妻の不貞行為|生活費(婚姻費用)は支払うべきか

浮気をした妻が、子どもを連れて勝手に家を出てしまったのに、「夫婦なのだから、生活費を払って」と言われても、たいていの男性は納得できないと憤慨するでしょう。

しかし、たとえ妻が浮気をして子どもを連れて出て行ってしまった場合でも、婚姻費用を支払わなければならないケースもあります。

そもそも「婚姻費用」とは

婚姻費用とは、婚姻中(離婚するまで)の夫婦が生活するために必要となる生活費のことです。夫婦の資産、収入、社会的地位などに相応した衣食住の費用、医療費、子どもの養育費・教育費、娯楽費・交際費などです。

(1)なぜ払わなければならないのか

すでに夫婦の関係が破綻していて、別居しているにも関わらず、なぜ生活費(婚姻費用)を払わなければならないのでしょうか。

民法760条では、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定していて、夫婦には、婚姻費用を分担する義務があるとしています。

つまり、妻が専業主婦で収入がない場合やパート勤務で夫より収入がすくない場合には、夫は生活費を渡さなければならないわけです。

そして「婚姻関係が破綻していて、すでに別居している場合や離婚調停または離婚訴訟となっている場合でも、現実的に離婚するまでは、収入の多い方が少ない方に支払うべき」という考え方に基づいています。

なお、離婚が成立した時には、過去の婚姻費用についても分担請求をすることができます。

(2)婚姻費用の額はどれくらい?

婚姻費用の分担額については、単純に夫婦の収入を足して2で割ったものではなく、算定方法は確立していないのが現状です。

ただし、家庭裁判所では婚姻費用の算定表を発表していて、調停などではこの算定表をもとに話し合いが進められることが多いので、参考までに下記に記載しておきます。

▶ 婚姻費用/夫婦のみの表

▶ 婚姻費用/子1人表(子0~14歳)

▶ 婚姻費用/子1人表(子15歳以上)

▶ 婚姻費用/子2人表(第1子及び第2子0~14歳)

▶ 婚姻費用/子2人表(第1子15歳以上,第2子0~14歳)

▶ 婚姻費用/子2人表(第1子及び第2子15歳以上)

▶ 婚姻費用/子3人表(第1子,第2子及び第3子0~14歳)

▶ 婚姻費用/子3人表(第1子15歳以上,第2子及び第3子0~14歳)

▶ 婚姻費用/子3人表(第1子及び第2子15歳以上,第3子0~14歳)

▶ 婚姻費用/子3人表(第1子,第2子及び第3子15歳以上)

▶ 家庭裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について(令和元年12月23日に公表)」

浮気した妻から婚姻費用を請求されたら

これまでご紹介したように、妻が勝手に家を出て行ってしまった場合でも、同居、別居にかかわらず、妻は夫に婚姻費用を請求することができます。

しかし、浮気をした妻から「生活費を払ってくれ」と婚姻費用を請求されたとしても、当然に支払わなければならないものではありません。

裁判所では、婚姻費用が破綻している程度や、婚姻費用が破綻したことに対する責任に応じて、分担責任を認める傾向にあります。

(1)権利の濫用として認められないことがある

妻が浮気をして、それが離婚理由となった場合、その妻から婚姻費用分担請求をされても、その妻の請求は「権利の濫用」として認められない場合があります。
なぜなら、夫婦は婚姻義務を互いに誠実に履行すべきであり、自ら義務を怠りながら、相手に対してのみ義務の履行を求めるのは、婚姻義務が相互にあることに反しているからです。
したがって、浮気した妻の有責性の程度によっては、浮気した妻からの婚姻費用の請求は、まったく認められないか、あるいは減額されます(福岡高宮崎支 平成17年3月15日)。

また、もし、夫が「妻が浮気したこと」を知らずに、婚姻費用を支払った場合には、後から不当利得として返還請求が認められる場合があります(大阪高判 平成20年2月28日)。

(2)別居間もない時期は支払うべきとされた事例も

浮気した妻が勝手に家を出て行って、「生活費を払ってくれ」と言ってきても、認められないか減額されるケースがほとんどですが、別居後しばらく(3カ月ほど)は、「求職・生活の立て直しに必要な期間」であるとして、生活保護法による生活扶助基準月額の分担を認めた例もあります(名古屋高 金沢支部決定 昭和59年2月13日)。

(3)子どもの養育費は支払わなければならない

浮気をした妻は、有責配偶者であり、別居中の生活費を払う必要はないか減額されるケースがほとんどですが、子どもがいる場合には、父親として子どもの養育費を支払わなければなりません。

過去の判例では、不貞行為を行った有責配偶者から生活費を求めたケースで、子どもの養育費の部分については、妻からの請求を認め「支払うべきである」と決定しました。
ただし、浮気した妻の生活費部分については、信義則ないし権利濫用の見地から請求を認めないと決定しました(大阪高等裁判所決定 平成28年3月17日)。

まとめ

以上、浮気した妻から生活費を請求された時や婚姻費用分担請求調停を申し立てられた時に知っておきたい知識についてご紹介しました。

浮気した妻から生活費を請求されても、原則として支払う義務はありません。しかし、子どもの養育費に該当する部分については、支払わなければなりません。

もし、妻との話し合いがスムーズに進まない場合には、弁護士に相談してアドバイスをもらった方がよいでしょう。