻から夫への虐待的な行為が問題となった裁判例として、東京高裁昭和58年8月4日判決が知られています。
この事案では、妻が夫を風呂上がりの状態でベランダに長時間締め出したほか、夫の背広やネクタイをはさみで切る、就寝中の夫にペーパーナイフで襲いかかってけがを負わせる、水やみそ汁などをかけるといった行為を繰り返していました。
また、妻が夫の勤務先へ働きかけたことなどにより、夫の就労にも影響が生じていました。
裁判所は、妻による一連の虐待的行為などによって婚姻関係が破綻したと判断し、夫からの離婚請求を認めました。

ただし、過去の裁判例で離婚が認められたからといって、暴言や夫婦げんかが一度あれば離婚できるわけではありません。
裁判では、次のような事情が総合的に判断されます。

・行為の内容と程度
・暴言や暴力が行われた回数と期間
・けがや精神的な不調の有無
・夫婦双方の言動
・別居期間
・婚姻関係を修復できる可能性
・未成年の子どもへの影響

DV妻と離婚したいと思ったら

妻の暴言・暴力やハラスメントを理由として離婚したい場合には、具体的な行為と、その行為によって婚姻生活にどのような支障が生じたかを整理することが重要です。
夫が妻の行為を主張すると、妻側から「夫も暴言を吐いていた」「夫の言動が原因だった」「正当防衛だった」などと反論されることがあります。
夫婦間のやり取りの一部分だけを切り取るのではなく、暴言や暴力に至った前後の状況も含めて説明できるようにしておきましょう。

なお、2024年4月施行の改正配偶者暴力防止法により、接近禁止命令などの対象が拡大されました。
接近禁止命令は、身体的暴力だけでなく、生命、身体、自由、名誉または財産に害を加える旨の脅迫を受け、その後も生命または心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合に申し立てられます。
接近禁止命令の期間は1年間です。電話やSNSによる連続した連絡、深夜・早朝の連絡、GPSによる位置情報の取得などを禁止する命令もあります。
ただし、単に暴言を言われたというだけで、必ず保護命令が発令されるわけではありません。脅迫の内容や、今後重大な危害を受けるおそれなど、法律上の要件を満たす必要があります。
参考:裁判所「保護命令(DV事件)」

(1)暴言、虐待、ハラスメントの証拠

妻からの暴言、暴力、ハラスメントが日常的に続いていると、いつ、どのような行為があったのかを正確に思い出せなくなることがあります。
「いつもひどいことを言われている」「毎日いじめられている」という抽象的な説明だけでは、調停委員や裁判官に被害の内容が十分伝わらない可能性があります。

次のような証拠を、可能な範囲で保存しておきましょう。

・暴言や脅迫を録音した音声
・暴力や物を壊す行為を撮影した写真、動画
・妻から送られてきたメール、SNS、メッセージ
・けがの写真
・壊された衣類や家財の写真
・医師の診断書、診療記録、医療費の領収書
・警察や相談機関へ相談した記録
・いつ、どこで、何をされたか記録した日記やメモ
・家族、友人、近隣住民などの証言

自分が参加している夫婦間の会話を録音したデータは、離婚調停や訴訟で証拠として提出できる場合があります。
ただし、録音があれば必ず事実が認められるわけではありません。録音された前後の状況、編集の有無、発言の意味なども確認されます。
また、相手のスマートフォンへ無断で侵入する、パスワードを破る、違法な方法で位置情報を取得するといった証拠収集は避けてください。

妻の行為によって不眠、抑うつ、強い不安などが生じている場合には、心療内科や精神科などを受診しましょう。
診断書は心身の状態を示す資料になりますが、診断書だけで妻の行為や病気との因果関係がすべて証明されるわけではありません。録音やメッセージ、相談記録などと合わせて提出することが大切です。

(2)妻に対する慰謝料請求

妻の暴言、暴力、ハラスメントが違法な行為と評価され、その行為によって婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を受けた場合には、妻へ離婚慰謝料を請求できる可能性があります。
ただし、夫婦げんかや価値観の不一致があったというだけで、当然に慰謝料が認められるわけではありません。

慰謝料請求では、主に次の点が問題になります。

・妻の行為が違法と評価できるか
・行為がどの程度悪質で、どのくらい続いたか
・夫に精神的または身体的な損害が生じたか
・妻の行為と損害の間に因果関係があるか
・婚姻関係が破綻した主な原因がどちらにあるか
・夫側にも婚姻破綻の原因があるか

妻の暴力などによって治療が必要になった場合には、不法行為に基づき、治療費、通院交通費、休業損害などを請求できる可能性もあります。
後遺症によって将来の収入に影響が生じた場合には、逸失利益が問題となることもありますが、症状の程度、就労への影響、因果関係について医学的・客観的な資料が必要です。
離婚慰謝料と、個々の暴力行為に対する損害賠償は、法的には区別して主張することがあります。ただし、同じ精神的損害について二重に賠償を受けられるわけではありません。

(3)早めに弁護士に相談する

妻の暴言や暴力を理由として離婚する場合には、離婚を切り出す前に弁護士へ相談する方法があります。
離婚を申し入れた後、妻が暴言や暴力を否定したり、「夫から先に暴力を受けた」などと反対の主張をしたりする可能性があるためです。

弁護士へ相談すると、次のような点について助言を受けられます。

・現在の事情で裁判上の離婚原因が認められる可能性
・安全に別居する方法
・集めるべき証拠と避けるべき証拠収集方法
・保護命令を申し立てられる可能性
・離婚調停や訴訟の進め方
・慰謝料や損害賠償を請求できる可能性
・財産分与や婚姻費用
・未成年の子どもがいる場合の親権や監護

慰謝料や治療費、休業損害などの金額は、交通事故の基準をそのまま当てはめて決めるものではありません。
行為の悪質性、期間、けがや精神症状の程度、治療期間、収入への影響などを踏まえて、個別に判断されます。
また、妻と直接交渉することで被害が悪化するおそれがある場合には、弁護士を窓口として連絡を行う方法もあります。

まとめ

以上、妻の暴言、暴力、ハラスメントを理由として離婚する場合の注意点についてご紹介しました。
配偶者暴力防止法は、被害者を女性に限定していません。夫が妻から暴力や脅迫を受けている場合も、警察、配偶者暴力相談支援センター、裁判所などへ相談できます。
2026年4月以降、妻の暴言や暴力によって夫婦関係が破綻した場合には、民法770条1項4号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかが問題となります。
十分な証拠がない場合でも、長期間の別居や夫婦間の交流状況などから、婚姻関係が修復できないほど破綻していると認められれば、離婚が成立する可能性はあります。
一方、慰謝料を請求するには、離婚が認められるだけでなく、妻の違法な行為、損害、因果関係などを具体的に説明する必要があります。
暴力や脅迫がある場合には、安全を最優先にしてください。精神的に追い詰められる前に、弁護士や公的な相談機関へ相談しましょう。