妻から慰謝料を請求された時、知っておきたい5つのポイント

妻から離婚を求められる時には、同時に財産分与や多額の慰謝料を要求されることがあります。離婚というと、夫から妻に高い慰謝料を支払うというイメージを持っている人もいますが、離婚するからと言って、必ず慰謝料を払わなければならないわけではありませんし、日本の慰謝料の相場はそれほど高いものではありません。

この記事では、妻から高額な慰謝料を請求された時に、知っておきたい5つのポイントをご紹介します。

慰謝料を請求された時に知っておきたい5つのポイント

離婚する時の慰謝料は、どんな場合でも発生するというものではありません。
たとえば、離婚原因として最も多い「性格の不一致」では、請求できません。
また、夫婦の双方が不倫をした場合には、相殺という意味で慰謝料が発生しないこともあります。
ただしそれを知らないケースでは、相手から相場以上に高額な慰謝料を請求されることもあるので、注意が必要です。

(1)そもそも慰謝料とは

まず、慰謝料とは相手の行為によって受けた精神的・肉体的苦痛に対する損害賠償金のことで、離婚する時にいつでも請求できるものではありません。
たとえば、性格の不一致とか、強度の精神病など相手に責任のない離婚の場合には、慰謝料の請求は認められません。

慰謝料は、「相手が暴力をふるった」「浮気をした」など苦痛を受けた場合に請求することができます。
また、離婚で配偶者としての地位を失う苦痛に対して、慰謝料が認められることがあります。
前者を「離婚原因慰謝料」後者を「離婚自体慰謝料」といいますが、裁判ではこの2つを区別せずに扱うケースが多いようです。

(2)まずは当事者同士で話し合う

慰謝料の金額や支払い方法に、ルールなどはありません。また、金額も精神的苦痛の度合いや相手の資産、収入に応じて、夫婦で話し合って自由に決めることができます。

したがって、もし高額な慰謝料を請求されたとしても、養育費など他の離婚条件を総合的に考慮して、また、支払い能力なども勘案して離婚慰謝料額を交渉することができます。

(3)安易に妥協することはない

離婚する時には、当然夫に慰謝料を請求できると考えている妻がいます。
また、夫も自分が浮気をしたなど、離婚原因がある場合には「請求されたとおりに支払わなければならないのだ」と思い、高額な慰謝料を支払う旨の離婚協議書を作成して、後々トラブルに発展するケースがあります。

しかし、自分が浮気をしたからと言って、言われるがままの高額な慰謝料を必ず支払わなければならないということはありません。。

働く妻が増えてきたこともあり、妻の社会的経済的地位が以前より向上したことなどによって、離婚が妻に与える精神的な打撃は以前より減少しているという声もあります。
そして、そのような社会的背景等によって、裁判所が訴訟で認定する離婚慰謝料の額は低額化している傾向にあります。

また、浮気をしたら必ず慰謝料を払わなければならないかというと、そういうことでもありません。

たとえば、夫婦の仲が冷え切って、夫婦関係が破綻した状態になってから、浮気をしたり愛人をつくったりした場合には、離婚原因をつくったことになならないので、慰謝料請求の対象にはなりません。

つまり、自分が浮気をする前に夫婦関係がすでに破綻した後であれば、相手から慰謝料を請求されても応じる必要はありません。

ただし、この場合には、浮気をする前にすでに夫婦関係が破綻していたことを証明する必要があります。

(4)支払い能力・過去の判例などを示す

妻から高額な離婚慰謝料を請求された夫は、現在の裁判実務や判例の傾向を示しながら交渉し、「仮に離婚訴訟となった場合には、このくらいの慰謝料が相場である」など具体的な額を示しながら、根気よく交渉することが必要です。
したがって、もし交渉が難航しそうであれば、過去の調停や審判、裁判などの予備知識をあらかじめ得ておく方がよいでしょう。

これまでの裁判の判例によると、慰謝料は平均で200万円前後、高額な場合でも500万円程度です。
具体的には、浮気や不倫など不貞行為に対する慰謝料は300万円前後、暴力に対する慰謝料は比較的重い障害が生じた場合で200万円から300万円程度が相場のようです。

悪意の遺棄(生活費を出さない、勝手に家を出て顧みないなど)に対する慰謝料は200万円ほどで、財産分与を多くして不足分を補うこともあります。

精神的苦痛や肉体的苦痛が激しかったり婚姻期間が長かったりするとお、慰謝料額がアップすることがあります。

また、未成年の子どもがいるか、浮気やなど離婚原因をつくった側の経済力や社会的な地位なども考慮されます。

①慰謝料1,500万円
過去の判例では、1,500万円という高額な慰謝料が認められたケースもあります。
この判例は、夫が他の女性と同棲してその女性との間に2人の子どもをもうけ、別居期間が約40年にも及び、その間、夫は妻に建物を与えた以外、40年間何も経済的な給付をしておらず、夫は77歳、妻は73歳になっているケースなので、かなり特殊な例といえるでしょう(東京高判 平成元年11月22日)。

