親権者とは、未成年の子どもについて「親権」を行う人のことです。
親権には、子どもの身の回りの世話や教育を行うこと、住む場所などを決めること、子どもの財産を管理すること、子どもに代わって一定の法律行為を行うことなどが含まれます。親のための権利ではなく、子どもの利益を守るための権限であり、同時に義務でもあります。
父母の婚姻中は、原則として父母双方が親権者となります。2026年4月1日以後は、父母が離婚する場合も、父母双方を親権者とする「共同親権」と、父母の一方だけを親権者とする「単独親権」のいずれかを選べるようになりました。
この記事では、親権の意味、共同親権と単独親権の違い、親権者と監護者の関係、家庭裁判所が親権者を定める際に考慮する主なポイントについて解説します。
親権者とは
親権とは、未成年の子どもの利益を守るために、子どもを監護・教育し、財産を管理する権限であり義務です。
親権は、大きく次の2つに分けて説明されます。
①身上監護に関する権限・義務
子どもの日常生活を支え、監護や教育を行うことです。具体的には、子どもの住む場所、進学、医療、日々の生活などについて、子どもの年齢や発達の程度に配慮しながら判断します。
②財産管理・法律行為の代理に関する権限・義務
子ども名義の預貯金や不動産などを管理したり、子どもに代わって契約などの法律行為を行ったりすることです。
親権者は、自分の都合ではなく、子どもの利益のために親権を行使しなければなりません。また、父母は親権者であるかどうか、婚姻しているかどうかにかかわらず、子どもの人格を尊重して養育し、自分と同程度の生活を維持できるよう扶養する責務を負います。
(1)婚姻中は父母双方が親権者になる
父母が婚姻している間は、原則として父母双方が親権者となり、共同で親権を行います。
ただし、共同親権だからといって、子どもに関するすべての事柄を毎回父母が一緒に決めなければならないわけではありません。
食事、服装、日々の身の回りの世話、通常の通院など、子どもの監護や教育に関する「日常の行為」は、父母の一方が単独で決めることができます。
一方、子どもの居所の決定、進学先の選択、心身に重大な影響を与える医療行為、子どもの財産処分など、重要な事項は原則として父母が共同で決定します。
緊急の医療行為が必要であり、父母の協議や家庭裁判所の手続を待っていると子どもの利益が損なわれる場合など、「子の利益のため急迫の事情」があるときは、一方の親が単独で親権を行使できることもあります。
(2)離婚後は共同親権または単独親権を選ぶ
2026年4月1日以後に離婚する場合、父母は、離婚後の親権者を次のいずれかに定めます。
・父母双方を親権者とする共同親権
・父母の一方だけを親権者とする単独親権
共同親権と単独親権のどちらか一方が法律上の原則とされているわけではありません。父母と子どもの関係、父母同士の関係、これまでの養育状況、子どもの生活環境などを踏まえ、子どもの利益を基準に決めます。
子どもが複数いる場合は、それぞれの子どもについて親権者を定めます。ただし、きょうだいを別々の養育環境に置くことが適切かどうかも考慮されます。
家庭裁判所が親権者を決める場合、次のような事情が認められるときは、必ず単独親権としなければなりません。
・父または母が子どもの心身に害悪を及ぼすおそれがある場合
・DVなどの事情により、父母が共同して親権を行うことが困難な場合
・父母双方を親権者とすることで、子どもの利益を害すると認められる場合
ここでいうDVは、殴る、蹴るといった身体的暴力だけではありません。精神的、経済的、性的な暴力や支配によって、父母が対等に話し合えない状態にある場合も含まれます。
(3)協議離婚では親権者を決める必要がある
未成年の子どもがいる夫婦が協議離婚をする場合は、原則として、離婚届にそれぞれの子どもの親権者を記載する必要があります。
共同親権を選ぶ場合は父母双方を、単独親権を選ぶ場合は父母の一方を親権者として記載します。
ただし、離婚すること自体には合意しているものの、親権者について協議がまとまらない場合、家庭裁判所に「親権者指定調停」または審判を申し立てていれば、親権者をまだ定めていない状態で協議離婚の届出をすることができます。
この場合は、先に親権者指定の申立てを行い、その後速やかに離婚届を提出し、引き続き家庭裁判所で親権者を決めます。
離婚するかどうか自体に争いがある場合や、養育費、財産分与、慰謝料なども含めて話し合う必要がある場合は、夫婦関係調整調停(離婚)を利用するのが一般的です。
(4)親権者と監護者の違い
「親権者」と「監護者」は同じとは限りません。
監護者とは、子どもと生活し、子どもの身の回りの世話や教育など、身上監護全般について判断する人です。
共同親権の場合でも、父母の一方を監護者に指定できます。監護者に指定された親は、子どもの居所、進学、重要な医療などを含む身上監護全般について、原則として単独で決めることができます。
ただし、監護者であっても、子どもの財産管理や、子どもを代理して行う契約、氏の変更、養子縁組などを単独で行えるとは限りません。
父母の意見が対立する事項に応じて、家庭裁判所では次のような手続を利用できます。
・子の監護者の指定
・監護の分掌
・特定の事項についての親権行使者の指定
たとえば、共同親権の父母が子どもの進学先について合意できない場合には、その進学に関する判断を単独で行う親を、家庭裁判所に指定してもらう方法があります。
親権者と監護者を分けることが適切かどうかは、父母の希望ではなく、子どもの生活が安定するか、重要な手続に支障が生じないかなどを踏まえて検討する必要があります。
(5)祖父母は親権者になれる?
