離婚する前に、別居するケースは、多いものです。
離婚前に別居することで、夫婦関係を冷静に見直すことができますし、その後「離婚したい」と思い裁判になった時には、別居期間がある方が「夫婦関係が破綻している」と裁判所に認められやすくなるという事情もあります。
しかし、別居する時には後から後悔することがないように注意しておきたいポイントがあります。
この記事では、別居中の夫婦が注意したい8つのポイントについてご紹介します。
Contents
別居中の夫婦が注意したい8つのポイント
離婚を考えている時、感情的に別居してしまうことがあります。
しかし、感情的に家を出てしまうと、「夫婦の同居義務違反」とみなされて、出て行った側が悪いということになってしまいます。
また、別居する時には必要なものを持って出ないと、後から取りに戻れず困ってしまうこともあります。
(1)別居することをきちんと話し合う
本来、夫婦には同居の義務があります。したがって、双方とも合意のうえでの別居でないと、後で離婚話が具体的になった時に、不利になってしまうことがあります。
つまり、正当な理由がなく、離婚したい理由も伝えずに一方的に家を出てしまうと、「夫婦の同居義務違反」とみなされて、出て行った方が悪くなってしまいますので、注意が必要です。
ですから、別居する時には、「別居をしたいこと」「別居をする理由」を明確に伝えるようにしましょう。
ただし、DVなど別居をしたいという意思を告げたら相手に暴力を振るわれるリスクがある場合には、別です。このような場合には、別居をしたいと告げずに出て行っても、不利になることはありません。
(2)別居中の生活費はどうする?
別居したくても、生活費のことが心配で別居に踏み切れないということもあるでしょう。実際、扶養されていた妻が、離婚を前提として別居をした時に、夫が生活費を渡してくれないというケースもあります。
しかし夫婦は、別居期間中であっても離婚が成立するまでは、収入の少ない側は収入の多い側に、生活費を負担すべき義務があります。
これを、婚姻費用の分担義務といいます。
婚姻費用とは、衣食住や医療そのほか結婚生活を送るうえで必要な生活費のことです。
できれば、別居をする時に離婚が成立するまでの生活費(婚姻費用)について合意をしておく方がよいのですが、もし相手が応じない時には、家庭裁判所に「婚姻費用分担の調停」を申し立てることができます。
別居中の生活費をもらう方法については、以下の記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。
(3)別居中に持っていくべきもの
別居すると、自分の荷物を取りに自宅に戻ることがなかなかできなくなりますので、別居する時に持っていくべきものをリストアップして、計画的に別居することをおすすめします。
以下に、別居時に用意すべきものをリストアップしておきますので、参考にしてください。
①自分名義や生活費用の貯金通帳と印鑑
②キャッシュカード
③健康保険証
④運転免許証
⑤年金手帳
⑥パスポート
⑦知人の連絡先などを記したアドレス帳
⑧生命保険証書、不動産権利証、証券類などのコピー
⑨不貞や暴力などがある場合には、その証拠や医師の診断書
⑩自分の着替え、子どもの着替えなど
(4)離婚届の不受理申出をしておく
別居中に相手が離婚を迫ってきた場合は、離婚条件がまとまっていない段階で勝手に離婚届を出されないように、離婚届の不受理申出を提出しておきましょう。
相手が離婚届を勝手に提出して受理されてしまうと、家庭裁判所に「協議離婚無効確認の調停」を申し立てなければならないので、面倒です。
不受理申出をしておけば、相手が勝手に離婚届を提出しても受理されないので、別居中でも安心して離婚条件の話し合いをすることができます。
不受理申出は、提出者本人が「不受理申出書」に署名捺印して、原則として夫婦の本籍地にある役場に提出します。
本籍地の役場に提出できない場合には、あて先を本籍地の市区町村長として住所地の役場に提出すれば、そこから本籍地の役場に通知してもらうことができます。
