養育費調停|有利に進めるための8つの知識

養育費とは、子どもを育てるうえでかかる生活費、教育費、医療費、娯楽費などのことです。

養育費は、父母の話し合いで決めるのが原則ですが、話し合いで決まらない場合には、調停や審判などを利用します。

この記事では、養育費の支払いを求める人が、養育費請求調停を有利に進めるために知っておきたい8つの知識をご紹介します。

養育費請求調停とは

養育費について話合いがまとまらない場合や、養育費の支払いを求めても相手が応じない場合などは、子を監護している親から他方の親に対して、家庭裁判所に調停又は審判の申立てをして、養育費の支払を求めることができます。

なお、いちど決まった養育費であってもその後に事情の変更があった場合(大学進学など)には、増額を求めて、再び調停を申立てることもできます。
話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が審理をしたうえで、審判を下します。

離婚調停は、合意に達しなければ不調に終わりますが、養育費請求調停は、合意に達しない時には、調停の申し立ての時に審判の申し立てがあったものとみなされます。つまり、申し立てが無駄になることはなく、必ず結論が出されるということです。

養育費はかならず支払わなければならない!

未成年の子どもの世話をし育てるのは、父母それぞれの義務であり、それにかかる養育費は父母が負担します。養育費を支払う義務は、原則として子供が成人するまで続きます。
子どもが未成年の場合には、子どもの養育費は、親権者・監護者になるかならないか、子どもを引き取るか否か、面会交流を認めるか否かに問わず、親として当然に払わなければなりません。

父母が離婚しても、子どもにとっては父であり母です。
未成熟の子どもには、親から扶養を受ける権利があり、親には未成熟の子どもを扶養する義務が続きます。
親には、子どもに親と同じレベルの生活をさせる義務があると考えられていて、収入の多い親から少ない親へ、子どもと離れて暮らす親から養育している親へ、支払うのが一般的です。

養育費の取り決めがない時に申し立てる

養育費の額や支払い方法については、離婚する時に取り決めて、その取り決めた内容を公正証書(執行認諾文言付)にしておくことを強くおすすめします。そうすれば、後々支払いが滞った時には、裁判を起こさなくても相手方の給料や財産に強制執行ができるからです。

離婚する時に養育費について取り決めをしないで離婚してしまった時や、公正証書等を作成していないケースだと、離婚後しばらくは支払われていた養育費がしばらくして不払いになることもあります。

このような場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。
養育費の請求調停は、離婚後でも申し立てることができますし、離婚協議中でも養育費の請求のみ申し立てることもできます。

養育費の取り決めがある場合の法的手段

離婚時に養育費の取り決めを公正証書(執行認諾文言付)にしたにもかかわらず、相手から養育費の支払いがされない場合には、まずは早めに相手に催促をしましょう。
別れた相手に連絡をとるのは気が重いものですが、そのままにしておくと相手は気に留めなくなってしまいます。

執行認諾文言付の公正証書があり、相手に催促したにもかかわらず、支払がない場合には、家庭裁判所に電話をして申し出るだけで、相手に履行勧告・履行命令を出してもらえます。

それでも相手が支払わない場合には、強制執行を行うことになります。
強制執行は、未払い分だけでなく将来分についても差し押さえることができます。

養育費請求調停の申し立て方法

前述したとおり、公正証書(執行認諾文言付)を作成しておらず、相手に催促しても養育費の支払いがない場合には、家庭裁判所に養育費請求の調停・審判を申し立てるところから始めます。
調停で話し合いがつかない時には、審判に移行し審理します。家庭裁判所では、双方の収入や財産などを調査して、養育費について決定します。

家庭裁判所で申し立てる

養育費請求調停は、支払いを求める相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所に申立てる必要があります。
扶養料の請求として、親が代理人となり、子ども本人が申し立てることもできます。

養育費請求調停申立ての際の必要書類

養育費請求調停を申立てる際には、下記の書類を提出する必要があります。

・申立書及びその写し1通
・未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書
・申立人の収入に関する資料
(源泉徴収票写し、給与明細写し、確定申告書写し、非課税証明書写し等)

申立書の記載方法は、以下の記載事例を参考にしてください。

養育費請求の調停の申立書記載例

なお、請求したくても相手の消息が分からなくなったという場合があります。
相手の現住所を調べるためには、前の住民票か戸籍の附票を取り寄せましょう。住民票には転居先住所が記載されています。5年分は保存されますので、現在どこに住民票登録をしているのかが分かります。なお、これらの書類を申請する時には、請求事由欄に「養育費請求の調停を申し立てるため」と明記しましょう。また、相手と夫婦だったことが分かる書類を準備しておくと、手続きがスムーズに進みます。

