離婚後に慰謝料を請求する方法|請求できるケースとは?時効はいつ?

離婚する時には、「お金なんていらないから、一日も早く離婚したい」と思っていても、離婚が成立してしばらくすると、「やっぱり我慢できない。慰謝料を請求しておけばよかった」と後悔することがあります。
それでは、離婚後に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。

この記事では、離婚後に慰謝料を請求したいと思った時の方法や、注意点などについてご紹介します。

離婚後に慰謝料を請求できるか

離婚後に「慰謝料を改めて請求したい」と思ったり「いったん取り決めた慰謝料の金額を変更したい」というような場合があります。結論から言えば、離婚後でも慰謝料を請求したり取り決めた慰謝料の額を変更できたりすることはできます。

離婚後でも慰謝料は請求できる

離婚する時に、財産分与や慰謝料のやり取りをしないで、ただただ早く離婚したいがために、とりあえず先に離婚してしまうケースがあります。
このようなケースで、後から「やはり少しでも慰謝料がほしい」と思った時には、慰謝料を請求することができます。

離婚後も慰謝料を請求できるが時効がある

離婚後に慰謝料を請求する時には、時効に注意が必要です。
離婚後に慰謝料を請求するには3年という期限があります。
離婚成立日から3年が過ぎると、原則として新たに慰謝料の請求を求めたり、取り決めた内容を変更するということは原則としてできなくなります(※なお、財産分与の請求権には、2年の除斥期間があります)。

ただし、後から不法行為を知った場合は例外です。
たとえば性格の不一致が原因で離婚した後に元夫(妻)が不貞行為を行っていた事実を後から知ったというような場合には、その事実(不貞という行為があったことによる損害と加害者)を知った時から3年で時効になります。

公正証書を作成していると請求は難しいことも

離婚協議書などで、慰謝料や財産分与について取り決めて公正証書などにする場合があります。この時、「離婚に際しては、金銭的あるいは財産的請求は、今後一切いたしません」という趣旨の清算条項が記載されることがあります。
この場合には、詐欺や脅迫によって財産分与や慰謝料の請求権を無理やり放棄させられたというような特別な事情がないかぎりは、原則として請求できなくなります。

したがって、離婚協議の際の離婚協議書や、離婚調停での調停調書などに記載する時には、一項目ごとにしっかり確認をしなければなりません。

もし、協議離婚で「相手に無理やり精算条項を記載された」「精算条項を記載しないと離婚しないと言われた」などの事情がある場合には、その離婚協議書自体が無効となります。したがって、「無理やり書かされた」という証拠を示せば、離婚後にも慰謝料を請求できる可能性は十分にあります。
あきらめずに弁護士などに相談してみましょう。

そもそも慰謝料とは

離婚後に、慰謝料を請求することはできますが、慰謝料は、離婚する時に必ずもらえるというものではありません。
そこで、離婚後に慰謝料を請求する前に、慰謝料の意味や慰謝料を請求できるケース、慰謝料の額の目安などについて、知っておきましょう。

離婚の慰謝料には、「離婚原因慰謝料」と「離婚自体慰謝料」の2つの要素があります。

夫や妻の不倫や浮気、暴力などが原因で離婚をすることになった場合には「離婚原因慰謝料」、離婚せざるをえなくなったことによる精神的苦痛に対するものは「離婚自体慰謝料」です。

慰謝料を請求できるケース

離婚の慰謝料は、「相手の行為によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金のことをいいます。不倫や浮気、暴力、生活費を渡さないなど相手の不法行為があり、それが離婚原因をつくった場合に請求することができます。

慰謝料は、夫から妻に支払われると思っている人もいますが、離婚の原因をつくったのが妻なら、夫から妻に慰謝料を請求することもできます。また、夫(妻)が不倫をした場合には、その浮気相手にも請求することができます(ただし、浮気相手が既婚者だったことを知っている場合に限ります)。

妻や夫の親族によるいじめや追い出し行為などがあった場合には、その親族に対しても慰謝料を請求することができます。

ただし、「何となく性格が合わない」「信仰上の対立」などの場合には、慰謝料を請求することはできません。また、双方が不倫をしている場合には、双方が慰謝料を請求することができますが、結論から言えば痛み分けとなり、慰謝料はナシということになります。

