妻が勝手に別居|生活費は払うべき?妻が勝手に引き出した預金はどうなる?

「妻が勝手に家出をして、貯金通帳など持ち出した。預金を引き出せないようにしたら、生活費を要求してきた」というケースがあります。

このような場合、夫は妻の要求に従って、生活費を支払わなければならないのでしょうか。また、勝手に引き出されたお金は取り戻すことができるのでしょうか。

勝手に出て行った妻の婚姻費用

「ある日突然、妻が離婚をしたいと置手紙をして、家出をしました。その後、生活費を支払うよう調停を申し立ててきました」…最近は、このような男性からの相談は増えています。

なかには、夫名義の預金を勝手に下ろして、そのお金を持って家を出て行ってしまうケースもあります。
このような時、夫はどのように対応するべきなのでしょうか。

(1)貯金通帳も持って行ってしまった

妻が家出をする時に、預金通帳やキャッシュカード、印鑑を持ち出してしまった場合には、金融機関にキャッシュカードや通帳などの紛失届を出して、妻が勝手に預金を引き出せないように対処しましょう。

本来は、このようなことが起きないよう、妻に完全に管理を任せるのではなく、生活費口座と預金口座を分けるなどするべきなのですが、実際には「家計は妻にすべて任せている。」という男性は多いのではないでしょうか。

極端な場合には、妻に家計管理一切を任せ、自分は妻から小遣いをもらうだけで、うちに貯金がいくらあるかもわからない」という男性もいます。

このような男性の場合、生涯幸せな夫婦生活が続けば問題はありませんが、ある日突然妻から離婚を切り出され家を出てしまうと、極めて不利な状態になってしまいます。

自分や妻の預金、株券などの財産がどこにいくらあるのか全く把握していないと、妻にこれらを隠されてしまい、手も足も出ないことになってしまいます。

このようなことにならないようにするためには、どんなに妻を信頼していたとしても、少なくとも自分の預貯金や有価証券などについては、定期的に確認しておくことが必要です。

(2)生活費(婚姻費用)は払うべきか

別居時に夫名義の預金を勝手に下ろして別居し、その後夫に婚姻費用の請求の調停を申し立ててくる妻は、少なくありません。

夫にしてみれば、踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂、盗人に追い銭という気持ちでしょうが、このような時でも、原則として夫は妻に言われるがままに生活費を支払わなければなりません。

婚姻費用の調停では、婚姻費用は原則として夫と妻の収入を基準に算定するので、妻が勝手に下ろした夫の預金は考慮されないからです。

過去には、妻が持ち出した預金を考慮して婚姻費用の算定をしたケースもありますが、実際は、妻が夫名義の預金を勝手に下ろして別居した場合にも、夫婦でいる限りは夫は婚姻費用の支払いをしなければならないということになります。

婚姻費用は、離婚の話し合いや交渉においては、妻側の武器になります。
仮に婚姻費用が10万円とすれば、1年で120万円です。もし調停や訴訟で1年以上の長期化が見込まれるとすれば、婚姻費用の負担はさらに大きくなり夫を追い詰め、離婚に納得できない夫にしてみれば、「これ以上、婚姻費用の支払いが続くのは我慢できない」として、離婚に応じる気持ちになっていくわけです。

離婚すれば、妻は赤の他人になりますので、養う義務はなくなり、婚姻費用は支払わずに済むからです(※もちろん、子どもがいる場合には、離婚しても養育費の支払いは残ります)。

ただし、妻が浮気をして、その不倫相手と住むために家を出て行ったなど、明らかに妻に非がある場合には、婚姻費用を支払わないでよくなることもあります。

したがって、妻から婚姻費用分担調停を申し立てられた場合には、早めに弁護士に相談して、妻の浮気や不貞行為の証拠を集めるなど必要な対策をとることをおすすめします。

(3)妻が勝手に使ったお金は取り返せるか

前述のとおり、妻が別居前に勝手に預金を引き出した場合には、婚姻費用の算定では考慮されませんが、後々財産分与の話し合いの際に考慮されることがあります。

具体的には、夫名義の預金はこれが婚姻期間中にできた預金であれば、財産分与の対象財産となり、他の財産(婚姻期間中に築いた財産であれば、妻名義の財産も含まれる)を合算して財産分与対象財産を確定します。

そして、原則としてその夫婦で2分の1ずつ分けることになりますが、妻の取得分から妻が勝手に引き出した預金分を引くことになります。

この計算で、妻の取得分がゼロもしくはマイナスになった場合には、調停等で、裁判所から妻に夫への返金を命じることになります。

しかし、妻が勝手に引き出した預金の返金を、裁判所から妻に命じたところで、妻に財産がない場合には、強制執行をすることができず、現実には妻からお金をとることはできません。

したがって、繰り返しになりますが、このようなことがないよう婚姻期間中から妻が夫名義の預金を勝手に下ろすことができないように、生活費口座と預金用の講座を分けるなどして管理することをおすすめします。

婚姻費用の支払いを拒否するとどうなる?

妻が別居して、その後婚姻費用を請求してきた場合、まずは当人同士で話し合うことになりますが、それでも決まらない場合には、妻から「婚姻費用分担調停」を申し立ててくることになります。

この調停や審判で決まった婚姻費用を、「勝手に出て行ったのに、納得できない」として支払わない場合、どうなるのでしょうか。

(1)給与を差し押さえられることも

調停や審判で決まった婚姻費用を支払われない場合には、妻は裁判所に申し立てて、夫の財産を差し押さえることができます。
もし、夫がサラリーマンである場合には、給与が差し押さえられてしまうわけです。そうなると、離婚トラブルを会社に知られてしまいます。そして、離婚が成立するまでの間、婚姻費用が給料から天引きされてしまうことになってしまいます。

(2)妻に非がある場合には支払いが拒否できることもある

前述したとおり妻が浮気をしたなど、明らかに妻に非がある場合には、婚姻費用を支払わなくてもよいこともあります。

ですから、妻から婚姻費用分担調停を申し立てられた場合には、調停や審判などでその点をしっかり主張しましょう。そして、弁護士に相談してその主張を裏づけるための証拠を揃えるようにしましょう。

(3)失業中は支払う必要はない

婚姻費用は、離婚するまでは原則として支払わなければなりませんが、夫に収入がない場合には、基本的に婚姻費用を支払う必要はありません。
婚姻費用を支払わなければならない根拠は、収入・財産のある側が、収入・財産のない側を養うことにあるからです。

ですから、婚姻費用の支払いが決まったとしても、途中で収入がなくなったり減ったりした時には、支払が免除されたり減額されたりすることがあります。

当事者間の交渉が進まない時には、再び裁判所に調停を申し立てる必要があります。

まとめ

以上、妻が勝手に別居をして、預金を引き出し、その後婚姻費用を要求してきた時の対処法についてご紹介しました。

妻が別居して夫名義の預金のカードや通帳を持っていった場合には、速やかに金融機関に連絡して紛失届を出し、その口座から払い戻しをできないようにしましょう。

また、妻に非がある場合には、婚姻費用を要求されても拒否できる場合がありますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。