年金分割制度とは、離婚したときに、婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦の間で分割する制度です。
ここでいう「年金を分ける」とは、相手が受け取っている年金を毎月半分ずつ振り込んでもらう、という意味ではありません。分割するのは、会社員や公務員などが加入する厚生年金について、婚姻期間中の年金額の計算の基礎となる「標準報酬月額・標準賞与額」です。
分割後は、それぞれの記録をもとに将来の老齢厚生年金などが計算されます。つまり、年金分割は「相手の年金をもらう制度」というより、「婚姻期間中の厚生年金記録を組み替える制度」と考えた方が正確です。
対象となるのは、厚生年金の報酬比例部分です。国民年金の老齢基礎年金は年金分割の対象になりません。そのため、自営業者同士の夫婦など、婚姻期間中に分割の対象となる厚生年金記録がなければ、基本的に分割できる記録もありません。
なお、かつて公務員などが加入していた共済年金は、2015年10月の被用者年金一元化によって厚生年金に統一されています。現在は、公務員や私学教職員などの被用者年金も厚生年金の枠組みで扱われています。
年金分割は、離婚しただけで自動的に行われるものではありません。離婚後に年金事務所などで請求する必要があります。2026年4月1日以降に離婚等をした場合、請求期限は原則として離婚等をした日の翌日から5年以内です。2026年4月1日前に離婚等をした場合は、従来どおり原則2年以内となります。
ここでは、年金分割のしくみ、対象となる年金、分割割合の考え方、合意分割と3号分割の違い、請求期限や手続きについてご紹介します。
Contents
年金分割制度とは
年金分割制度は、婚姻期間中に積み上がった厚生年金記録を、離婚時に夫婦の間で分割できる制度です。
たとえば、夫が会社員として働き、妻が専業主婦として家事や育児を担っていた場合、厚生年金の記録は主に夫側に積み上がります。しかし、婚姻中の生活は、収入を得る側だけでなく、家事や育児を担う側の協力によって成り立っていたと考えられます。
そこで、婚姻期間中の厚生年金記録を一定の割合で分割し、その後それぞれの年金額に反映させるのが年金分割制度です。
ここで重要なのは、分割されるのが「毎月支給される年金そのもの」ではないことです。厚生年金の計算に使われる標準報酬月額・標準賞与額の記録が改定され、分割後の記録をもとにそれぞれの年金額が計算されます。
年金分割の対象になる年金
年金分割の対象になるのは、婚姻期間中の厚生年金記録です。
日本の公的年金は、大きく「1階部分」と「2階部分」に分けて考えると分かりやすくなります。
1階部分は国民年金です。原則として20歳以上60歳未満の人が加入し、老齢基礎年金の基礎になります。
2階部分は、会社員や公務員などが加入する厚生年金です。給与や賞与に応じて標準報酬月額・標準賞与額が記録され、将来の厚生年金額に反映されます。
年金分割の対象となるのは、このうち厚生年金の報酬比例部分です。国民年金の老齢基礎年金、国民年金基金、企業年金、確定拠出年金などが、そのまま離婚時の年金分割制度によって半分にされるわけではありません。
ただし、企業年金や確定拠出年金などを離婚時の財産分与でどう扱うかは、年金分割とは別の問題です。制度や財産の性質によって扱いが異なるため、年金分割と財産分与は分けて考える必要があります。
婚姻期間中の記録だけが対象
年金分割で対象となるのは、原則として婚姻期間に対応する厚生年金記録です。
結婚前に働いて積み上げた厚生年金記録や、離婚後に積み上がる厚生年金記録まで分割されるわけではありません。
たとえば、夫が30年間会社員として厚生年金に加入していても、婚姻期間が20年間であれば、基本的に年金分割の対象となるのは、その20年間に対応する厚生年金記録です。
「夫が受け取る厚生年金の全額を半分にする」という制度ではない点は、特に間違えやすいところです。
年金分割のメリット
年金分割の大きなメリットは、分割を受けた厚生年金記録が、その後の自分自身の年金額の計算に反映されることです。
たとえば、「離婚後は元夫が毎月一定額を支払う」といった個人的な取り決めとは仕組みが異なります。年金分割が成立すると、厚生年金記録そのものが改定されます。
そのため、分割を受けた人が将来、老齢厚生年金の受給要件を満たして支給開始年齢に達した場合には、分割後の記録を含めた自分名義の年金として受給します。
すでに老齢厚生年金を受給している場合には、原則として年金分割が行われた月の翌月分から、分割後の標準報酬をもとに年金額が改定されます。
