親権者になれる人|重視される「現状維持の原則」とは

親権者とは、未成年の子どもの「親権」を持つ人のことをいいます。
親権とは、未成年の子どもを監護・教育し、財産に関する法律行為を行う権利・義務のことです。
婚姻中は、父母が共同で親権を行いますが、離婚する時には父母のいずれかを親権者として決める必要があります。

この記事では、親権の意味や親権者になれる人、親権者について話し合いがまとまらない時に重視される8つのポイントについてご紹介します。

親権者になれる人

親権者とは、親権を持つ人をいいます。
親権とは、成年に達しない子どもの利益を守るための権利であり、以下の2つの要素があります。

①身上監護権
子どもの住む場所を決め、世話、教育、しつけをして、子どもが職業に就く時に許可を与える。

②財産管理権
子どもの財産を管理(子どもがお金を使ったり契約したりすることを認める)する。
結婚、改姓などの行為を認め、子どもの代わりに手続きをする。

(1)婚姻時は共同親権

婚姻時は、親権者は父母の両方です。
子どもが養子である時には、養親が親権者となります。

民法第818条(親権者)
1. 未成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2. 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3. 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

(2)離婚の場合は父母一方が親権者になる

未成年の子どもには親権者が必要であり、離婚する時には、父母のどちらかが親権をとることになります。
未成年の子どもがいる場合には親権者を決めなければ、離婚することはできず、離婚届を提出する時にも親権者の記載がないと受け付けてもらうことができません。

子どもが複数いる場合には、一人ひとりの子どもの親権者を決める必要があります。

(3)親権者と監護者の違い

前述したとおり、一般的には親権者が身上監護権と財産管理権の両方を持つことになりますが、親権者が財産管理権を持ち、もう一方の親が身上監護権を持って、監護者として子どもを育てることもできます。つまり、親権者と監護者を分けることもできるということです。
たとえば、父として親権はゆずれないが、子どもが小さいから手がかからなくなるまで母の手もとで育てることにしようという取り決めをした場合、父が親権者、母が監護者となります。

ただし、親権者と監護者を分けると、親権者と監護者の意見が対立した時にトラブルに発展することもあり、おすすめはできません。したがって、親権者と監護者を分けるのは「親権争いが長引いて、なかなか解決できない」などのケースに限られ、あまり多くはありません。

(4)祖父母は親権者になれるか

祖父母も養子縁組をすれば、親権者となることができます。
ただし未成年者の養子縁組には、親権者(父または母)の同意がなければならないとされています。

なお、祖父母が未成年者の世話をする方法としては、他にも祖父母を孫の「監護権者」に指定してもらうという方法があります。
父または母が親権者になっても、経済力や健康上の理由で子どもの世話ができない時には、家庭裁判所の審判によって、第三者に監護面を委託するのです。

そのためには家庭裁判所に「監護権者指定の審判」を申し立てる必要がありますが、申し立てができるのは法律上「父母」とされています。ただし、過去の裁判例には、父母以外の親族らに申立権を認めたものもあります。

(5)親権の辞任、親権の変更、親権喪失、親権停止とは

親権の辞任
刑に服する、長期間海外に滞在するなど、やむを得ない事由がある場合には、親権者を辞任することもできます。ただし、親の判断で決められるものではなく、家庭裁判所に申し立てて許可の審判を必要とします。許可の審判所の謄本を添えて、戸籍係に親権辞任の届け出をすると、辞任の効果が生じます。

親権の変更
離婚後に親権者を変更したい場合には、父母の話し合いではできません。簡単に親権の変更ができると、そのたびに子どもの生活環境が変わってしまい悪影響があるからです。

そのため、親権者を変更したい時には、「親権者変更の申立て」をしなければなりません。変更してもらえるかどうかは、子の福祉を考えて家庭裁判所が決めることになります。

▶ 家庭裁判所「親権者変更調停」

親権の喪失
子の養育を、放置したり虐待したりしている場合には、親権を喪失させることができます。親権喪失の審判を申し立てることができるのは、子の親族または検察官、児童相談所の所長です。
親権喪失の申立てがあった場合には、審判が確定するまで親権者の親権行使を停止して、祖父母などの親権代行者を選任することができます。
親権喪失の結果、親権者がいなくなった場合には、子の親族、児童相談所長は、後見人の選任を申し立てることができます。

▶ 家庭裁判所「親権停止審判・親権喪失審判」

親権の停止
平成24年4月1日から施行された親権停止制度は、2年を超えない期間で親権者と子供を一時的に引き離すことができる制度です。
親の虐待や暴言、放置などで子どもの利益が害されている時や、親権者による親権の行使が困難な時には、親権を停止することができます。

親権者を決める8つのポイント

これまでご紹介したように、離婚届には未成年の子どもの親権を記入する欄があり、協議離婚の場合には、親権者が決まっていないと、離婚届は受理されません。

親権について話がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停で決めることになります。
離婚調停と一緒に親権者の指定を申し立てることもできますし、親権だけの調停を申し立てることもできます。

