離婚の慰謝料を請求する時に知っておきたい8つのポイント

離婚の慰謝料

浮気や暴力、悪意の遺棄などの不法行為が原因で精神的な苦痛を受けた場合には、その傷ついた感情に対する損害賠償として、慰謝料を請求することができます。

慰謝料の額は当事者間の話し合いで自由に決めることができますが、当事者間で合意できない場合には、調停や裁判などの手続きをとる場合もあります。

慰謝料とは

慰謝料とは、精神的な苦痛に対する損害賠償で、離婚の原因をつくった責任のある方が、相手に対して支払うものです。最近では、「和解金」「解決金」という言葉を使うこともあります。慰謝料というと、払う側が気分よく受け入れられない場合もあります。そのような時には、「和解金」「解決金」として話し合うケースもあります。

なお、「離婚」というと慰謝料を必ずもらえるものとイメージしている人もいますが、そうではありません。慰謝料は、相手の行為によって受けた精神的な苦痛に対する損害賠償であり、相手に非がない場合には、請求することができません。
また、慰謝料は必ず男性が払うものとは限らず、女性が払う場合も当然あります。

離婚の慰謝料には、2つの要素があります。

離婚原因慰謝料
相手の不貞や暴力など、法律で定められた離婚事由に相当する理由があり、その精神的な苦痛に対する慰謝料。

離婚自体慰謝料
離婚することによる精神的苦痛に対する慰謝料。
たとえば、夫婦仲がよく円満な結婚生活を送っていたと思っていたのに、突然離婚を切り出され、離婚を受け入れるしかなかったというようなケースです。

離婚の慰謝料が請求できる場合

精神的な苦痛は、当人にしか分かりませんが、慰謝料が請求できるのは主に以下のような事情がある場合です。


①相手の不貞(浮気、不倫)
②悪意の遺棄(勝手に家を出て行った)
③身体的、精神的暴力行為(パワハラ、モラハラなど)
④生活費の不払い
⑤ギャンブルなどの浪費癖
⑥アルコール中毒
⑦性行為の強要、拒否
⑧相手側からの一方的な離婚の申し入れ

したがって、「相手に非がない場合」や「単に性格が合わない」といったケースでは慰謝料の請求は認められません。「宗教上の問題」や「相手の親族」との不和なども、基本的には対象外です。

また、不倫をしたとしてもその言い訳として「不倫をしたには、妻が出歩いてばかりいたから」と主張されたら、それが不倫と同じくらいの有責行為であるかどうかで慰謝料の支払い義務が決まります。また、夫婦が共に不倫をしていた場合には、双方が請求できることになりますが、結果的には痛み分けと判断され、慰謝料の請求はなしということになります。

離婚の慰謝料を請求する時に知っておきたい8つのポイント

前述したとおり、離婚の慰謝料は当然請求できるものではありませんが、相手の不貞行為や暴力など、慰謝料を請求することができる場合には、知っておきたい8つのポイントがあります。

(1)慰謝料の目安を知っておく

慰謝料というと、ハリウッドセレブの「○億円の慰謝料」というニュースから多額の慰謝料をイメージする人もいますが、それは例外中の例外です。実際には、慰謝料はそれほど多額ではありません。

慰謝料の金額については決まりがないので、請求する側と請求される側が納得すればそれが請求額になりますが、やみくもに無謀な請求をしても、話し合いが長引くだけです。
怒りにまかせて裁判に持ち込んでも、自分の主張が認められるとは限りません。多額の弁護士費用を使っても、まさかの慰謝料0円の判決が出る可能性もあるのです。
そこで慰謝料を請求する際には、慰謝料の目安額について知っておく必要があります。

慰謝料の目安
原因別慰謝料の目安

ただし、上記はあくまでも目安です。苦痛の程度や期間、責任の重さなどについて目安額以上にも以下にもなることがあるので、あくまで参考程度にとどめておき、詳細については弁護士に相談するようにしましょう。

(2)慰謝料の金額を左右する要素を知っておく

慰謝料の金額は、算定方法や算定基準が明確ではないので、、さまざまな要素で左右されます。
苦痛の程度や回数、期間、結婚期間の長さ、有責者の性別や経済状況、社会的地位、子どもの有無などで大きく左右されます。

したがって、慰謝料を請求するためには、慰謝料の金額を左右する要素を理解して、そのうえで慰謝料を請求するための証拠を揃えていく必要があります。

たとえば、夫の浮気を問い詰めたところ、夫が勝手に家を出て愛人宅に入りびたりたまに帰宅しても口論の連続で、ついには夫の暴力でけがをして離婚したという事例では、不倫、悪意の遺棄、暴力と原因がいくつも重なっていたため、裁判では慰謝料1,500万円の判決が出ました。

夫婦で話し合っても金額について結論が出ない場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、財産分与なども一緒に依頼すると、総合的に調整してもらうことができます。

(3)裁判になった時の相場を知っておく

相手と交渉するうえでは、裁判となった場合の慰謝料の目安を知っておくことも大切です。
たとえば、婚姻期間25年で妻が不倫相手と交際するためにサラ金で600万以上も借り入れて費消、夫がその借金の返済をしていたという事例では、慰謝料500万円が認められています。

以下の記事では、離婚原因別の裁判事例をご紹介していますので、あわせてご覧ください。

▶ 離婚裁判|離婚原因別・裁判例まとめ

(4)浮気相手にも慰謝料を請求できる

離婚原因が浮気の場合には、慰謝料は配偶者だけでなく浮気相手にも請求できる場合があります。浮気相手は、相手の家庭を破綻させ、精神的な苦痛を与えたものと判断されるからです。