②慰謝料1,000万円
夫の不貞行為に加え、悪意の遺棄によって婚姻が破綻した事例では、離婚慰謝料として1,000万円が認められています。この事例では、夫に多額の財産があったことも考慮されています(横浜地判 昭和55年8月1日)。

③慰謝料1,000万円
夫の不貞行為に加え、その後夫が暴力を振るったため、婚姻生活が破綻した事例では、慰謝料1,000万円が認められています。

上記でご紹介したように、1,000万円を超える離婚慰謝料が認められる場合もありますが、自分自身の事例ではどのくらいの額が妥当なのか、弁護士などの専門家に相談した方がよいでしょう。

弁護士に相談して、妥当な金額についてアドバイスしてもらうためには、相手に請求された額はもちろん、相手の具体的な言動や行動、自分の収入や財産、婚姻関係が破綻していたか、未成年の子どもはいるかなど、さまざまな要因が影響しますので、これらが分かるように整理して伝えるようにしましょう。

(5)調停や裁判などを利用する

離婚慰謝料について、相手が頑として高額な慰謝料を請求する態度を崩さなかったり、話し合いがまとまらなかったりすることはよくあります。
なかには、離婚を急ぎたいと考えるあまり「相手の望む慰謝料を支払ってしまおう」と言われるがままに、相手から提示された離婚上面に応じてしまい、離婚協議書に署名押印してしまう人がいますが、後々支払いが苦しくなり給料を強制執行されてしまうことがあります。

そこで、話し合いがまとまらない場合には、調停や裁判などを利用することも検討し、早めに弁護士に相談しましょう。

調停では、調停委員のアドバイスをもとに双方の合意で慰謝料の金額などを決めます。
調停でも話し合いがつかずに、裁判に進んだ場合は、裁判官の判断によって金額が決定されます。
裁判でも、さまざまな事情を考慮して金額が決められますが、芸能人やハリウッドの有名人の離婚のように、高額な慰謝料が認められることはありませんし、実際には、財産分与を含んだ金額である場合が多いようです。

そして、裁判離婚でも一般には200万円から300万円が多く、500万円がほぼ上限ということがいえるようです。

法学者である二宮周平教授も、「判例には、慰謝料の相場のようなものがあり、物価の上昇にもかかわらず、1976年以降、平均でも200万円前後、最高額は500万円で頭打ちという状況にある。夫婦財産の清算を中心に、財産分与で増額を図り、有責異性を問題とする慰謝料については、あまり消極的ではない傾向が見られる」と述べられています(二宮周平 家族法103ページ)。

慰謝料をさらに理解する3つのポイント

これまで、離婚慰謝料の話し合いや考え方、過去の判例などについて、ご紹介してきましたが、離婚慰謝料については、その他にも知っておきたいポイントがあります。

(1)慰謝料は第三者にも請求できる場合がある

慰謝料は、配偶者だけでなく第三者にも請求されることがあります。
たとえば、あなたが夫で浮気した場合、妻は夫であるあなた以外にも、浮気相手にも慰謝料を請求することができるのです。

つまり、もしあなたの浮気相手が、あなたが既婚者であると知りながら肉体関係を持った場合には、妻が浮気相手にも慰謝料を請求する場合があります。

ただし、浮気相手が既婚者であることを知らずに肉体関係を持った場合や、夫婦関係が破綻した後に浮気をした場合などは、妻が慰謝料を請求するのは難しいでしょう。

(2)離婚後の慰謝料請求もある

離婚時には浮気が発覚しておらず、離婚後に元配偶者の浮気が発覚することがあります。また、慰謝料について話し合いがまとまらず、まずは先に離婚を成立させることがあります。
このような時は、離婚後に慰謝料を請求されることがあります。
もし、慰謝料を請求されて協議に応じないでいると、家庭裁判所に調停を申し立てたり、地方裁判所に慰謝料請求の裁判を起こされたりしてしまいます。

したがって、面倒だからと放置せず、誠実に話し合いに応じるか、弁護士に相談して相手との交渉を任せるようにしましょう。

(3)慰謝料には時効がある

慰謝料には時効があります。
通常の離婚原因慰謝料は、損害および加害者を知った時から3年を過ぎると、慰謝料を請求すること(されること)はできなくなります。
ただし、2020年4月1日から、暴力など生命・身体を侵害する不法行為の慰謝料は、損害および加害者を知った時から5年以内まで請求することができます。

まとめ

以上、妻から高額な慰謝料を請求された時に知っておきたポイントについて、ご紹介しました。

妻から高額な慰謝料を請求された時には、まずは妻の真意を確認する必要があります。場合によっては、妻は離婚したくないという思いから意固地になり、夫に対して到底支払えないような金額の慰謝料を請求している場合もあるからです。

しかし、もし妻が本当に離婚をしたいと思っていて、「離婚はしたいが、離婚後の生活に不安があり、できるだけ夫から慰謝料をとりたい」と思っている場合には、ご紹介したような離婚慰謝料の判例や相場を前提として、現実に支払える額や支払い方法について、妻と協議したり調停などの利用して話し合うことが必要です。