祖父母が孫を日常的に養育していても、それだけで祖父母が親権者になるわけではありません。
祖父母が孫と養子縁組をした場合には、祖父母が養親として親権者になることがあります。ただし、養子縁組によって実親の親権関係や戸籍、相続関係なども変わるため、単に孫の世話をする目的だけで安易に行うべき手続ではありません。
また、祖父母は「子の監護者の指定調停」の申立人には含まれておらず、原則として父または母が申し立てる手続です。
親権者が死亡した場合など、子どもに親権を行う人がいないときは、家庭裁判所が未成年後見人を選任します。祖父母が未成年後見人の候補者になることはできますが、誰を選任するかは家庭裁判所が子どもの利益を踏まえて判断します。
(6)親権の辞任・変更・喪失・停止
親権または管理権の辞任
親権者にやむを得ない事情がある場合は、家庭裁判所の許可を得て、親権または財産管理権を辞任できることがあります。
親権者の都合だけで自由に辞任できるものではなく、辞任することが子どもの利益に反しないかを家庭裁判所が判断します。
親権者の変更
離婚後に親権者を変更する場合は、父母が合意していても家庭裁判所の手続が必要です。
2026年4月1日以後は、次のような変更が可能です。
・父母の一方から他方への変更
・単独親権から共同親権への変更
・共同親権から単独親権への変更
親権者変更の申立ては、子ども本人またはその親族が行うことができます。家庭裁判所は、これまでの養育状況、親権者を定めた後の事情の変化、父母と子どもの関係、子どもの生活環境などを考慮して判断します。
親権者変更の調停が成立した場合や審判が確定した場合は、原則として10日以内に市区町村へ届出をする必要があります。
親権喪失
虐待や悪意の遺棄などにより、親権の行使が著しく不適切で、子どもの利益を著しく害する場合には、家庭裁判所が親権喪失の審判をすることがあります。
親権喪失は期間を定めずに親権を失わせる強い措置であるため、親権停止では子どもを保護できない場合などに検討されます。
親権停止
親権の行使が困難または不適切で、子どもの利益を害する場合には、家庭裁判所が2年を超えない範囲で親権を停止することがあります。
原因が一時的であり、将来的に親権を再び行使できる可能性がある場合などに利用されます。
子どもの財産管理だけに問題がある場合には、親権全体ではなく、管理権喪失の審判が行われることもあります。
親権者を決める際に重視される8つのポイント
共同親権と単独親権のどちらにするか、単独親権の場合に父母のどちらを親権者とするかについて、単純な点数表や一律の基準があるわけではありません。
家庭裁判所は、父母と子どもの関係、父母同士の関係、これまでの養育状況など、一切の事情を踏まえて、子どもの利益を基準に判断します。
(1)子どもの利益が最も重要な基準
親権者を決める際に最も重要なのは、父母の希望や権利ではなく、子どもの利益です。
子どもが安心して生活できるか、心身の発達を支えられるか、教育や医療を適切に受けられるか、父母の争いに巻き込まれないかなどが検討されます。
共同親権と単独親権のどちらが親にとって公平かではなく、どちらがその子どもの利益に適しているかという視点で判断されます。
(2)これまでの養育状況と生活の継続性
これまで誰が食事、通院、保育園や学校への対応、日常の世話などを担当してきたかは、重要な判断材料になります。
子どもが現在の生活環境で安定している場合は、転居や転校による負担も考慮されます。ただし、「現在一緒に暮らしている親が必ず親権者になる」という決まりではありません。
別居時に子どもを連れて行けば親権で有利になるとは限らず、親権を得る目的で無断で子どもを連れ出すことは勧められません。別居に至った経緯、子どもへの影響、他方の親との関係を断った事情なども判断の対象となります。
一方、DVや虐待から避難するため、子どもを連れて安全な場所へ移る必要がある場合もあります。危険があるときは直接交渉をせず、警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所、弁護士などに相談してください。
(3)DV・虐待の有無と父母の関係
共同親権では、進学や重要な医療、財産管理などについて、父母が共同で判断する場面があります。
