家事も育児もしない妻と離婚する方法とは

「家事育児を全くせず、遊び歩いてばかりいる妻と離婚したい」…と思った時、妻と話し合いが成立すれば、離婚は成立します。では、妻との話し合いが進まない時にはどうすればよいのでしょうか。

家事育児しない妻との離婚

以前は、女性は結婚前に料理や掃除の仕方などについて学ぶ花嫁修業を行ってから結婚するケースが多くありました。
しかし、現在は学校卒業後はほとんどの女性が仕事をするようになり、結婚準備のために料理や要塞を習う花嫁修業を行う女性はほとんどおらず、結果的に結婚しても家事ができない女性が圧倒的に増えてきています。

また、学校教育では男女平等が徹底され、以前と異なり「家事育児は女性だけでなく男性も行うべきである」」という考えが広まっていて、実際、家事が得意な男性も増えてきています。

特に共働き夫婦の場合などで「夫が家事が得意であるから、家事全般を夫が行う」というケースも増えてきていて、それに夫婦が満足していれば問題はありません。

しかし、夫が「家事育児は、妻がやるべき」と考えていて、妻が専業主婦であるにもかかわらず家事ができない場合には、極めて深刻な問題に発展することがあります。

夫が妻の家事育児放棄を到底容認できず、また、妻に反省の色もなくその状態を改善しようとせず、これ以上結婚生活を続けることが耐えられないという場合には、妻に離婚を請求するしかないでしょう。

(1)話し合いが成立すれば離婚できる

妻に離婚したいという意思を告げ、妻がこれに応じれば離婚は成立します。これを「協議離婚」といいます。協議離婚に必要なのは、基本的に夫婦双方の離婚の合意と離婚届だけです。
協議離婚の手続きは、離婚届に双方が署名捺印して夫婦の本籍地か住所地の役所に提出します。役所で離婚届が受理されれば、離婚が成立します。

未成年の子どもがいる場合には、夫婦のどちらが親権者になるのか離婚届に記入する必要があります。親権者欄の記入がないと、離婚届は受理されません。

この他、離婚後のトラブルを防ぐためにも、面会交流や養育費、財産分与や慰謝料などについても、具体的に取り決めをしておき、取り決めた内容はかならず書面にするようにしましょう。書面がなく口約束だけだと、支払われるはずのお金が支払わないなどのトラブルになることがあるからです。

法律的な問題や妥当な金額などについては、弁護士に相談するとよいでしょう。

(2)調停・裁判の場合「家事育児しない」では難しい

妻に離婚を請求しても、妻が応じない時には、調停で話し合いをすることになります。ちなみに、協議離婚が難しいからといって、いきなり裁判を起こすことはできません。日本では、「調停前置主義」という規定があり、調停を申し立ててからでないと裁判には進めないからです。したがって離婚協議がつかなかったら、まずは離婚調停を申し立てることになります。

調停では、家事裁判官または家事調査官と、2名以上の家事調停委員による調停委員会が担当します。調停室で夫婦が同席し(希望すれば、別室も可能)、話し合いを進めていきます。調停が成立すると、調停調書が作成されるので、その調書を持参して10日以内に申立人が離婚届を提出します。

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調停が不成立となった場合には、離婚裁判へと進みます。裁判では、民法770条で定める離婚原因が必要となります。裁判では、裁判をするためのいわば「大義名分」が必要になるのです。これを法定離婚原因といいます。

民法第770条
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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離婚裁判では、家事放棄や整理整頓、育児ができないことが、民法770条1項5号の離婚原因に該当するかが問題となります。「婚姻を継続しがたい重大な事由」とは、一般に婚姻関係が深刻に破綻して、婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがないこと(婚姻関係の不可逆的な破綻)をいう」と解されています。

最近は裁判所でも「妻だけが家事をすべきである」という考え方に立っていないので、家事放棄や整理整頓ができない妻に対して比較的寛容な傾向が見られます。

したがって、家事育児をしないというだけでは、離婚裁判で離婚原因があると認定されることは難しいケースが多いでしょう。

(3)具体的な被害と証拠が重要

前述したとおり、専業主婦である妻がろくに家事育児をしないというだけでは、離婚調停や裁判で「婚姻関係が破綻している」と認定されるのは難しいケースがほとんどです。

また、家事育児が放棄されているといっても、その状態を夫や子どもが何年も受け入れている場合には、特に問題がないということになるでしょう。
さらに、そもそも家事能力というものは、個々によって大きな差があり、客観的にはなかなか判断できるものでもありません。

しかし、家事が得意でないというレベルを超えて、一種の病気ともいえるほど家事や整理整頓ができず、家の中がゴミだらけという状態の人もいます。その場合には、ゴミだらけの家の中の写真や、ホームクリーニング代金がかさんでいることなどの被害などをしっかりと主張できるよう準備しておくことが必要です。

(4)妻との別居状態が重視される

「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかは、裁判所の判断によりますが、その判断基準として①当事者の離婚意思、②別居の経緯、期間の客観的な事実」が非常に重視されます。