浮気や不倫が発覚しても離婚しない場合もあります。しかし、離婚をしなくても浮気相手に慰謝料を請求することはできます。ただし、請求するには時効があり「不貞行為を知ってから3年」です。浮気相手に慰謝料を請求する時には、この時効にも注意しましょう。

なお、浮気相手が既婚者とは知らなかった、あるいは「もう家庭は崩壊していて離婚寸前だ」という言葉を浮気相手が信じていたという事情がある場合には、浮気相手に不法性がないとして責任が問われなくなります。

浮気相手に慰謝料を請求する場合には、まずは相手と交渉することになります。
しかし、自分で浮気相手に会いに行くのは気が重いことですから、弁護士を代理人にして交渉するか、内容証明郵便で送るのがよいでしょう。
相手が交渉に応じて慰謝料の支払いを承諾したら、示談書を作成します。
もし、交渉がまとまらなかったら、裁判所に調停を申し立てるか裁判を起こします。
離婚の調停や裁判は家庭裁判所になりますが、浮気相手は第三者なので、相手の住所地の簡易裁判所か地方裁判所になります。この場合にも、事前に弁護士に相談して、有力な証拠をそろえるなどしっかり準備をしておきましょう。

(5)一括払いにするか分割払いにするか

慰謝料を一括払いにするか分割払いにするか、不動産などの現物払いにするかは、話し合いで決めることになります。それぞれメリット・デメリットがありますので、個々の状況に応じて決めるようにしましょう。

一括払い
一括で支払ってもらえば、早々にピリオドを打って次のステップに進むことができます。ただし、一気に大金を手にすることで無駄遣いをしてしまうケースもあるので注意が必要です。なお、現金で一括でもらう場合、その金額が社会通念上明らかに多すぎると判断されると税金の対象となることがありますので、その点についても注意が必要です。

分割払い
分割払いは、支払われるたびに精神的な苦痛を思い出してしまう…というデメリットもあります。しかし、相手の支払い能力なども考慮して、分割払いの方が現実的であると判断した場合には、分割払いも検討しましょう。

分割払いの場合も、分割の回数を少なくして短期間で支払いが終わるようにしましょう。支払いが遅れた場合の処置や担保も決めておきます。また、確実に実行してもらうよう公正証書を作成しておきましょう。

現物払い
慰謝料として、不動産を手渡すこともあります。住む場所に困らないなどのメリットがありますが、実際に金銭の支払いがないので、納得できないというケースもあるようです。また、金銭に相当する不動産などの物品を受けると、税金の対象となることがあります。
なお、離婚時に権利書などの必要な書類をもらって、離婚後には早めに名義変更を済ませることも大切です。

(6)慰謝料に税金がかかることもある

慰謝料が現金で支払われる時には、支払う側にも受け取る側にも原則として税金はかかりません。ただし、諸事情を考慮してもあまりに高額であると、社会通念上判断された場合には、多すぎる部分が「贈与」とみなされて贈与税が課されることになります。
これは、離婚の財産分与や慰謝料を装って夫婦の財産を分け、贈与税や相続税を免れようとするケースを予防するためです。

金銭以外のもの(不動産、土地、有価証券、高額な美術品など)については、基本的に支払う側に譲渡所得税が課せられます。もらう側は原則として非課税ですが、不動産に関しては不動産取得税が課せられることがあります。

(7)公正証書を作成しておく

夫婦間の協議で慰謝料の額や支払い方法について取り決めをした時には、かならず文書に残しておき公正証書にしておきましょう。
公正証書とは、公証人という法律の専門家が作成する文書で、偽造される恐れがなく強制執行認諾文書付き公正証書を作成しておけば、地方裁判所に強制執行を申請することができます。
なかには、面倒な公正証書の作成を嫌がる人もいますが、その時には覚書や念書の作成を提案し、取り決め内容、月日を記載して、必ず両者の署名押印をします。公正証書のように強力な法的効力はありませんが、相手にプレッシャーを与えることができます。

(8)弁護士に相談する

財産分与や慰謝料について相手と交渉するのは、誰でも気が重いものです。また、慰謝料の額はこれまでご紹介したとおり、さまざまな要素によって左右されます。証拠があるか否かでも大きく結果が左右されます。

そこで、相手と交渉する前にまずは弁護士に相談することをおすすめします。
離婚案件に豊富な経験を持つ弁護士であれば、慰謝料の相場や交渉を有利に進めるための証拠の準備についてアドバイスをくれますし、相手と交渉してもらうこともできます。弁護士が介入するか否かで、慰謝料の額に影響が出ることもあります。
離婚することだけに集中せず、離婚後の生活も踏まえ、「離婚後の生活費の問題」「住まいの問題」「財産分与の問題」「親権などの問題」についても、アドバイスをしてくれることもあります。

まとめ

以上、慰謝料を請求する時に知っておきたい8つのポイントをご紹介しました。
慰謝料は、離婚すれば当然もらえるものではなく、慰謝料をもらうためには、相手が精神的な苦痛を与えたという事実を具体的に証明しければなりません。また、有効な証拠を集めて慰謝料を請求できたとしても、その約束が確実に守られるよう文書等を作成しておく必要があります。
慰謝料を請求したい時には、どれくらいの慰謝料を請求できるのか、そのためにはどのような証拠が必要になるのかについて、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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