子どもの連れ去り|子どもを取り戻すための3つの方法

突然妻が子どもを連れて家を出て行ったり、夫が子どもを連れて実家に帰ってしまうケースはかなり多いものです。この場合には、まず子どもの引き渡し等を求めることを検討すべきです。

子どもが連れ去られた時

子どもがいる夫婦が離婚する場合には、どちらが子どもを引き取るかで争うケースが多々あります。そして、離婚前に子供を連れて別居をしたり、親権者に決まったのに相手が子どもを引き渡してくれない場合があります。

たとえば、「自分は普通の夫婦生活を送っていると思っていたのに、ある日突然妻が子どもを連れて家を出てしまった…」というケースがあります。妻は、かなり前から夫との離婚を考えていて、「子どもの親権を欲しい場合には、子どもと離れない方がよい」というおとを知っていて、子どもを連れて家を出る準備をしているわけです。
特に子どもが春休みや夏休みに入る前のタイミングに、家を出ることが多いようです。

また、夫婦間で離婚について話し合っていたところ、夫が子どもを学校等に迎えに行き、そのまま子どもを連れて帰ってしまったということもあります。、

このようなケースでは、子どもを連れていかれた側はパニックになり、義親や友人に所在を訪ねるものの、事前に口止めをされていて行方が分からないということも多いようです。

しかし、だからと言って諦めて時間が経過してしまうと、子どもの新たな生活環境が安定してしまい、その後離婚の手続きを進める際に、子どもの親権や監護権を主張しても認められなくなってしまいます。

したがって、子どもの親権者となりたい場合には、すぐに子の引き渡し請求等を検討すべきです。

このように、子どもを連れ去られた場合には、3つの方法があります。

(1)「子の引き渡し」を求める調停・審判

華麗裁判所に「子の引き渡しの調停」を申し立てた場合には、相手方と子どもに精神的な負担をかけることがないよう、さまざまな面に配慮して、子どもの意向を尊重した取り決めができるよう、話し合います。
そして、子の調停で解決がつかなければ、自動的に審判に移行します。また、子の引き渡しは、最初から審判を申し立てることもできます。

審判になると、家事審判官(裁判官)が、さまざまな事情を考慮して審判をします。親権者や監護者からの申立てでは、特別な事情がない限りは子どもの引き渡しは認められると考えて良いでしょう。

(2)「審判前の保全処分」

前述した「子の引き渡し」の調停、審判は時間がかかります。
そこで、できるだけ早く子どもを取り戻したいという事情がある時には、調停、審判の申立てとともに「審判前の保全処分」を申し立てることをおすすめします。

この「審判前の保全処分」が認められると、審判を待たずに申立人に子供を仮に引き渡すようにという命令を出してもらうことができます。

審判前の保全処分には、間接強制をつけることもできます。間接強制とは、「子どもを引き渡すまで1日○円を支払え」という、金銭的な負担を与えるものです。

(3)「人身保護請求」の制度を利用する

連れ去った親が子どもに暴力をふるう可能性があるなど、子どもの心身に危険があり緊急を要する場合には、地方裁判所に「人身保護請求」の手続きをとりましょう。
なお、この手続きは弁護士が行うことになっているので、すぐに弁護士に相談して代理人を依頼しましょう。

子どもを取り戻したい時に知っておきたいこと

子どもを一方の親に連れ去られて、子どもの親権が欲しいという場合には、これまでご紹介してきたように子の引き渡し請求を申し立てたり、「審判前の保全処分」を申し立てたりすることになりますが、調停や審判などでは、どのような点が重視されるのかを理解しておくことが必要です。

(1)子の利益が最も優先される

親権は、父母が婚姻中は、父母が共同して行う「共同親権」です。
したがって、夫婦が別居中であっても離婚が成立していない場合には、父母は子どもの共同親権者です。
共同親権者である別居中の夫婦間の子の引き渡しについては、離婚後の子の監護に関する規定である民法766条2項を類推解釈して、子どもの利益を最も優先して考慮しなければならないとされています。

つまり、一方の親が会わせたくないと言っても、子どもが会いたがっていてそれが子どもの利益のためであれば、子の引き渡しをしなければならないと解釈されます。

たとえば、「夫婦で離婚について話し合っている中で、夫が子どもの保育園から勝手に子どもを連れ帰った」というようなケースであれば、夫による子どもの連れ去りは違法であると判断される可能性があります。