年金分割で注意したいこと
年金分割は離婚後の老後資金に影響する制度ですが、かなり誤解されやすい制度でもあります。
特に多いのが、「離婚すれば相手の年金の半分をもらえる」「専業主婦なら自動的に半分になる」という誤解です。
実際には、対象となる年金の種類、婚姻期間、夫婦それぞれの厚生年金記録、3号被保険者だった期間などによって結果は変わります。
必ず相手の年金の半分がもらえるわけではない
年金分割について「相場は50%」と説明されることがありますが、この50%という数字は少し注意して見る必要があります。
年金分割は、相手が受け取る年金全体の50%を受け取る制度ではありません。
合意分割では、婚姻期間中の夫婦双方の厚生年金記録について、日本年金機構から示される按分割合の範囲内で割合を決めます。その上限が50%です。
しかも、国民年金の老齢基礎年金は分割されません。結婚前や離婚後の厚生年金記録も対象外です。
したがって、「夫の年金が月20万円だから、離婚すれば妻が月10万円もらえる」といった計算はできません。
年金分割における「50%」と、「相手の年金額の半分」はまったく別の話です。ここを区別することが重要です。
自分にも受給資格が必要
年金分割を受けても、離婚直後から年金が支給されるわけではありません。
分割後の記録をもとに老齢厚生年金を受け取るには、自分自身が老齢年金の受給資格期間を満たし、支給開始年齢に達していることが必要です。
年金分割によって相手の厚生年金記録の一部を受け取ったからといって、相手の受給資格や支給開始年齢まで引き継ぐわけではありません。
つまり、年金分割は「離婚時に現金を受け取る制度」ではなく、「将来受け取る年金額の計算に影響する制度」です。
年金見込額は年金事務所で確認できる
年金分割を検討するときは、「50%にするかどうか」だけでなく、実際に自分の年金額がどのくらい変わるのかを確認することが重要です。
日本年金機構では、50歳以上の人または障害年金の受給権者が年金分割のための情報提供を請求する際、希望すれば分割後の年金見込額を試算してもらうことができます。
試算では、按分割合の上限である50%の場合、分割をしない場合、本人が希望する按分割合の場合の3パターンが示されます。
また、合意分割を検討する場合には、夫婦それぞれの標準報酬月額・標準賞与額、分割対象期間、按分割合を定めることができる範囲などを確認するため、「年金分割のための情報通知書」を取得できます。
情報通知書は、夫婦2人で請求することも、一方だけで請求することも可能です。また、離婚前でも離婚後でも請求できます。
年金分割には「合意分割」と「3号分割」がある
年金分割には、大きく分けて「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
同じ年金分割でも、対象となる期間や割合の決め方、相手の同意が必要かどうかが異なります。
合意分割とは
合意分割とは、夫婦の合意または裁判手続きによって按分割合を決め、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度です。
2007年4月1日以後に離婚等をした場合に利用できます。
合意分割を利用するには、婚姻期間中に厚生年金記録があり、当事者双方の合意または裁判手続きによって按分割合が定められていることなどが必要です。
按分割合は自由に0%から50%まで選べるという意味ではなく、日本年金機構が示す「按分割合を定めることができる範囲」の中で決めます。上限は50%です。
夫婦で合意できればその割合で手続きを進められますが、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判、離婚訴訟に伴う附帯処分などによって按分割合を決めることができます。
3号分割とは
3号分割とは、婚姻中に国民年金の第3号被保険者だった人が利用できる年金分割制度です。
対象となるのは、2008年4月1日以後の婚姻期間中に第3号被保険者だった期間についての、相手方の厚生年金記録です。制度の対象となる離婚等は2008年5月1日以後です。
3号分割では、相手の同意は必要ありません。第3号被保険者だった人が請求すれば、対象期間の相手方の厚生年金記録を2分の1ずつに分割します。
ただし、「相手の同意がいらない」ことと「手続きがいらない」ことは別です。離婚しただけで自動的に分割されるわけではなく、原則として年金事務所などで請求する必要があります。
