夫婦間のセックスは、婚姻関係を継続するうえで大切な行為と考えられています。
したがって、理由もなく長期間にわたってセックスを拒否する行為は、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当することがあります。
まず「セックスレス」を理由に離婚できるかについてですが、当事者間で話し合い、双方が合意をすればどんな理由でも離婚できますので、セックスレスを理由に離婚することはできます。
しかし、相手との協議がまとまらず調停や裁判で離婚を争うことになった場合には、セックスレスの状態が「正当な理由のない性生活の拒否」であること、その状況におかれた時の辛さ、精神的なダメージの辛さなどをしっかりと主張する必要があります。
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セックスレスで離婚できる?
結婚は、夫婦の精神的、肉体的、金銭的な一切を共有することを目的とします。
しかし、セックスを数回拒否されたぐらいでは、離婚原因としては認められません。
また、夫婦のあり方はさまざまであり、「こうするべき」という決まったスタイルというものはありません。
ですから、セックスレスの状態であっても、夫婦の双方がそれで満足し夫婦生活を続けているのであれば、何の問題もありません。
セックスレスは離婚原因になり得る
最近は、セックスレスの夫婦が増加しているといわれています。双方がその関係に納得しているなら、それは問題ありません。
しかし、夫婦のどちらか一方がセックスを望んでいるにも関わらず、長期間にわたって性行為が拒否され、拒否された側が精神的苦痛を感じていたり、それが原因で夫婦関係がぎくしゃくしてしまったりする場合には離婚が認められることがあります。
そもそも「セックスレス」の定義とは
セックスレスとは、病気など特別な事情がないのに、1カ月以上性交渉がない状態をいうとされています。
しかし、1か月以上性生活がないからといって即「セックスレスで離婚」となるわけではありません。
過去の判例でも、1か月以上性交渉がないからといってすぐにセックスレスと決めつけているケースはありません。つまり、1回や2回、性交渉を拒んだ程度では、夫婦関係を破綻させるとまでは判断していません。
では、離婚事由となるくらいのセックスレスとは、どれくらいの期間かといえば、具体的な期間を提示することは困難ですが、おおよその基準としては1年以上といえるでしょう。
さらに、「性交渉を拒否される特別な事情が、全くない」といったことが、法的に認められるセックスレスの条件といえそうです。
セックスレス離婚したい人が知っておきたい6つの知識
セックスレスを理由として離婚したいと思っていても、相手が合意しなければ離婚は難しくなります。また、調停や裁判となった場合でも、セックスレスがどれくらいの期間か、どのような苦痛を感じているかなどを主張する必要があります。
(1)原因をはっきりさせる
セックスレスといっても、性欲自体が起こらなくて性生活がない場合と、性的不能(ED・勃起不全)の疑いがある場合があります。
性的不能が原因でセックスレスになっている場合には、まずは病院できちんと検査を受けて、原因をはっきりさせることが大切です。
男性の場合には、「性欲があるのにできない」という状態は、非常に辛いものであると同時に屈辱的に感じるケースが多く、夫婦でも打ち明けられないケースが多いようです。
したがって、まずはその気持ちを理解して病院などで検査を受けて原因を明らかにして、話し合いましょう。
EDは、過度の緊張やストレスなどが原因であるものが多いですが、糖尿病や飲酒、喫煙なども関係していると言われています。また、抗うつ薬や抗不安薬の副作用も考えられます。原因が明らかになれば、治療法や克服法が見つかる場合もあるので、まずは専門医を受診して、夫婦で解決策を探りましょう。
なお、性的不能である場合は、その発生時期や原因や度合いなどが考慮されます。性的不能を隠して結婚した場合は、離婚が認められる可能性が高いといえます。
(2)セックスレス=即離婚理由とはならない
セックスレスが離婚理由として問題になるのは、双方の希望、認識にズレがある場合です。夫婦であっても性生活については自己決定権を持っているので、何が何でも性交渉に応じなければならないという義務はありません。
実際、長期に渡るセックスレスの状態であっても円満な夫婦関係を築いているケースは多いでしょう。
しかし、一方が性交渉を望んでいるのに、他方が性交渉に応じないという場合には、次第に夫婦関係全般にひびが入り、関係がぎくしゃくしてしまうのは、当然の流れです。
判例でも、「単に性交渉がなかった」ということだけで離婚を認めるわけではなく、セックスレスが結婚生活にどれだけ深刻な影響を与えているか、精神的苦痛を与えているかなどを重視する姿勢をとっています。
したがって、離婚を認めてもらうには、セックスレスを含めた色々な理由で「夫婦関係に深刻な影響を与えて破綻状態だ」と主張することが重要になります。
(3)相手が認識していなかった場合は不利になる
たとえば、妻がセックスレスを不満に思っていても、夫がそれを問題視していない場合には、セックスレスだけで離婚事由にならないこともあります。
つまり「セックスレスの状態を不満に思っている」ということを、相手が認識しておらず、「双方とも、今の状態に満足している」と思っていれば、それを理由とした離婚事由にはならない可能性もあるのです。
したがって、セックスレスを原因として離婚したいと考えた時には、その気持ちを明確に相手に伝えることが必要です。そうした事実があれば、後々裁判となった時にも有利になります。
(4)セックスレスが原因でも浮気すると不利になる
セックスレスによる欲求不満状態が続いても、それが不倫や浮気の言い訳にはなりません。