調停などで親権者について話し合う際には、これからご紹介する8つのポイントが重視されます。

(1)子どもの利益と福祉が最大の判断基準

親権は、子どもの利益と福祉を最優先に判断します。
離婚によって子どもが受ける影響は大きなものです。したがって、離婚後も子どもが健やかに成長し、幸せに暮らすためには、どのような選択がよいのかを第一に考えます。

すでに別居している場合には、主に子どもの面倒を見ている方が優先されますし、日常的にどちらが主に子どもの世話をしているかという点も重視されます。

ただし、離婚後は母も外に勤めに出なければならないことが多いものですから、母親というだけで適当と判断されるわけではありません。自営業か勤め人か、その他職業の種類、内容によって、育児にどれだけの時間がとれるのかなど、個々の事情を具体的に比較しなければなりません。

(2)重視される「現状維持の原則」

親権者を調停や裁判で決める際には、現状維持の原則が重視されます。
たとえば、離婚を前提に母親が子供を連れて別居している場合には、父親が親権者となると子どもは父親に引き取られることになり、別居先で安定していた養育環境が変化してしまいます。
そこで、そのような負担が子どもにかからないようにするため、子どもが虐待されているなどの特別な問題がない限りは、現状維持の原則から、現在子どもと暮らしている親が親権者に指定される可能性が高くなります。

したがって、離婚後子どもの親権を得たいなら、別居する時には子どもを連れて行くようにしましょう。後々親権に関して合意できずに、審判や裁判となった時に断然有利になります。

(3)きょうだい不分離の原則

「きょうだい不分離の原則」から、きょうだいは同じ親のもとで育てられるのがよいとされています。そうでなくても、子どもは両親の離婚で心を痛めているのですから、これ以上悲しい思いをさせるようなことは避けるべきだからです。

すでに別々に住んでいてそれぞれの子どもが個々の環境に慣れているなど、やむを得ない事情が背景にある場合は別ですが、なるべく親の都合で子どもたちを引き離すことが内容、考える必要があります。

(4)子どもの年齢も影響する

家庭裁判所が親権を決める場合には、子どもの年齢も重視されます。
胎児であれば、原則として親権者は母親です。

10歳以上15歳未満の子どもの場合には、監護状況や子どもの意思が尊重されます。
15歳以上は、子どもに判断能力があるとして、子どもの意思が尊重され、裁判所は子どもの意思を聞かなければならないことになっています。

子どもの年齢による親権者の判断基準

(5)離婚の際の有責性

これまでご紹介したとおり、親権は子どもの年齢や監護状況などから、子どもの利益と福祉を最優先に判断されます。

したがって、子どもが乳幼児の場合には、たとえ離婚の原因が母親の不貞であったとしても、母親が親権者に指定されることもあります。

外国では、離婚に至ったことについて責任がある親は、子どもの親権者・監護者から排除されるという国もありますが、日本の場合はそのような法的な制約はありません。

したがって、不倫をした母が子どもを連れて家出をしてしまったような場合でも、離婚に際して子どもの親権者になる資格はないと言いきることはできません。

ただし、母親の生活態度や監護能力に問題があれば、子どもにとって良くないとみなされて、父親が親権者に指定されることになります。

(6)親の生活態度・経済状況

子どもには安定した環境が必要ですから、「親の生活態度」や「子供が育つ環境」は非常にが重視されます。したがって、親が住所不定であったり、放浪癖・家出癖があったり場合には不適格とみなされます。

経済状況も重視されますが、収入が多い方から少ない方に養育費を支払うことによって解決できる問題です。したがって、特に重要な基準ではなくむしろ付随的な事情とみるべきでしょう。

ただし実際は、「養育費は出すから、子どもの面倒を見てくれ」というようなケースはほとんどなく、「養育費を出す以上、こちらで子どもを引き取る」と主張するケースがほとんどです。
また、「収入・財産が多い方が、子どもの親権者になるのが当然で、その方が子どもは幸せになる」という考えも根強く、これが親権争いをさらに激化させる原因ともなります。

(7)親と子どもとの結びつき

親権者を決める最大の基準は、子どもの利益と福祉です。
したがって、子どもと親の結びつきも、重視されます。

15歳以上の子どもについては、裁判所が子どもの意思を確認しその内容を尊重して親権者を決めることが、法律で決められています。
また、子どもが15歳に達していない場合でも、10歳前後からは、子どもの意思が尊重される傾向が強くなります。

ただし、子どもは自分の正直な気持ちを隠し、同居する親の意向に左右されて発言してしまうこともあります。ですから、子どもの発言だけで、親権者が必ず決まることはありません。実際、子どもが母親と暮らしたいと意思表示したケースで、それは母が父と子の親族関係を断つために、父の悪口や批判を繰り返した結果だとされた例もあります。