慰謝料の目安

慰謝料の金額や支払い方法については、特に決まりがあるわけではありません。相手の資産や収入、精神的苦痛の度合いなど、個々の状況によって決まります。

慰謝料の額は、日本ではそれほど多額ではありません。特に、離婚の慰謝料は仮に高額の慰謝料を命じたところで、加害者に経済力がなければ、支払われる当てもありませんし、支払われないことでさらにトラブルが起こることもありますので、どうしても低額になってしまいます。

以下は、離婚原因別の大まかな目安です。

浮気・不倫:100万円~500万円
悪意の遺棄:50万円~300万円
暴力:50万円~500万円
突然離婚を言い渡された:0円~100万円

離婚原因別慰謝料の目安

思ったより少ないと思うかもしれませんが、どんなに頑張っても慰謝料はそれほど多く請求することは現実としてあまりありません。あまりに高額の慰謝料を請求すると、かえってまとまる話がまとまらなくなってしまうこともあります。

離婚後に慰謝料を請求する方法

離婚後に慰謝料を請求する時には、まずは相手と協議して請求します。
しかし、離婚後に慰謝料を請求しても、話し合いに応じないというケースも多いようです。その場合には、家庭裁判所に慰謝料請求の調停を申し立てるか、地方裁判所に慰謝料請求の裁判を起こすことになります。

相手と協議をする

離婚後に相手に慰謝料を請求する時には、まずは相手と交渉することになります。
ただし、離婚に際して「金銭的あるいは財産的請求は、一切しません」という趣旨の約束をしていると、相手に脅されたり騙されたりしたなど、特別な事情がない限りは、請求することができなくなるので、注意が必要です。

「離婚する時は100万円でいいと思って、離婚協議書を作成したけど、やはり気持ちが収まらないから、100万円追加で慰謝料を支払って」と請求したところで、相手は応じないでしょうし、後々調停や裁判となった時にも請求が認められることは期待できません。

家庭裁判所に調停を申し立てる

慰謝料請求調停は相手の住居地の家庭裁判所に申立てます。
調停期日が指定されると、当事者双方に対して家庭裁判所から呼び出しがあります。
調停では相手がどんな不法行為をしたか、そのために自分がいかに精神的苦痛を受けたかなどをしっかり説明できることが大切なので、陳述書や証拠などを準備しておくとよいでしょう。

慰謝料請求調停で必要な書類

慰謝料請求調停を申立てるためには以下の書類が必要です。申立書の用紙は家庭裁判所で受け取ることができますし、裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。

・必要事項を記入した申立書とその写し(相手にも送付するため)
・夫婦の戸籍謄本
・そのほかの必要書類(調停の途中必要に応じて入手)

慰謝料請求調停の申立書の記載方法については、以下の記載事例を参考にしてください。

▶ 家庭裁判所「慰謝料請求調停」

慰謝料請求調停の申立て費用

慰謝料請求調停にかかる費用は家庭裁判所によりますが、2,000円程度です。

* 収入印紙 1,200円
* 連絡用の郵便切手 800円程度

地方裁判所に慰謝料請求の裁判を起こす

相手との交渉がまとまらなかったり、調停が不調に終わったりして、それでも慰謝料を請求したい場合には、地方裁判所に慰謝料請求の裁判を起こすことになります。
裁判では、自分の主張をいかに立証するかで勝敗が左右されます。また、訴状を作成したり準備書面を作成したりする必要があります。
したがって、協議や調停をしてきて慣れたからといって、自分で裁判を進めようとするのは危険です。
特に、相手が弁護士に依頼した場合には、裁判で不利な状況におちいってしまいます。

確かに弁護士に依頼すれば費用がかかりますが、法律の専門知識を持つ弁護士がいれば、どのような証拠が有利になるかアドバイスをしてもらうことができますし、客観的に争点を分析してもらうことができます。