民事法の分野では、「自ら手を汚している者は、その手で裁判所へ救済を求めることは許さない」というクリーンハンズの原則といわれるものがあります。
これは離婚裁判でも同様で、たとえ配偶者とのセックスレスが原因だったとしても、自分が浮気した場合には、離婚請求することは許されません。
ただし、最近は、回復する見込みのない婚姻状態を続けることにこだわるべきではないという批判もあり、自ら離婚原因をつくった者(有責配偶者)からの離婚請求も認められるケースも増えてきました(絶対認められるわけではありません)。
もちろん、セックスレスだからと言って、不倫や浮気をしてよいというわけではありません。しかし、浮気をした側からの離婚請求でも、「正当な理由もなくずっと性交渉を拒否されている」「別居期間が長い」「時の経過が諸事情に与える影響が大きい」「未成熟の子がいない」……など、さまざまな事情からも離婚の成立が認められる可能性はあります。
(5)セックスレスで慰謝料を請求できることもある
セックスレスを理由として慰謝料を請求できる場合もあります。
慰謝料の金額は婚姻期間や支払う側の資力、離婚原因となった行為の内容など、さまざまな事項を考慮して決められますが、交渉次第では高額な慰謝料が認められることもあります。
なお、慰謝料を請求する際には、セックスレスの状態が結婚生活にどのような影響を与えているのか、どれだけ精神的なダメージを受けているかをしっかりと主張する必要があります。
(6)セックスレスの慰謝料の相場は50万円~300万円
セックスレスを理由に離婚をする場合の慰謝料の額は、50万円~300万円の範囲内である場合がほとんどです。
「夫婦間ではセックスレスであるに関わらず、不倫相手とセックスをしていた」「結婚してから一度もセックスをしていない」「セックスレスの期間も3年以上ある」などの事情があり、それを証明できる証拠を準備できると、慰謝料が増額される可能性があります。
セックスレス離婚を有利に進めるためには、どのような証拠が必要になるかについては、早めに弁護士などに相談して準備をするとよいでしょう。
セックスレス離婚をする方法
協議離婚ではお互いが合意すれば、離婚が成立します。
したがって、当事者間の話し合いがスムーズにまとまれば、セックスレスが理由でなくても離婚は成立しますし、離婚の条件、慰謝料、親権や養育費も当事者間で自由に決めることができます。
しかし、セックスレスを理由とした離婚に相手が納得いかなかったり、それに伴い慰謝料や財産分与、親権や養育費などの離婚条件に双方で合意ができなかったりした場合には、調停、裁判に移行することになります。
(1)まずは話し合う
まずは、当事者間で話し合ってみましょう。
前述したとおり、セックスレスの原因が、EDなどの場合もあります。その場合には原因をはっきりさせれば、治療法などが見つかることがあります。
ただ、症状が改善されない、治療に消極的などの事情がある場合には、セックスレスだけでなく、「協力的でない態度が、夫婦関係をぎくしゃくさせている原因だ」ということも訴えて、離婚を受け入れてくれるよう主張してみましょう。
(2)離婚調停を申し立てる
離婚について当事者間の話し合いがまとまらない場合や、そもそも話し合いに応じてくれない場合には、家庭裁判所の調停手続(夫婦関係調整調停)を利用することができます。
離婚などの家庭の問題については、いきなり訴訟をすることはできず、訴訟の前に必ず調停の申立をしなければならないことになっています。
家庭裁判所の調停の申立て手続きは、自分でも簡単行うことができます。
申立書には、養育費や財産分与、慰謝料の金額についても記入する欄があります。これらの記載事項については、予め弁護士に相談しておくとおおよその目安を把握することができるので、迷わずに済むでしょう。
以下に夫婦関係調整調停(離婚)の申立書の記載事例をご紹介しますので、参考にしてください。
(3)調停不成立なら離婚裁判
当事者間の話し合いでもまとまらず、家庭裁判所の調停・審判を利用しても離婚成立について合意できなかった場合には、家庭裁判所に離婚の訴えを起こす必要があります。
前述したとおり「セックスレス=即離婚理由」となるわけではありません。裁判では「セックスレスが原因で結婚生活が破たんした」ということをしっかり主張する必要があります。性交渉は夫婦の義務であり、最高裁の判例でも、夫婦間の性生活が婚姻の基本となるべき重要事項であるということについて確認しています。
セックスレスを理由に離婚が認められた裁判例
・性交渉できないことを告げずに結婚し結婚当初から性交渉がない
・性交渉を拒否し、夫がAVを見て自慰行為にふけっている
・ポルノ雑誌にしか興味を持たず性交渉を拒否する
・同性愛者で妻との性交渉を拒否した
訴訟を提起する場合には、「民事訴訟法」「人事訴訟手続法」などの法規に基づいて訴状を作成しなければなりません。
離婚裁判の場合でも、本人訴訟といって提訴する本人が訴状を書き手続きを進めることができますが、勝訴するためには、専門的な知識や高度な交渉テクニックが必要です。
離婚を有利に進めるためにも、また必要となる証拠を揃えるためにも、早めに弁護士に依頼することをおすすめします。
まとめ
以上、セックスレスの意味や、セックスレス離婚をしたい人が知っておきたい6つの知識、セックスレスを理由として離婚したい時の方法についてご紹介しました。
セックスレスは、夫婦にとって重要な問題ですが、互いにその状態に納得しているのであれば、特に問題になりません。しかし、夫婦のどちらかがセックスを望んでいるのに長期間応じてもらえない場合には、結婚生活を破綻させる原因となりえます。
また、セックスレスの状態や精神的苦痛、相手の努力がなかったことなどを理由として慰謝料請求が認められることもあります。
詳細については、離婚問題に精通している弁護士に相談することをおすすめします。