したがって、妻の家事育児放棄を理由として離婚する場合にも、妻と別居していることが重視されます。いくら妻の家事育児の放棄が耐えられないといっても、その状態の自宅に妻と同居している場合には、民法第770条5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」と認定されることは難しいといえるからです。

家事育児しない妻と離婚する5つのステップ

これまで、家事育児をしない妻と離婚する際のポイントについてご紹介してきましたが、それでは具体的に離婚に進むためには、どのようなステップで手続きを進めるべきでしょうか。

(1)証拠・具体的な被害を集める

まずは、妻が家事をしない、片付けができないことで、いかに被害を被っているかということを立証するための証拠を集めます。

少なくとも、数か月間の家の中の散らかった写真を撮り溜めて、食事の内容や家計簿の金額や内容(洗濯をしないためクリーニング代が高額になっている、食事をつくらないためガス代が極端に安いなど)の被害も具体的に立証できるよう準備をしておきましょう。

過去のケースでも、家の中の乱雑を極める写真を証拠として提出した例は多く、この写真は調停や裁判でかなりの効果があります。

家事育児をしないで、ママ友との高価なランチ会を頻繁に開いている場合には、それらの領収書も証拠となる可能性があります。

また、夫が妻に家事を申し入れたところ妻が逆切れし、暴言を吐いたなどの事情がある場合には、その様子を録音・録画しておきます。メールやSNSでのやりとりも消去せずに、きちんと残しておくようにしましょう。

(2)妻と別居する

前述したとおり、離婚裁判となった場合には、民法770条に規定されている5つの法定離婚事由のいずれかに該当する必要があります。
しかし、家事育児の放棄というだけでは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」と認定されることは難しいでしょう。したがって、裁判所が「婚姻関係が破綻している」と認定する際の判断基準である①当事者の離婚意思、②別居の経緯、期間の客観的な事実」が必要です。

別居期間がどれくらいあれば、「婚姻関係が破綻している」といえるかは個々のケースによりますが、結婚生活が短い場合には、別居期間が同居期間を超えれば「婚姻関係が破綻している」と認定されることが多いようです。

(3)共有財産を把握する

離婚する際には、婚姻期間中に築いた財産についてどのように分けるか(財産分与)が問題となります。慰謝料はどちらかが不法行為をしなければ支払う必要はありませんが、財産分与は、不法行為の有無にかかわらず必ず発生します。財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に築いた財産で、夫婦どちらの名義かは問題となりません。また、婚姻前の財産は対象外です。

「家事も育児もせず遊びまわっていた妻に、半分も財産をとられたくない」という気持ちは理解できますが、裁判となった場合には、そのような妻にも半分の権利が認められてしまう可能性が高いです。しかし、絶対に半分の財産分与をしなければならないというわけではないので、前述したような証拠を集め、自分の思うところを主張できるよう準備をしておきましょう。

また、ある程度の別居期間をおいたうえでの離婚の場合は、別居後は夫婦の協力関係がありませんので、別居時までの財産を財産分与の対象とするのが一般的です。
また、預貯金や生命保険の解約返戻金については、別居した日の額を基準とすることが多いです。離婚したい時には、なるべく早く別居をすることをおすすめします。

(4)父親が親権をとるための対策

子どもがいる場合には、父母のどちらかを親権者と決めなければ離婚することはできません。家事育児をしない妻に、愛する子どもの親権を渡したくないというのが親として当然の感情でしょう。
しかし子どもが幼い場合には、母親が親権者となるケースが圧倒的に多いのが実情です。そこで、父親が主に家事育児を行ってきたこと、離婚後も問題なく父親が家事育児をしていけること、母親が親権者となることが子どもの福祉に反するということを、しっかり主張することが必要です。

具体的には、保育園の送り迎えを行ってきたことや食事の準備をすべて行ってきたことを証明できるよう、準備しておきます。仲の良い友人や保育園の先生などに陳述書を書いてもらうのもよいでしょう。

▶ 父親が親権を勝ち取るためにアピールしたい5つのこと

なお、離婚を切り出すと妻が子どもを連れて一方的に別居をすることがあります。親権争いになった時には、「現在、子どもを育てている親」が圧倒的に有利になりますので、子どもが連れ去られないよう十分注意してください。

(5)話し合いができない時は調停へ

妻との話し合いが進まず協議離婚が難しい場合には、調停、裁判と進みます。
調停や裁判では、証拠の有無が非常に重要になりますので、可能な限りの証拠を準備しておきます。また、財産分与や親権で不利にならないよう、弁護士に早めに相談してアドバイスをもらっておくようにしましょう。

まとめ

以上、家事育児をしない妻と離婚したい時のポイントや段取りについてご紹介しました。「妻は、完璧に家事をすべきである」という認識や、調停委員や裁判官には受け入れられないことが多いので、そうではなく「夫も可能な限り家事を行ったが、妻の家事育児放棄の程度がひどく、到底婚姻関係を続けることができない」という主張を行うようにします。またその場合にも、家事育児の放棄の実態を証明するための証拠、婚姻関係が破綻していることが認定されるための別居の事実が、非常に重要になります。