そのため、親権についても、夫の「子どもを連れ去った行為」が不当な行為であると見られれば、親権者としての適格性が疑われ、妻が親権者となる可能性が十分あります。

(2)子の連れ去りの違法性

事前に夫婦間での話し合いもなく、妻が子どもを連れて別居した場合、その行為は共同親権者であるもう一方の親権を侵害していて、違法な行為であると考えられます。

以下に松本哲弘氏の「子の引渡し・監護者指定に関する最近の裁判例の傾向について」家裁月報63巻9号から、妻による子の連れ去りの違法性についての記述をご紹介します。

「他方の親の同意なく開始された監護は、その開始が平穏であったとしても、違法であると主張されることがあるが、必ずしも違法であるとはいえない。別居に当たって、親が子を連れて出ることは少なくなく、その場合、他方の親の同意を得ないで連れていくことはまれではない。

わが国では、親権を有する母親が共同親権者の同意を得ないでした行為であっても、法制度上、これが明確に違法であるとはされていなかったし、従来から子が幼いときはその養育は母親の責任であり、母親が子のそばを離れることは育児の責任を放棄することであって許されないとする考え方もあって、社会通念としても、母親が父親の同意を得ないで連れ出したとしても、これが違法であるとは、必ずしも考えられてこなかった。

そして、核家族化した現代においても男性が育児を女性にほぼ全面にゆだねている場合は決して少なくなく、そのような場合に女性が別居するにいたって子を連れだせないとすれば、子の生命身体に危険が生じることもあり、主たる監護者であった母親が別居に当たって他方の親の同意なく子を連れだしたとしても、他方の親の意向に必ずしも反しないと言える場合があり、これを一概に違法であるとすることはできない。

その違法性の有無は、子の年齢やその意向、連れ出すにあたっても具体的な経緯及び態様等を総合的に考慮して判断すべきであると思われる。」

つまり、上記松本哲弘氏の記述を簡単にいえば、実際には母による子どもの連れ去りは違法であるとは考えられていません。他方父が母に無断で子を連れて家を出る行為は違法であると判断される傾向にあるということになります。

しかし、今後は性別役割分担の見直しや「イクメン」という言葉が流行するほど子の養育に関わる父親が増えたこと、「国際的な子の奪取の民事法上の側面に関する条約(ハーグ条約)」の加入等の理由から、徐々にこのような考えが見直されていくことになると考えられています。

父親が親権をほしいと思っている場合には、以下の記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。

▶ 父親が親権を勝ち取るためにアピールしたい5つのこと

(3)父による子の引き渡し請求を認めた判例

これまでご紹介してきたように、母による子どもの連れ去りは違法ではなく、他方父が母に無断で子を連れて家を出る行為は違法であると判断される傾向にありましたので、父による子どもの引き渡し請求を認めた判例は少ないのが実情です。

しかし、なかには父親による子どもの引き渡し保全処分を認めた判例がありますので、ご紹介します。

母が1人で実家に帰った後、保育園に行き、3歳である長男を連れだして監護したケースで、父が子の監護者を仮に父と定め、子の仮の引き渡しを求める審判前の保全処分の申立てをした事案について、東京高裁は以下のように述べて、子の父への仮の引き渡しを認めました。

「共同親権者である夫婦が別居中、その一方の下で事実上監護されていた未成年を、他方が一方的に連れ去った場合において、従来三M成年者を監護していた親権者が速やかに未成年者の仮の引き渡しを求める審判前の保全処分を申し立てた時は、従前監護していた親権者による監護の下に戻すと未成年者の健康が著しく損なわれたり、必要な養育監護が施されなかったりするなど、未成年者の福祉に反し、親権行使の態様として容認することができない状態になることが見込まれる特段の事情がない限り、その申立てを認め、しかる後に監護者の指定等の本案の審判において、いずれの親が未成年を監護することがその福祉をかなうかを判断することとするのが相当である。」

この事案は、母が1人で実家に帰り、父が子の監護をしていた事案で、母が父に無断で子を連れて別居した場合にも、同様の判断が下るとはいえませんが、今後は母による子の無断連れ出しの違法性が認められるケースは増えていくだろうという見方もあります。

まとめ

以上、子どもを一方の親に連れ去られてしまった時に知っておきたいポイントについて、ご紹介しました。

母による子どもの連れ去りは違法ではなく、他方父が母に無断で子を連れて家を出る行為は違法であると判断される傾向にあるものの、父親が積極的に育児に関わってきたなどの事情があれば、子の引き渡し請求が認められる可能性が十分にあります。
したがって、子の引き渡し請求の審判、保全処分の申立てなどを検討すべきです。
その際には、併せて子の監護者を父(または母)に指定する審判や保全処分の申立てをすることが一般的ですが、父の場合には不利になることもありますので、まずは速やかに子の引き渡しの審判、保全処分のみを申し立てる方が望ましいともいえます。

もし、子の引き渡しの審判、保全処分が下されない場合でも、審理においては調査官調査が行われるので、その調査を通じて子の監護状況を知ることは十分可能です。

また、「人身保護請求」の制度を利用することもできますが、その場合は弁護士に依頼する必要があります。