なお、弁護士に相談するのは、できれば協議や調停の前になるべく早いタイミングがおすすめです。弁護士に依頼すれば、「そもそも慰謝料を請求できるか」「請求するためにはどのような証拠が必要か」について、アドバイスをしてくれますし、間に立って相手に交渉をしてもらうことができます。

相手も弁護士から連絡があると「弁護士を立ててきたということは、本気だ」と思うものです。弁護士が介入したことで、結果的に調停や裁判を避けることができたケースも多々あります。

離婚後の慰謝料をめぐるトラブル

離婚後の慰謝料をめぐるトラブルは、決して少なくありません。
相手に慰謝料を請求する前に、どのようなトラブルが起こるのか理解しておきましょう。

離婚協議書を作成してしまった

離婚時に、離婚協議書を作成し清算条項の記載があったり、調停で調停調書を作成して清算条項が記載されている場合には、その後慰謝料を請求するのは難しくなります(ただし、詐欺や脅迫による場合は別です)。

清算条項とは、「離婚協議書に記載したほかに何も請求権のない」ことを確認する条項です。

離婚協議書や公正証書、調停証書に「当事者間には、本協議書(もしくは公正証書や調停証書)に定めるもののほか、何らの債務債権にのないことを相互に確認する」といった清算条項がある場合には、原則として離婚後に慰謝料を請求することはできません。

こんな実例があります。

夫Aと妻Bは、離婚調停において離婚と2人の未成年の子どもの親権者を父と定めました。そして、財産分与として夫Aから妻Bに金銭を支払うこととして、それぞれ調停調書に記載しました。その際には、「当事者双方は、本件離婚に関して、上記条項をもって一切解決したものとし、今後その名義のいかんを問わず何らの請求もしない」という条項を記載して、離婚しました。

この夫婦には、結婚している時に取得した土地と建物がありましたが、離婚後に妻は改めてこの土地と建物の財産分与の審判を申し立てました。

しかし、裁判所は離婚調停で「今後いかなる請求もしない」という合意が成立していることから、妻の申し立てを却下しました(千葉地裁松戸支部 昭和56年3月16日審判)。

離婚調停でなくても、協議離婚で離婚協議書について公正証書を作成して署名捺印した後は、状況は非常に不利になってしまいます。協議書を作成する際には、ひとつひとつの項目について、しっかり確認をするようにしてください。

相手に脅された

DVを受けている妻(夫)の場合、婚姻中は、「自分が至らないので相手を怒らせてしまった」と、自分を卑下しているケースがあります。
そこで、「暴力をふるったのは、お前が怒らせたからだ。だから慰謝料は請求するな」と言われ、納得してしまうことがあります。
しかし、DVを受けている事実や「自分が悪いのだと思わされた」という事実を証明することができれば、離婚後に慰謝料を請求することはできます。

しかし、この場合にも離婚協議書を作成していると不利な状況になってしまう可能性もあります。
そうならないためにも、慰謝料や財産分与については法律的な知識を持ち、弁護士に相談し、勇気をもって行動することが大切です。

相手に嘘をつかれた

「離婚してくれるなら、慰謝料を払う」などと言われ、口約束だけで離婚をしてしまうことがあります。嫌な相手とは、1分でも同居したくないものですから、その気持ちも十分理解できます。
もちろん、この場合も慰謝料を請求することはできますから、あきらめる必要はありません。ただし、公正証書など作成していると、これまでのケースと同じく不利な状況になってしまいます。

まとめ

以上、離婚後に慰謝料を請求するための方法についてご紹介しました。
離婚後に、慰謝料を請求することはできますが、離婚協議書や調停の際に作成した調停調書があり、「今後いかなる請求もしない」という記載がある場合には、慰謝料を請求するのは非常に難しくなります。

けれども、「絶対無理」というわけではありません。相手が財産を隠していたり、離婚後に不倫が発覚したり、詐欺や脅迫によって無理やり協議書を作成されたりした場合には、慰謝料を勝ち取れる可能性は十分にあります。

離婚後の苦しい気持ちを清算し、気持ちを繰り替えて新しい生活をスタートさせるためにも、できるだけ早めに弁護士に相談し、アドバイスを求めることをおすすめします。