そのため、父母が子どもの利益のために必要な連絡や協議を行えるかは、重要な要素です。
父母の一方が他方を支配し、対等に話し合えない場合や、DV・虐待のおそれがある場合には、共同親権が子どもや被害を受けた親への負担を強める可能性があります。
父または母が子どもの心身に害悪を及ぼすおそれがある場合や、DVなどによって共同で親権を行うことが困難な場合は、家庭裁判所は単独親権としなければなりません。
(4)子どもの年齢・発達の程度・意見
家庭裁判所は、子どもの年齢や発達の程度に応じて、子どもの意見や意向を適切に尊重します。
15歳以上の子どもについて親権者の指定や変更などの審判をする場合は、原則として子どもの陳述を聴かなければなりません。
15歳未満であっても、年齢や発達の程度に応じて、家庭裁判所調査官による面接などを通じて意向を確認することがあります。
ただし、子どもに「父と母のどちらを選ぶか」という責任を負わせるわけではありません。子どもの発言だけで結論を決めるのではなく、生活状況や父母から受けている影響なども含めて慎重に判断します。
(5)きょうだいの関係
子どもが複数いる場合は、きょうだいが同じ生活環境で暮らし続けることが、子どもの安心につながるかが考慮されます。
ただし、きょうだいを必ず同じ親のもとで生活させなければならないという絶対的な決まりではありません。
すでに別々の環境で安定して生活している場合、年齢差が大きい場合、それぞれの子どもの意向が異なる場合などは、子どもごとに判断されることもあります。
(6)親の監護能力と生活環境
親の心身の健康状態、勤務時間、住居、子どもと過ごせる時間、学校や医療機関への対応、生活の安定性なども考慮されます。
病気や障害があること、仕事をしていることだけで、直ちに親権者として不適格と判断されるわけではありません。
必要な治療や支援を受けながら安定して養育できるか、保育サービスや親族の援助などを利用できるかを含め、具体的に判断されます。
(7)親族や支援者による援助
祖父母などの親族が日常的に子どもの世話を手伝えることや、保育園、学童保育、福祉サービスなどを利用できることは、養育環境を判断する材料になります。
ただし、祖父母の援助がある側が必ず親権者に選ばれるわけではありません。
親本人がどの程度子どもの生活に関わるのか、援助者が継続して支援できるのか、子どもと援助者との関係は良好かなどが総合的に検討されます。
(8)経済状況や離婚原因
収入や資産も生活環境を判断する事情の一つですが、収入が多い親が必ず親権者になるわけではありません。
子どもと別居する親には養育費を支払う義務があり、養育費や公的支援によって生活を支えることもできます。経済力だけでなく、実際の養育能力や子どもとの関係などを含めて判断されます。
また、不貞行為など離婚原因を作った親が、当然に親権者になれないわけでもありません。
ただし、その行為が子どもの生活を著しく不安定にした、子どもを放置した、子どもに危害を加えたなど、養育能力や子どもの利益に影響している場合には、親権者を決める際にも考慮されます。
親権者が決まらないときの対処法
親権者について父母の話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の手続を利用します。
利用する手続は、離婚そのものについて合意できているかどうかによって異なります。
(1)夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てる
離婚するかどうかについても合意できていない場合や、親権だけでなく養育費、親子交流、財産分与、慰謝料なども含めて話し合う必要がある場合は、夫婦関係調整調停(離婚)を申し立てます。
調停では、共同親権と単独親権のどちらにするか、単独親権の場合は父母のどちらを親権者とするかについて話し合います。
必要に応じて、子どもの監護者、養育費、親子交流などについても併せて取り決めます。
離婚調停は、父母の合意によって成立する手続です。親権者について合意できず、離婚調停が不成立となった場合、離婚そのものが自動的に審判で決められるわけではありません。離婚を求める側は、原則として離婚訴訟を提起することになります。
(2)親権者指定調停・審判を申し立てる
