裁判離婚を起こすためには、家庭裁判所での調停を経たうえで、民法で定められている5つの離婚原因のうちのいずれかに当てはまる必要があります。
5つの離婚原因とは、(1)配偶者の不法行為、(2)配偶者の悪意の遺棄、(3)配偶者の3年以上の生死不明、(4)強度の精神病で回復不能、(5)婚姻を継続しがたい重大な事由の5つです。
ただ、これらの離婚原因があって、それを裁判で証明できれば、かならず離婚が認められるというわけではありません。
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離婚裁判とは
離婚調停で協議がまとまらず不成立に終わり、それでもまだ離婚を強く望む場合には、家庭裁判所に離婚裁判の訴訟を起こすことになります。
離婚を訴えた側を原告として、訴えられた側を被告として、法廷で争うことになります。
離婚裁判には法定離婚原因が必要
裁判離婚で離婚が認められるためには、民法で定められた5つの離婚原因のうち、1つ以上認められないと離婚が認められません。
訴状に「民法770条一項に定められている離婚原因」に該当する原因が記載されなければ、その訴状が受理されることもありません。
裁判離婚で離婚が認められる法定離婚原因とは以下の5つです。
(1)配偶者の不貞行為……性的な関係を伴うもの (2)配偶者の悪意の遺棄……同居・協力・扶助義務違反 (3)配偶者の3年以上の生死不明……7年以上生死不明なら失踪宣告の申立ても可能 (4)強度の精神病で回復不能……ただし、民法改正要綱案では削除されている (5)婚姻を継続しがたい重大な事由……上記(1)~(4)に該当しない場合 |
離婚裁判の流れ
離婚裁判を起こすためには、管轄の家庭裁判所に訴状2通を作成し必要書類を添えて提出します。これが受理されると、裁判所から原告と被告に第1回期日を指定した呼出し状が送達されてきます。
被告は、訴状に対する答弁書を指定日までに家庭裁判所と原告に送付します。
家庭裁判所が指定した第1回目の期日がくると、いよいよ口頭弁論が始まります。最初の数回は訴状や答弁書、証拠品などをもとにそれぞれが主張します。
争点が整理されたところで、裁判官から和解勧告があります。あくまでも勧告なので、納得できなければ応じる必要はありません。
離婚裁判は、このような審理を繰り返したところで判決が下されて終わりになります。判決が確定すれば裁判離婚が成立しますので、あとは離婚届を提出します。
不服があれば、控訴して高等裁判所でまた裁判をやり直すことになります。
離婚の裁判例まとめ
前述したとおり、裁判離婚では民法で定められた5つの離婚原因にいずれかに該当することが必要です。
しかし、離婚原因がありそれが事実と認められれば、必ず離婚が成立するかといえば、そういうわけでもありません。
以下では、法定離婚原因別の過去の裁判例をご紹介します。
(1)配偶者の不貞行為
法律の意味する「不貞行為」とは、配偶者のある人が、自由な意思のもとで(自分の意思で)別の異性と性的な関係をもつことです。いわゆる不倫や浮気です。
酔った勢いで見知らぬ女性と一夜を共にした場合も浮気には違いありませんが、それが1度だけで相手が離婚を望まず反省している場合には、裁判官が離婚請求を棄却することもあります。
配偶者の不法行為の慰謝料の一般的な相場は、100万円~300万円がもっとも多いようですが、なかには500万円の慰謝料が認められた裁判例もあります。
慰謝料50万円が認められた裁判例 ・婚姻期間 4年 ・請求相手 妻⇒夫の不倫相手 500万円の慰謝料を請求。 ・夫婦は平成元年に結婚し、子供が1人いる。 ・夫は職場であるデパートの部下である女性と肉体関係を持つようになり、8か月にわたって不倫関係をつづけた。 ・夫婦間は離婚しておらず、その後関係が修復している。 (東京地裁平成4年12月10日) 上記事案では、夫が主導的に不倫関係を始めていて、主な責任が夫にあることや、夫婦関係がすでに修復されていることなどが考慮されて、500万円の慰謝料請求に対して50万円の慰謝料が認められたものと考えられます。 |
慰謝料500万円が認められた裁判例 ・婚姻期間 25年 ・請求相手 夫⇒妻の不倫相手 ・妻は、不倫相手と交際するためにサラ金で600万以上も借り入れて費消した。 ・妻は家事や育児を放棄するようになった ・妻は浮気相手のために600万円以上の借金をしたために、夫はその借金の返済をしていた。 ・その後、妻の不倫を理由として離婚が成立した。 (昭和60年1月30日 浦和地方裁判所) 上記事案では、妻が不倫相手のために作った600万円の借金を何の罪もない夫が肩代わりして返済していたことが大きく影響し、相場の慰謝料より高額の500万円という金額が認められたと考えられます。 |
(2)配偶者の悪意の遺棄
「悪意の遺棄」とは「どうなるかを知っているのに、義務を怠ること」をいいます。
夫婦は同居して互いに協力し扶助しなければなりません。「遺棄」とは、「同居して互いに協力し扶助」する義務を怠り、「悪意」とは、「遺棄すれば相手が困る、うまくやっていけなくなることを知っていて、そうなっても構わないと思っている不誠実な態度」のことをいいます。
具体的には生活費を渡さない、実家に戻ったまま帰ってこない…などが悪意の遺棄にあたります。したがって、別居の理由が出稼ぎや単身赴任、同居中の義母との不和などを理由とした別居等であれば、悪意の遺棄には該当しません。
悪意の遺棄の慰謝料の一般的な相場は、50万円~300万円が多くを占めていますが、支払う側の財力などさまざまな事情を考慮して決められるので、一概に○○万円が相場とは言えません。
