夫が刑務所に!離婚するための方法とは

「夫が刑務所に入ったので、離婚したい」という女性。
収入が途絶えたものの、まだ1歳の子供を抱え、すぐに働き始めるのも難しい状況です。
そこで、「母子家庭の優遇制度を受けるために、離婚してほしい」」と、夫に申し入れたのですが、夫は「離婚はしない」と、離婚に応じてくれません。

「夫が刑務所に入った」という理由で、離婚することはできるのでしょうか。もし相手が離婚に応じてくれない場合には、どうすればよいのでしょうか。

夫が刑務所に入った

B子さん(33歳の女性・1歳の子供あり)の夫は、結婚して3年ほど経ってから仕事を休んで出かけるようになりました。仕事を休んでいるのに以前より羽振りがよくなったことを不思議に思ってB子さんが夫に尋ねると、「先輩の仕事を、副業として手伝っている」とのことでした。
B子さんは、「本業には支障が出ないから、大丈夫だ」「いずれは、副業に専念するためのステップだ」という夫の言い分を、信用してしまいました。

夫が恐喝の罪で刑務所に

夫が、「先輩の仕事を、副業として手伝っている」と言い出してから1年ほど経ったある日、突然夫が逮捕されました。
恐喝罪でした。
先輩の副業とは、このことだったのです。夫は逮捕され、実刑判決を受けて、刑務所に入ることになってしまいました。

結婚前の恐喝の前科を隠していた

夫が逮捕されてから分かったことですが、夫には恐喝の前科がありました。夫にたずねると、前科があることを隠して結婚したことを認めました。
結婚前に恐喝の前科があることを知っていれば、夫が仕事を休みがちになった時に、もっと厳しく問いただすことができたと思います。
何より、大切なことを隠して結婚したという夫に、B子さんは不信感でいっぱいになりました。

夫は離婚に応じてくれない

家計は夫の稼ぎだけだったので、夫が刑務所に入ったことで、収入が途絶えてしまいました。子供はまだ1歳で、すぐに仕事が見つかるとは思えません。
実家に相談しましたが「前科者との離婚が成立してから、戻ってこい」の一点張り。
当然、夫に離婚を申し入れましたが、夫は離婚に応じてくれません。

夫が刑務所に…離婚できるか?

B子さんは、何とかして夫と離婚したいと思っています。
夫に対する不信感から、B子さんが「とても結婚生活を続けていく自信がない」という気持ちになったのは、十分理解できます。
それでは、このように配偶者が犯罪を犯したことを理由として、離婚することはできるのでしょうか。

(1)「犯罪者」だけで離婚するのは難しい

離婚を相手に申し入れても、相手が離婚に合意しなければ、調停、裁判を申し立てることになります。しかし、夫が刑務所に入っている以上、調停で話し合うことはできませんから、その旨を家庭裁判所に申し入れれば、離婚裁判を起こすことになります。
しかし、相手が犯罪を犯したという理由だけで、裁判で離婚が認められるのは難しいといえます。

しかし、夫婦には同居義務(同居しなければならない義務)、扶助義務(一方が援助をする場合、もう一方が援助を行う義務)、協力義務(協力して結婚生活を送らなければならない義務)があります。

夫が刑務所に入っている以上、夫は、これらの夫婦間の3つの義務を果たしていないので、それを理由に「結婚生活を続けるのは、無理だ」と判断される可能性はあります。

(2)「前科を隠していた」は離婚理由になる

今回の場合には、犯罪を犯したということの他に「前科があることを隠していた」という事情もあります。
「前科がある」というのは、結婚するか否かを決断するうえで、重要な要素となるはずです。したがって、このことを隠して結婚したというのは、離婚裁判では重視されるはずです。
結果として、裁判で離婚が認められる可能性は高いといえます。

(3)但し、離婚裁判はお金と時間がかかる

裁判となると、弁護士費用などがかかるだけでなく、判決までにかなりの時間がかかってしまいます。
B子さんは、幼い子供を抱えて今すぐに仕事を見つけることも難しく、すでに収入が途絶えて、生活に困窮しています。
幼い子供のためには、1日も早く離婚を成立させて母子家庭に対する優遇措置を受けたいところです。

生活に困っているうえに、離婚裁判で、弁護士費用などがさらにかかることを考えると、B子さんは、「生活費を捻出するだけでも困難なのに、裁判費用をどう工面すればいいのか」と途方に暮れてしまいました。

(4)生活のためにも、何とか説得するのが現実的

B子さんは、夫と2人で話しても感情的になって、話し合いができないことから、弁護士に相談することにしました。

弁護士費用については、法テラスに相談して、実質的に立て替えてもらうことができました。

日本司法支援センター(法テラス)
0570-078374

▶ 法テラス・サポートダイヤル

弁護士から、夫に「とても結婚生活を続けていく自信がないこと」「前科を隠していたことを許すことができないこと」「裁判になったら、離婚が認められること」を説明してもらい、何とか夫に離婚を承諾してもらうこととしました。

(5)保護命令を申し立てる

B子さんは夫との離婚が成立し、母子家庭の優遇制度のサポートを受けながら、週3回のパートを見つけ、何とか生活が落ち着いてきました。

しかし、夫の出所日が近づくにつれ、「夫が怒鳴り込んでくるのではないか」という恐怖で眠ることすらできなくなりました。夫は、離婚前もお酒に酔うと暴れることもあったからです。

そこで、配偶者暴力相談支援センターに相談したところ、保護命令を申し立てることをすすめられました。

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)が施行されたことで、DVの被害者が生命・身体に重大な危害を受ける恐れが大きい場合には、裁判所が加害者に対して保護命令を出してくれることもあります。

保護命令制度の内容は以下の5つです。

・被害者への接見禁止命令
・退去命令
・電話等の禁止命令
・被害者の未成年の子への接見禁止命令
・被害者の親族等への接見禁止命令

まとめ

以上、B子さんの例をご紹介しながら、配偶者が犯罪を犯したことを理由として、離婚するための方法についてご紹介しました。

相手が離婚に合意しない場合、犯罪を犯したという理由だけで離婚が認められるのは厳しいケースがあります。

しかし、①夫が刑務所に入っていることで夫婦の義務を果たしていないこと、そして②前科を隠していたことの2つから、離婚を認められる可能性は十分あるということになります。

ただし、離婚裁判になった場合には時間と費用がかかります。
もし、早期に離婚を成立させたい場合には、弁護士に依頼して相手を説得してもらい、協議による離婚を成立させるのが現実的であるといえるでしょう。