離婚すること自体には合意しているものの、親権者だけが決まらない場合には、親権者指定調停または審判を利用できます。
親権者指定の申立てをしていれば、親権者が未定の状態で協議離婚の届出を行い、その後、調停または審判で親権者を決めることも可能です。
親権者指定調停で話し合いがまとまらなかった場合は、自動的に審判手続へ移行し、裁判官が子どもの利益を基準に判断します。
申立てに必要な主な費用
・収入印紙1,200円分(子ども1人につき)
・連絡用の郵便料
郵便料や納付方法は家庭裁判所によって異なります。
申立てに必要な主な書類
・申立書及びその写し1通
・申立人の戸籍謄本
・相手方の戸籍謄本
・未成年の子どもの戸籍謄本
・子についての事情説明書
・進行に関する照会回答書
・送達場所等届出書
申立先や事件の内容によって、追加資料の提出を求められることがあります。
(3)家庭裁判所による調査
親権や監護をめぐる争いでは、必要に応じて家庭裁判所調査官が関与します。
調査官は、父母からこれまでの養育状況や今後の生活計画を聞いたり、家庭や学校の状況を確認したり、子どもの年齢や発達の程度に応じて意向を確認したりします。
すべての事件で同じ調査が行われるわけではなく、調査の方法や範囲は事件の内容によって異なります。
調査官が親権者を決めるのではありません。調査結果などを踏まえ、最終的には裁判官が判断します。
(4)審判に不服がある場合
親権者指定や親権者変更などの審判に不服がある場合は、原則として、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告を申し立てることができます。
即時抗告が適法に行われると、高等裁判所が審理します。
期限を過ぎると審判が確定するため、不服がある場合は早めに弁護士へ相談しましょう。
子どもの手続代理人とは
親権、監護者の指定、親子交流、子どもの引渡しなどをめぐる家庭裁判所の手続では、子どもの意見や利益を手続に反映させるため、弁護士が「子どもの手続代理人」となることがあります。
(1)子どもの手続代理人は弁護士
子どもの手続代理人になれるのは弁護士です。
子どもと面談して手続の内容を分かりやすく説明し、子どもの考えや希望を把握したうえで、子どもの立場から意見を述べたり、必要な手続行為を行ったりします。
子どもの希望をそのまま裁判所に伝えるだけではなく、子どもが安心して意思を表明できるよう支援し、子どもの利益が手続に反映されるよう活動します。
(2)すべての事件で自動的に選任されるわけではない
子どもの手続代理人は、親権をめぐる事件で必ず選任されるものではありません。
意思能力のある子どもが家庭裁判所の手続に参加し、弁護士を手続代理人として選任する場合や、裁判所が必要と判断して弁護士を選任する場合などがあります。
「国選代理人」として自動的に無料で付く制度ではなく、選任方法や費用負担は事件によって異なります。
子どもの意見を父母の争いから独立した形で確認する必要がある場合や、父母と子どもの利害が大きく対立している場合などには、弁護士と相談し、活用を検討することがあります。
まとめ
親権とは、未成年の子どもの監護や教育、財産管理などを行う権限であり、子どもの利益を守るための義務でもあります。
2026年4月1日以後は、離婚後の親権者を父母双方とする共同親権と、父母の一方とする単独親権のいずれかを選べます。どちらかが原則という制度ではなく、子どもの利益を基準に判断します。
ただし、虐待のおそれがある場合や、DVなどによって父母が共同して親権を行うことが困難な場合、共同親権が子どもの利益を害する場合には、家庭裁判所は単独親権としなければなりません。
親権者を決める際には、これまでの養育状況、子どもの生活環境、父母と子どもの関係、父母同士の関係、子どもの意見、監護能力などが総合的に考慮されます。
「親権を勝ち取るために子どもを連れて別居する」といった親側の利益を中心に考えるのではなく、子どもの安全と生活の安定を最優先にすることが大切です。
親権者について合意できない場合や、DV・虐待、子どもの連れ出しなどが問題となっている場合は、当事者だけで解決しようとせず、早めに弁護士や家庭裁判所の手続案内、関係する支援機関へ相談しましょう。