DV夫と言われ、面会交流を断られた時の対処法

別居したり離婚したりした妻に、子どもへの面会を申し入れたところ、妻へのDVを理由に拒否されることがあります。

このような時、どのように対応すればよいのでしょうか。

DV夫と言われ、面会交流を拒否された

「別居した妻に、子どもと会いたいと面会を申し入れたところ、妻からDV夫には会わせられないと拒否された」という相談は、多いものです。
中には、まったくDVの事実がないのに、DVをでっち上げる場合や、大声をあげた程度のことを「DVだ」と誇張して主張されることもあります。

(1)実際にDVがあった場合は面会交流は難しい

夫が妻に実際に暴力を振るっていて、それが離婚原因となって妻が子どもを連れて家を出た場合には、夫が子どもとの面会をもとめても、実現はかなり難しいと言わざるを得ないでしょう。

妻には、夫から暴力を振るわれたことに対する恐怖や嫌悪の感情があり、子どもとの面会交流に協力する気持ちになれないものだからです。

ただ、仮に妻への暴力があったとしても、子どもに影響を与えていない場合には、子との面会交流を認めるべき理由を主張することで、子どもとの面会交流が認められる場合があります。

また、面会交流は子どもの福祉にとって害がある場合には、拒否や制限が認められることがあります。たとえば、子どもに暴力をふるう、養育費を支払う義務、能力があるのに、支払わない(親としての義務を果たさない)、子どもに一方の親の悪口を言う、連れ去りのおそれがある、子どもが面会を嫌がるなどの場合です。

(2)DV防止法に基づく保護命令が発令されている時

夫にDV防止法に基づく保護命令が出されている場合、調停や審判で面会交流が認められる可能性は極めて低いということができます。
「保護命令が発令されて、その効力がある時には、面会交流の実現は相当難しいといえる。特に、非監護親と子どもの接触も禁止されているときには、面会交流の実現は極めて困難である」とされ、これは、審判などでも同様の判断がなされています。

夫の面会交流の申立てが却下されたケース
① 妻が3人の子を連れて別居した原因っは、夫の暴力にあり、妻は各地の福祉施設を転々として、夫に対し妻及び子らへの接近禁止の仮処分命令が出ていた事案について、裁判所は夫の面会交流の申立てを却下しました(東京家審 平成13年6月5日)。

② 夫に対してDV防止法に基づいて接近禁止命令が出された後、夫が妻に事の面会交流を求めた事案について、裁判所は、以下を理由として夫の面会交流の申立てを却下しました。

「真に子の福祉に資するような面接交渉(面会交流)を実施するためには、父母の間の信頼・協力関係が必要である。

しかるに、本件においては、相手方(妻)が申立人(夫)の暴力等を理由に提起した離婚訴訟が係属しているのみならず、保護命令が発令されており、申立人と相手方は極めて深刻な紛争・緊張状態にある。

従来からの経緯に照らせば、このような深刻な対立状態が早期に解消されることは期待しがたいとみるのが相当である。

そうすると、未成年者はまだ2歳の用事であるから、このような状況下で面接交渉を行えば、父母の緊張関係の渦中に巻き込まれた未成年者に精神的な動揺を与えることが避けられないので、未成年者の福祉に害するというべきである。」(東京家審 平成14年10月31日)

(3)夫婦けんか程度であれば、面会交流は拒否されない

妻が夫の暴力を主張していたものの、夫婦けんか程度のもので、けんかの際には互いに暴力を振るっていたものの、いずれも打撲程度であり、深刻なけがを負わせるような暴力を振るったとする証拠がない場合には、「激しい暴力を振るっていたととまでは認められない」として、1か月半に1回の割合で、第三者である社団法人職員の立ち会いのもとで、面会交流を認めています(東京家審 平成18年7月31日)。

つまり、通常の夫婦けんか程度の暴力であれば、面会交流を否定する理由とはならないといえるでしょう。

DVが虚偽の場合

暴力の事実がないのに、妻が暴力を主張して面会交流を拒否する場合があります。
しかし、妻が夫のDVを主張すると、事案と調停委員や家裁調査官に「夫が暴力を振るっている事案である」と先入観を持たれてしまうことがあります。

このような場合には、妻の虚偽の申告について損害賠償請求することも検討すべきです。

(1)調停などでは、丁寧に反論する

面会交流の調停などの場では、感情的にならず冷静に「DVなどない」ということを反論しましょう。感情的に反論しても、さらに先入観を増幅させてしまう危険があります。

したがって、「DVの事実などない」「暴力を振るうような人間ではない」ということを具体的かつ丁寧に、辛抱強く反論をする必要があります。

また、面会交流については、家庭裁判所で試行的面会交流が行われることがありますが、その際には母を非難するような言動は避けること、そして「面会交流は自分の権利だ」とばかり高圧的な言動を避けることなどに注意してください。
そして、子どもを不安にさせたりしないよう、十分配慮することが大切です。

(2)法的手段としては、履行勧告などがある

DVが虚偽であり、審判などで子どもとの面会交流が認められたにもかかわらず、妻が依然として子どもとの面会交流を拒む場合には、法的手段として履行勧告、間接強制、再調停の申立てなどがあります。

履行勧告
面会交流を実施する旨の調停や審判がされたのに、その内容が実現されない場合には、父は面会交流を定める調停や審判をした家庭裁判所に対し、履行勧告の申し出をすることができます。
しかし、家裁調査官の働きかけがあっても、母が面会交流を拒否する場合には、結局履行勧告をしても、面会交流を実現することはできなくなります。

間接強制
間接強制とは、執行裁判所が債務者(母)に対して、審判または調停で定まった事項の履行遅延の期間に応じて、または相当と認める一定の期間に履行しない時には、直ちに債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者「父」に支払うべき旨を命令するものです。
間接強制をするためには、調停調書や審判書で、面会交流の回数や日時などが特定されている必要があります。

(3)不法行為に基づく損害賠償請求も可能

DVがでっち上げであるにも関わらずDV防止法による保護命令が出ている場合や、妻が夫の暴力を理由に住所を秘匿している場合には、面会交流の実施はかなり難しいということになります。

したがって、このような場合には保護命令について抗告によって争うとともに、妻の虚偽の申告による損害賠償請求等を検討すべきということになります。

なお、調停や審判でDVがでっち上げであり、面会交流を実施すべきと決められたにも関わらず、面会交流を拒否する場合には、父は母に不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)の請求をすることができます。

過去には、500万円の慰謝料の支払いを命じた事例もあります(静岡地浜松支判 平成11年12月21日)。

まとめ

以上、DV夫と言われ、面会交流を拒否された時の対応について、ご紹介しました。DVが事実である場合には、子どもとの面会交流はかなり難しくなりますが、DVがでっち上げであったり、夫婦けんかの打撲程度の傷で深刻でない、お互いに暴力をふるっていたなどの事情があり、子どもに深刻な影響を与えていない場合には、子との面会交流が認められることがあります。

また、妻がDVをでっち上げたことに腹を立てる気持ちは十分理解できますが、それを調停や審判で感情的に反論することは避けましょう。調停委員や裁判官の心証を良くするためにも、「DVの事実などない」ということをていねいかつ冷静に反論するようにしましょう。