養育費請求調停申立ての際の費用

養育費請求調停を申立てる際には、下記の費用が必要です。

・収入印紙1,200円分(子ども1人につき)
→子どもの数が増えるごとに、1,200円かかります。

・連絡用の郵便切手 800円程度
→家庭裁判所に問い合わせて確認してください。

▶ 家庭裁判所「養育費請求調停」

養育費請求調停を有利に進めるためには

養育費は、親の義務であり当然支払分ければならないものですが、養育費請求の調停を有利に進めるためには、養育費の基礎知識を知っておく必要があります。

(1)養育費の算定方法を知る

まずは、養育費の大まかな目安を知っておく必要があります。
やみくもに多額の養育費を請求しても、話し合いがスムーズに進まないからです。

養育の対象となる年齢や金額には、法的な規定があるわけではありません。
家庭裁判所の調停や審判の場合には、成人するまでを対象とするのが一般的ですが、高校や大学を卒業するまでとすることもあります。

金額については、父母の収入や財産、生活レベルなどに応じて決めていきますが、実際に家庭裁判所でとられている養育費の決め方を知っておきましょう。

①実費方式
父、母の双方の実際の収入、生活費を認定して、そのバランスで分担額を決める方法です。これまでどれぐらいの収入・生活費でやってきたか、子どもにはどれくらいかかったか、これからはどれくらいの養育費がかかりそうかなどを参考にします。

②生活保護基準方式
これは、生活保護法にもとづいて、厚生労働大臣が定める保護基準から判断しようとする方式です。生活保護基準は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助など、保護の種類ごとに基準額・加算額が決められていて、国民の生活水準や物価変動によって、改訂されています。しかし、この基準は最低限度の生活の需要を満たすためのものなので、普通の暮らしをしている世帯に当てはめると、低すぎることがあります。
そこで、この生活保護基準方式を基準にする場合にも、親の実際の収入や父母の収入に按分して、各自の分担額について協議することになります。

③労研方式
労働科学研究所が、厚生労働省の委託を埋めて、実態調査に基づいて算出した、最低生活費の算定方法を採用する方式です。しかし、昭和27年の実態調査に基づいているものなので、計算する場合には、②と同じように、父母の収入、子の必要生活費を算出します。

④養育費・婚姻費用算定表
家庭裁判所の裁判官と調査官により発表されたもので、簡易かつ迅速に養育費や婚姻費用の額を提示して、その額を前提とするものです。
下記に、令和元年12月23日に公表された、養育費の統計資料がありますので、参考にしてください。

▶ 養育費・子1人表(子0~14歳)

▶ 養育費・子1人表(子15歳以上)

▶ 養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)

▶ 養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)

▶ 養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)

▶ 養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)

▶ 養育費・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)

▶ 養育費・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)

▶ 養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)

▶ 家庭裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(令和元年12月23日に公表)」

(2)面会交流と養育費の関係を知る

面会交流と養育費の問題は、まったく別です。
したがって、面会交流させなくても養育費を請求することはできます。しかし、現実問題としては養育費請求の調停を申し立てれば、その場で面会交流について協議することになるでしょう。

もちろん、面会交流させることで相手から暴力を振るわれたりする危険がある場合や、子どもが拒否している場合には、それを理由に面会交流を拒否して養育費を請求することはできます。

しかし、そのような理由がない限りは、面会交流をさせた方が子どもの健やかな成長にとって、良いこともあります。また、面会交流を定期的に行っている親の方が、親としての自覚を持ち続けられるので、養育費を支払う傾向が高いというデータもあります。

(3)過去分までさかのぼって請求できる場合がある

過去の養育費までさかのぼって請求できるかは、裁判所の見解が分かれるところです。
けれども、過去分までさかのぼって請求できないと、養育費を支払わなかった親が得することになり不公平であるという考えから、過去の養育費について支払いを命じた例もあります。当事者間で話がまとまれば、支払ってもらうことはできます。

ただし、「請求されなかったら支払わなかった」と言われれば、過去分まで請求できないこともありますので、なるべく早めに調停など起こすのがよいでしょう。

(4)養育費の相談窓口を知る

養育費は、法律で規定されています。しかし、現実には養育費を支払わない親は実に多いものです。厚生労働省は、このような実情を踏まえ、各地方自治体に専門の相談員を配置しています。また、弁護士に相談すれば、養育費の目安や調停の申し立て、相手との交渉まで行ってくれます。
養育費の悩みについては一人で抱え込まず、これらの相談窓口を活用することをおすすめします。

