養育費が減額できる4つのケースと減額請求する時の5つの注意点

養育費を支払うのは親の義務であり、養育費を受け取るのは子どもの権利です。

しかし、離婚後に事情が変わり、取り決めた養育費の支払いが難しくなった場合には、養育費の減額を求めることができます。話し合いで合意できない場合には「養育費の額の変更を求める調停」を申し立てます。

この記事では、養育費の額の減額が認められる4つのケースとや、5つの注意点、養育費の減額を請求するために必要な手続きについて説明します。

養育費を減額できる4つのケース

離婚をしても親には未成年の子どもを扶養する義務があり、子どもには扶養を受ける権利があります。

しかし養育費の支払いは長期にわたるものなので、その間のさまざまな状況の変化に応じて取り決めた養育費の額の支払いが難しくなった場合には、離婚時に決めた養育費の額の減額を求めることができます。

養育費の減額が認められるのは、主に以下の4つのケースです。

(1)受け取る側の再婚
(2)受け取る側の収入増加
(3)支払う側の収入減少
(4)支払う側の再婚はケースバイケース

(1)受け取る側の再婚

受け取る側が再婚しても、支払う側の養育費の減額が当然に認められるわけではありません。受け取る側が再婚しても、その相手に子どもを扶養する義務はないからです。
ただし、再婚相手が子どもと養子縁組をした時には、再婚相手に養親として扶養義務が生じます。そこで、これを理由として養育費の減額を求めることはできます。
ただし、養育費の減額を求めることはできても養育費の支払いがなくなるわけではありません。

(2)受け取る側の収入増加

受け取ってる側が、就職などして経済的に安定した場合には、それを理由に養育費の減額が認められる場合があります。

(3)支払う側の収入減少

支払う側が、会社が倒産したり事業の失敗で収入がなくなった、病気がケガなどで収入が減った場合には、養育費の減額が認められることがあります。
ただし、会社が持ち直したり無事再就職して再び経済状況が安定した場合には、元の養育費の額に戻る可能性はあります。

(4)支払う側の再婚はケースバイケース

支払っている側が再婚して、扶養すべき子どもが増え、養育費の支払いが負担になる場合もあるでしょう。しかし、支払う側の再婚による養育費の減額は、基本的に認められることはありません。
ただし、過去の事例では、支払う側の再婚と事業の悪化の2つを要因を理由として、養育費の減額が認められたケースがあります。

実際にあったケースをご紹介しましょう。
母親が小学生3人の子の親権者になって調停離婚したケースです。
養育費は、調停で、1人月額35,000円(中学入学の月からは5万円)と定められました。当時父は、会社役員の他に不動産収入もあり、多少の借入金はあっても、この額の養育費を支払えるものと予測したのです。

しかし、翌年から会社が業績不振となり、年収は3分の1に激減しました。さらに再婚して2人の子どももできました。父はこのような事情から、養育費を滞納して役員報酬の差し押さえを受け、会社から借金して養育費の支払いをしていました。

このケースでは、調査官による調査が行われ、父の負担すべき額を1人あたり月額30,000円に減額しました(山口家裁 平成4年12月16日審判)。

上記のケースでも分かるように、支払う側が再婚したというだけで当然に養育費の減額が認められるわけではなく、父が何とかして養育費を支払おうとしていたこと、そして経済的に困窮したことなども判断要素となることを知っておきましょう。

養育費の減額請求する時の5つの注意点

養育費の減額請求をする時には、いくつかの注意点があります。
ここでは、減額請求する前に知っておきたい5つのポイントをご紹介します。

(1)減額請求は当然には認められない

減額請求は、「減額してくれ」と請求すれば、当然に認められるというわけではありません。曖昧な理由では相手も納得しないでしょうし、話し合いがまとまらずに調停になった時にも、調停が成立するのは難しいでしょう。

したがって、減額請求する時には支払調書や源泉徴収票など、経済的に困窮していることなど、調査委員に納得してもらえるような資料を提示する必要があります。

① 養育費を支払っている父親の収入が激減し、さらにその父親が再婚して子どもが2人生まれた事例(山口家審平4・12・16)
上記の事例では生活状況が大きく変化したことが明らかであるとして、養育費の額を減額しました。

② 父母双方が別の相手と再婚し、子どもが母親の再婚相手と養子縁組をした(東京家審平2・3・6)

上記の事例では、養育費の合意がなされた当時に予測し得なかった事情(状況の変化、経済的安定など)があるとして、合意の変更が許されるべきであるとしました。

(2)養育費算定表は16年ぶり見直しで増加傾向に

養育費の額を取り決める際によく用いられるのが、家庭裁判所で発表されている「養育費算定表」です。この養育費算定表については、以前から「低額すぎる」との批判がありましたが、このたび16年ぶりに見直しが行われ、2019年12月23日に、新しい養育費算定表が発表されました。