家庭裁判所では、子どもの発言が本当に子どもの正直な気持ちなのか、子どもの態度や行動を慎重に確認し、総合的に判断をしていきます。

(8)親族などの援助の有無

監護補助者がいるといないとでは、いる方が適当とみられます。
たとえば、母の職業が「週に1度の夜勤があり勤務時間も不規則である」という場合と、父の職業が「勤めはあるが、同居の祖母が常時監護を補助できる」という場合では、父方の方が適当であるとされた審判例があります。

一方、母に仕事があるものの、子どもとの接触時間は十分確保できる場合と、父が芸能タレントで帰宅も遅く外泊も多いため接触時間が少ない場合には、母方と父方双方の祖父母が監護補助できるとしても、母の方が適当であるとした審判例もあります。

親権者が決まらない時の対処法

協議離婚の場合には、親権者が決まっていないと離婚届が受理されませんから、話し合いで決めることになります。
親権の取り合いになって話がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停などで決めます。申し立ては、親権者の指定だけでもよいのですが、離婚調停を起こす方が現実的です。そうすれば、養育費や面会交流など他の問題も一緒に解決できて、離婚後のトラブル防止になるからです。

離婚調停でも親権者指定の調停でも、家庭裁判所では調査官が現状や親権者の適格性、子どもの気持ちなど詳細に調査して、子どもの意思を反映して最善の選択を検討します。
そのうえで、調査委員や裁判官が親権者を指定します。

(1)「親権者指定の調停」を申し立てる

親権者指定の調停は、家庭裁判所に申し立てます。
未成年の子どもがいる場合には、仮に離婚について双方承諾していても、親権者指定について合意ができていない場合には、調停離婚そのものが合意できず調停離婚が成立しないことになります。

したがって、まずは夫婦の間で協議離婚を前提として親権者について話し合いをし、話し合いがまとまらない場合には、夫婦関係調整調停(離婚)で話し合いをする方が合理的です。

調停手続では、「子どもの親権者を誰にするか」「子どもとの面会交流をどうするか」「養育費は、いくらになるか」「離婚に際しての財産分与や年金分割の割合、慰謝料についてどうするか」といった、離婚に関する問題を一緒に話し合うことができます。

申立てに必要な費用
・収入印紙1,200円分
・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所で確認)

申立てに必要な書類
・申立書及びその写し1通
・標準的な申立添付書類
夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
年金分割割合についての申立てが含まれている場合には、年金分割のための情報通知書

夫婦関係調整調停(離婚)の申立書の記載方法については、以下の記載事例を参考にしてください。

▶ 家庭裁判所「夫婦関係調整調停(離婚)」

(2)調停不成立なら審判に移行

調停が不成立なら自動的に審判に移行され、不服があれば不服抗告を申し立て、高等裁判所で再審理をして決定します。

調停が不成立になって審判移行した場合には、通常、調停が不成立になった日から2週間から1カ月後に次回の審問期日が設定されます。

(3)審判に不服なら再審理

審判の内容に不服がある場合には、不服抗告を申し立て、次は高等裁判所で再審理を行うことになります。
裁判では、監護に関する双方の事情を比較し、子どもの年齢や環境、気持ちを慎重に調査します。監護補助者がいるかなども、考慮されます。

子どもの手続き代理人制度

離婚調停でも親権者指定調停でも、家庭裁判所では必要があれば弁護士を「子供の手続き代理人」を選任することがあります。
子どもの手続き代理人制度とは、離婚やそれにまつわる取り決めの調停において、夫婦に未成年の子どもがいる場合には、子どもの気持ちををより配慮するために、導入された制度です。

(1)代理人は弁護士に限られる

代理人となれるのは弁護士です。
子どもの代理人となった弁護士は、子どもが状況を理解できる手助けをして、その本心を正確に把握して、子どもにとって最も良い選択を親や裁判所に提言します。

(2)子どもの手続き代理人制度の手続き

子どもの手続き代理人制度は、未成年であっても判断能力がある場合には、子ども本人ができますが、裁判官の判断で国選代理人を選任する場合もあります。

子どもの手続き代理人制度については、費用をどうするのか、代理人としての素質をどう見極めるのか、裁判所とどのように意見調整するのかなど、さまざまな問題が指摘されています。しかし、子どもの意思を尊重し、子どもの権利を保障するためにも、重要な制度ということがいえます。今後は、これまで以上の活用が望まれます。

まとめ

以上、親権者になれる人についてご紹介しました。
離婚後は、父母のどちらか一方の親しか親権者になれませんので、未成年の子どもがいる場合には親権者を決める必要があります。
親権者について話し合いがまとまらない場合には、調停や裁判を検討します。

なお、親権者がいない、もしくは不適当な場合には、祖父母も養子縁組をすれば、親権者となることができます。その場合には、親権の変更、親権喪失、親権停止などの方法を検討することになります。

いずれにせよ、親権者の取り決めは離婚の必須条件であり、子どもの福祉と利益を最優先に考える重要な問題です。

できれば離婚を考える前に、親権を得るために必要な対策などについて弁護士に相談することをおすすめします。