さらに、見落としやすい例外があります。分割される側が障害厚生年金の受給権者で、3号分割の対象となる期間がその障害厚生年金額の計算の基礎になっている場合には、3号分割を請求できません。
合意分割と3号分割が同時に関係することもある
婚姻期間の中に、3号分割の対象となる期間と、それ以外の期間が混在していることもあります。
たとえば、結婚後しばらく妻が会社員として働き、その後退職して夫の扶養に入り、第3号被保険者になったケースです。
この場合には、合意分割と3号分割の両方が関係する可能性があります。
日本年金機構では、合意分割の請求をした場合、婚姻期間中に3号分割の対象期間が含まれていれば、同時に3号分割の請求があったものとみなします。
年金分割の請求期限
年金分割で最も注意したいポイントの一つが、請求期限です。
2026年4月1日以降に離婚等をした場合、年金分割の請求期限は、原則として離婚等をした日の翌日から5年以内です。
これは2026年4月施行の改正によるもので、離婚時の財産分与の請求期間が2年から5年に延長されたことを踏まえ、年金分割についても従来の2年から5年に延長されました。
ただし、2026年4月1日前に離婚等をしている場合には新しい5年ルールは適用されず、原則として従来どおり2年以内です。
また、請求期限内に家庭裁判所へ調停や審判などを申し立てているケースには特例があります。
たとえば、本来の請求期限が過ぎた後や、期限満了前6カ月以内に調停が成立したり審判が確定したりした場合には、その日の翌日から6カ月以内であれば請求できる場合があります。
さらに、合意や裁判手続きで按分割合を決めた後、実際の年金分割手続きをする前に当事者の一方が亡くなった場合には、死亡日から1カ月以内に限って請求が認められる場合があります。
期限の計算はケースによって変わるため、期限直前まで手続きを放置しないことが重要です。
年金分割の手続き
年金分割は、最終的に年金事務所などへ請求して初めて実行されます。
合意分割の場合、まず分割対象期間や按分割合の範囲を確認するため、「年金分割のための情報通知書」を取得しておくと手続きを進めやすくなります。
そのうえで、夫婦で按分割合について合意します。合意できない場合には、家庭裁判所の調停や審判などで割合を定めます。
按分割合が決まったら、「標準報酬改定請求書」と必要書類を年金事務所に提出します。
合意分割では、主に基礎年金番号またはマイナンバーを確認できる書類、婚姻期間を確認できる戸籍謄本・戸籍抄本など、必要に応じて夫婦の生存を確認する書類、按分割合を確認できる書類などが必要です。
話し合いで割合を決めた場合、按分割合を証明する書類として、公正証書、公証人の認証を受けた私署証書、所定の年金分割の合意書などを利用できます。
3号分割の場合も、「標準報酬改定請求書」などを年金事務所に提出します。
ただし、3号分割だけを請求する場合には夫婦の合意は必要ありません。第3号被保険者だった人が単独で請求できます。
なお、戸籍や住民票などの必要書類、作成日・交付日の要件は手続きの内容によって異なります。マイナンバーを請求書に記載することで省略できる書類もあるため、実際に請求するときは日本年金機構の最新案内を確認しておくと安心です。
まとめ
年金分割制度は、離婚時に婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦の間で分割する制度です。
分割の対象になるのは厚生年金の報酬比例部分であり、国民年金の老齢基礎年金は対象になりません。また、相手が受け取る年金全体を半分もらえる制度でもありません。
年金分割には、夫婦の合意または裁判手続きによって按分割合を決める「合意分割」と、第3号被保険者だった一定期間について、相手の同意なしで厚生年金記録を2分の1ずつ分割できる「3号分割」があります。
「年金分割の相場は50%」といわれることがありますが、この50%は合意分割における按分割合の上限です。「相手の年金額の50%を受け取れる」という意味ではありません。
また、年金分割は自動的には行われません。
2026年4月1日以降に離婚等をした場合、請求期限は原則として離婚等をした日の翌日から5年以内です。2026年4月1日前に離婚等をした場合には、原則として2年以内となります。
離婚条件を話し合う段階では、財産分与や慰謝料だけに目が向きがちですが、年金分割は将来の生活費に影響する手続きです。離婚前でも「年金分割のための情報通知書」は請求できるため、まず対象となる記録や按分割合の範囲、年金見込額を確認したうえで、必要に応じて年金事務所や弁護士などに相談するとよいでしょう。