養育費算定表変更

個々の状況に応じて異なりますが、支払う側などの年収によっては、月1万~2万円程度増えるなど、全体的に増額傾向となりました。

養育費の減額を請求する時には、この新しい養育費算定表についても見ておきましょう。この表と、あまりにかけ離れた減額を請求すると認めてもらえないこともあります。

▶ 養育費・子1人表(子0~14歳)

▶ 養育費・子1人表(子15歳以上)

▶ 養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳)

▶ 養育費・子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)

▶ 養育費・子2人表(第1子及び第2子15歳以上)

▶ 養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)

▶ 養育費・子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)

▶ 養育費・子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)

▶ 養育費・子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)

▶ 家庭裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(令和元年12月23日に公表)」

(3)養育費を支払わないと強制執行されることも

養育費の支払いが厳しいからと言って、支払わなかったり、支払が遅れたりすると、強制執行されることがありますので、注意が必要です。

離婚時に、強制執行認諾文言付き公正証書を作成した場合には、養育費を受け取る側が地方裁判所に強制執行を申請することができます。
調停離婚、審判離婚、裁判離婚などで養育費について取り決めている場合には、養育費を受け取る側が家庭裁判所に連絡をすると、家庭裁判所から履行勧告、履行命令を出されます。そしてこの履行勧告、履行命令に従わないと、強制執行が行われます。

(4)面会交流と引き換えはできない

「面会交流も拒否されているのに、養育費など支払いたくない」と感じてしまう気持ちは、分かります。
しかし、面会交流は「子どもに会う親の権利」ではなく、「子どもが健やかに成長するために必要な権利」としての側面が強いものです。したがって、暴力や虐待などの恐れがあると相手から主張されている場合には、面会交流が拒否され、養育費の支払いだけ求められるのも仕方ありません。

しかし、養育費の調停を申し立てれば、その場で面会交流についても再度話し合われることになります。

虐待などの心配がない場合には、調査委員から相手に対して、「面会交流を行うことが、親子のよい関係を築くために必要だ」とアドバイスしてくれることも期待できます。

(5)養育費を支払わないと祖父母に請求されることも

養育費を支払う側の収入が少なかったり無職だったりする場合には、相手が祖父母に請求する可能性もあります。祖父母にも、孫に対する扶養の義務はあるからです。
しかし、扶養義務はあくまで親にありますし、両親に迷惑をかけることはよくありません。
養育費の支払いが厳しいのであれば、養育費の減額請求を申し立て、収入が安定するまで減額してくれるよう、誠意をもって説明することが大切です。

養育費の減額請求をする方法

養育費を減額したい時には、まずは相手に連絡して話し合いをします。
しかし、話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所に養育費の減額請求の調停を申し立てることになります。

(1)まずは相手と話し合う

養育費が減額される場合、いつから減額されるか問題になります。
この点について法律の規定はありませんが、一般的には「相手に減額を申し入れた時」から減額されると考えられます。
したがって相手に養育費の減額を申し入れ、相手がこれに応じないでその後調停や審判で減額が認められたときには、減額を申し入れた時点にさかのぼって養育費の減額が認められるとされています。
ですから養育費の減額を求めたいときには、できるだけ早めに相手に連絡したほうがよいでしょう。

(2)話し合いがまとまらなければ調停

養育費の減額を求める場合は、内容証明郵便などで変更の請求を行ったり、双方で話し合いをして交渉しますが、話し合いがまとまらなかったり話し合うことが難しいような場合には、「養育費請求調停」を申立てます。
養育費請求調停は、支払いの減額を求める相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に申立てる必要があります。

養育費減額調停申立ての際の必要書類

養育費請求調停を申立てる際には、下記の書類を提出する必要があります。

・申立書及びその写し1通
・未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
・申立人の収入に関する資料
(源泉徴収票写し、給与明細写し、確定申告書写し、非課税証明書写し等)

養育費減額調停申立書の記載方法については、以下の記載事例を参考にしてください。

養育費減額調停申立書の記載方法

養育費減額調停の申立てに必要な費用

また、養育費(請求・増額・減額等)調停の申立てを申立てる際には、下記の費用が必要です。

収入印紙1200円分(子ども1人につき)
連絡用の郵便切手 800円程度(家庭裁判所によって異なります)

▶ 家庭裁判所「養育費(請求・増額・減額等)調停の申立て」

まとめ

以上、養育費の減額を請求できる4つのケースと、養育費の減額を請求する時に知っておきたい5つのポイント、養育費の減額を請求するための方法についてご紹介しました。
養育費の減額は、請求すれば当然に認められるわけではなく、減額請求が正当であると認められるだけの理由が必要です。
まずは、相手と話し合いをして減額を請求しますが、話し合いがまとまらない場合には、養育費減額調停を申し立てましょう。