不受理申出をした後に話がまとまり離婚する場合には、申し出た本人が離婚届を提出するだけでOKです。
(5)親権が欲しいなら子供とは別居しない
離婚後に子供を引き取りたいのであれば、別居中に子供を養育している方が有利になります。「とりあえず自分だけ先に家を出て住む場所を見つけ、後から子どもを迎えに行こう」と思っていても、相手が子どもを渡してくれないケースもあります。
役所や福祉事務所に相談すれば、状況によっては、母子生活支援施設やひとり親家庭を優先した公営住宅を利用することができます。
大変だと思いますが、子どもの親権が欲しい時には、子どもを連れて別居をするようにしましょう。
(6)別居中に荷物の持ち出したい時は
別居をする時に、今後の生活に必要なものを持ち出さなかった場合、相手に引き渡しを求めても応じてくれないケースがあります。なかには、別居中に勝手に廃棄されてしまうこともあります。
しかし、別居中であっても夫婦間には原則として協力・扶助義務があります(民法752条)。したがって、この協力・扶助義務の一形態として、別居中の夫婦の一方が他方に対して生活上必要な衣類や日用印の引き渡しを求めた場合、これに応じる義務を負うものとした判例があります。
もし、相手がどうしても荷物の引き渡しに応じてくれない場合には、弁護士等を介して交渉するとよいでしょう。
(7)別居中のマンションに住み続けたい時
夫が勝手に家を出て行ってしまって、その後夫名義の住宅に住んでいたところ、夫から「マンションを売りたいから出て行ってほしい」と言われることがあります。
しかし離婚する前は、仮に夫名義のマンションでも、妻にはマンションに住み続ける占有権限があるとされています。
したがって、相手が「自分名義のマンションなのだから、出ていけ」と言ったところで、離婚するまでは出ていく必要はありません。
それに、マンションが夫名義であっても、結婚中に購入したものであれば、夫婦2人で形成した財産です。したがって、離婚時までではなく、財産分与の合意が成立するまで、あるいは財産分与審判等が確定するまでは、原則として、妻に占有権限が認められます。
なお、マンションが名義上も夫婦共有である場合には、各共有者は共有物の全部について、その持分に応じた仕様をすることができますが(民法249条)、前述したとおり占有権限があるので、やはり財産分与によって一方の単独名義となるまでは、持分権者に対して明け渡しを請求することはできません。
(8)別居中のマンションから出て行ってほしい時
別居中でも、結婚してから購入したマンションは、夫婦の共有財産ですから、明け渡しを請求することは、原則としてできません。
しかし、過去には明け渡しや賃料相当額の損害金の支払いを認めた例もあります。
①妻の父親が購入金を負担した事例
妻の父親が購入金を負担した妻名義の家で、結婚生活を送っていたところ、夫の異常な猜疑心、暴言・暴力などから、妻子は家を出て別居した。その後、妻から夫に対して明け渡し及び賃料相当の損害金請求を求めた事案では、「妻の同居拒絶には、正当な理由があると認められる。夫は、本件建物の占有権限を持たない」として、妻からの明け渡しと賃料相当額である月5万円の損害金の支払いを夫に命じました(東京地判 昭和61年12月11日)。
②妻から退去請求を認めた事例
夫は、ホステスとの男女関係や、夜遊びが激しく、さらに妻に対して暴力を振るっていました。そこで、妻は夫に建物の明け渡し請求を行いました。
裁判所は「夫婦関係を破綻状態に導いた原因ないし責任は、もっぱら夫にある」として、「夫が本件建物に居住権を有すると主張することは、権利の濫用にあたり到底許されない」としました(東京地判 平成3年3月6日)。
まとめ
以上、別居中の夫婦が注意しなければならないポイントについて、ご紹介しました。
別居中の生活費や住まいについて心配がある場合には、早めに弁護士や支援団体に相談することをおすすめします。
早めに相談して、そのうえで必要な措置を行っておけば、相手の勝手なふるまいに泣くような事態を避けることができます。