慰謝料300万円が認められた裁判例 ・婚姻期間 25年 ・請求相手 妻⇒夫 ・夫が半身不随の身体障害者で日常生活もままならない妻を自宅に置き去りにして、異性との不貞行為を続けた ・十分な生活費を渡さなかった (浦和地方裁判所 昭和60年11月29日) 上記事案では、慰謝料・財産分与として、婚姻中に購入した土地・建物の全部の所有権移転を命じており、これらがその後値上がりしていることも考慮され、慰謝料が300万円となったものと考えられます。 |
(3)配偶者の3年以上の生死不明
ある日突然、夫や妻が家を出たきり、連絡が取れなくなることがあります。
残された家族は事故や事件に巻き込まれたのか、それとも家出なのか、複雑な思いで帰りを待つことになります。
しかし、このような状態がいつまでも続けば、そのうちに待つ気持ちが失せて人生をリセットしたくなるケースもあるでしょう。それなのにいつまでも離婚が認められないのは、残された側にとって、あまりに酷であると言わざるを得ません。
そこで、夫または妻が生きているのか死んでいるのかも分からない状態が3年以上続く場合には離婚を請求することができます。
3年以上の生死不明のときは、協議離婚や調停離婚などができないため、調停を経ずに裁判離婚を起こすことができますが、配偶者が行方不明であるという事情から、慰謝料を請求するのは困難なので諦めるを得ないケースがほとんどでしょう。
なお、配偶者の生死が長い間分からない場合には、失踪宣告をして夫婦関係を解消する方法もあります。失踪宣告すると失踪者は死亡したものとみなされ、離婚の場合のように財産分与や慰謝料の問題がないかわり遺産相続の問題が起こることになります。
(4)強度の精神病で回復不能
夫または妻が日常生活に支障をきたすほどの強度の精神疾患を長期にわたって患い、なおかつ治る見込みがない場合には、離婚裁判を起こすことができます。
しかし、病気は本人の責任ではないので、法律では精神病を理由とした離婚裁判を認めていますが、裁判所の態度は消極的です。仮に不治の精神病にかかっていたとしても、今後の療養や生活について十分な対策をとっていない場合には、認めない姿勢をとっています。また、裁判所が認める精神病は、総合失調症や躁うつ病が深刻なケースで、ノイローゼやアルコール依存症などは該当しないといわれています。
また、専門医の意見や診断書を提出する必要もあります。
慰謝料なしだが離婚が認められた裁判例 ・婚姻期間 20年 ・請求相手 夫⇒妻 ・結婚期間20年のうち後半10年は、妻は精神科病院に入院していた ・子どもが一人 (東京高裁 昭和57年8月31日) 上記事案では、精神病を理由とした離婚請求はないとしましたが、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとして離婚請求を認めました。慰謝料については互いになしとしましたが、夫から妻へ財産分与として1000万円の支払いを命じています。 |
(5)婚姻を継続しがたい重大な事由
婚姻を継続しがたい重大な事由のなかでもっとも多いのは「性格の不一致」です。
しかし、裁判離婚では性格の不一致だけでは離婚の決め手にはなりません。
性格の不一致が夫婦関係を絶望的に破たんさせ、とうてい修復できるものではないと証明されて初めて離婚理由として認められる可能性が出てきます。つまり、その原因に関して責任の有無よりは夫婦関係の破綻状態に重点をおき、広く離婚請求に応じられるように、あいまいな表現となっています。
なかでも、暴力や虐待も「婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たりますが、この場合には、婚姻を継続しがたい重大な事由に当たると認められる可能性は高いでしょう。
慰謝料なしだが離婚が認められた裁判例 ・婚姻期間 21年 ・請求相手 妻⇒夫 ・夫が定年退職した結婚17年目に別居を開始した ・子どもが二人いる ・夫はマイペースで生活費や、住居の購入などについてすべて自分の判断だけで事を運んできた ・夫婦で判断しようとしても耳を貸さず、対話もできなくなってきた (東京高裁 昭和57年11月25日) 上記事案では、離婚の主な理由は夫の性格が自己中心的で、妻に対する思いやりが欠けていた点にあることは明らかであるとして、妻からの離婚請求を認めました。 |
財産分与として400万円のほか借家権設定などが認められた裁判例 ・婚姻期間 10年 ・請求相手 妻⇒夫 ・夫婦でクリーニング屋をしていた ・夫婦の共有名義で土地・建物を購入した ・夫が賭け事が好きで、借金を重ね、夫名義の持ち分を640万円で売却してしまい、妻が義兄から700万円を借りてその持ち分を買い戻した。 (大阪家裁 昭和62年7月17日) 上記事案では協議離婚は成立したのですが、財産分与で折り合いがつかず審判となりました。裁判所は、夫の寄与分は10分の1にすぎず、10分の9は妻に帰属すべきであるとして、慰謝料と財産分与で、自宅の全部を妻に取得させました。 |
まとめ
以上、離婚裁判に必要な5つの離婚理由や、過去の裁判例についてご紹介しました。
協議や調停が不調に終わり、それでも離婚を望む場合には、離婚裁判に進むことになりますが、離婚原因があっても、それを裁判で証明するためには、さまざまな証拠が必要です。また、自身のケースが離婚裁判を起こすことができるかは、判断がつかないケースも多いでしょう。離婚裁判に進む場合には、弁護士とよく話し合い、裁判で有利になるようしっかり準備をしておきましょう。
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