▶ 厚生労働省「養育費相談支援センター」

(5)相手の事情がどこまで考慮されるか知る

養育費は、親権者か否かに関わらず、父母が分担すべき費用です。
「再婚したから」とか「借金があるから」などといった言い訳は、基本的に通用しません。
また、親が失業やローンなど、経済的な余裕がないから養育費を支払えないというのも、原則として通用しません。とはいえ、経済的に困窮している場合には、現実問題として具体的にどの程度の費用を負担させることができるかが、問題となります。したがって、結局は現在の個々の経済状況に将来性も考慮するなどして、総合的に判断していくことになります。

(6)祖父母に請求できることもある

相手の収入が少なかったり無収入だったりして、十分な養育費の請求ができない場合には、相手の両親(子どもの祖父母)に養育費を請求することもできます。祖父母にも、孫を扶養する義務があるとみられるからです。
ただし、扶養義務があるのは、まずは親です。家庭裁判所に申し立てても、祖父母に十分な経済力があるケース以外は、なかなか認められないと思っていた方がよいでしょう。

(7)調停委員に好印象を与える

調停委員にどのような印象を与えるかで、養育費の額に影響が出るわけではありませんが、調停委員も人間です。共感してくれれば、応援したいと思ってもらうことができます。
反抗的な態度は避け、調停委員の心証を良くするよう、心がけましょう。調停委員の意見を遮って自分の意見ばかりを主張するのは、心証を悪くするのでNGです。

(8)証拠を用意する

一度決めた養育費の金額も、正当な理由があれば、変更することができます。父母や子どもを取り巻く状況は変化するものだからです。特に、教育費は公立に進むか私立に進むかで大きく金額が異なります。また、子どもが習い事などする時には、その分教育費がかかるものでしょう。
したがって、正当な理由があり、養育費の金額を変更したい(増額したい)と思う場合には、それを証明するための証拠をきちんと準備しましょう。

ただし、これは相手にも同じ理屈が通用します。相手が、給与明細や源泉徴収票を提示したうえで、「これ以上はどうしても無理だ」と主張してくれば、やはり話し合いで妥当な金額に歩み寄るかたちで決めることになります。

養育費をめぐるトラブル

養育費は、離婚時に取り決めていても、さまざまなトラブルが生じます。
そこで、ここでは養育費に関するよくあるトラブルと、対処方法についてご紹介します。

養育費の支払いが遅れる・支払われなくなった

離婚後はしばらく養育費が支払われていたのに、時間をたつと支払いが遅れたり支払いそのものがなくなることがあります。
このような時は、早めに電話やメールで催促し、それでも支払いがない場合には、養育費請求の調停や審判を申し立てましょう。

なお、離婚した時に「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成していれば、家庭裁判所から履行勧告・履行命令を出してもらうことができます。また、それでも相手が支払い請求に応じない場合には、強制執行をすることができます。

強制執行手続きを行うためには、養育費の請求権の存在を明確にした債務名義の提出が必要です。詳細については、弁護士などに確認したうえで手続きを行うようにしましょう。

養育費を増額したい

離婚時に養育費の金額を取り決めた場合でも、養育費の増額を請求することはできます。ただし、単に物価が上がったなどの理由では、相手も納得しないでしょう。

養育費の増額を請求する際には、物価の変動や進学による教育費の増加、病気、事故などによる医療費の増加などの事情、勤務先の倒産、病気など、やむを得ない事情で収入の低下など、具体的な実情を説明する必要があります。

もし、相手との話し合いができない時には、家庭裁判所に養育費の増額を求める調停を申し立てることができます。前述した「養育費請求の調停」の申立書に、どうして増額したいのかという理由を記載するとよいでしょう。

養育費を減額したい

支払う側が「再婚したから、養育費を減額してほしい」と言ってくることがあります。基本的には、支払う側の再婚による養育費の減額請求は、認められません。

ただし、支払ってもらう側が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をした時には、再婚相手に子どもの扶養義務が生じますので、それを理由に養育費減額の請求が認められる可能性はあります。その場合も養育費の支払いがまったくゼロになるということはありません。

過去には、公正証書で決めた養育費の金額(子ども1人月額35,000円)が、支払う父の再婚および会社の業績不振という事情が考慮され、30,000円まで減額された例もあります(山口家裁 平成4年12月16日審判)。

まとめ

以上、養育費も意味や養育費請求調停の申し立て方法、調停を有利に進めるために知っておきたいことなどについてご紹介しました。
養育費の支払いは長期にわたるものなので、支払が遅れたり支払われなくなったりするケースがあります。その場合には、早めに相手に催促し、相談窓口を利用し、状況に応じて養育費請求調停を申し立てましょう。

なお、状況の変化に応じて養育費の額を変更することができますので、その場合にも養育費請求調停を利用して、請求するようにしましょう。