別居と離婚の関係|離婚前に別居する時に注意すべきポイント

離婚したいと思い始めると、同じ家にいて同じ空気を吸うのも嫌という気持ちになるものです。また、相手が家を出てしまい、思いがけず別居状態となるケースもあるでしょう。離婚について夫婦の意見が分かれた時や話し合いが進まないと思う場合には、冷静に考えを整理するためにも、離婚前の別居はおすすめです。

別居することでもう一度自分自身の気持ちを見つめ直すことができますし、別居をすることで離婚後の生活をイメージすることができる場合もあるからです。

しかし生活費も払わず連絡先も隠して別居すると、その行為が不法行為にあたるとして、その行為について慰謝料を請求されることがありますので注意が必要です。
なお、子どもを置いて別居すると親権をとるのが難しくなってしまう場合があります。子どもを引き取って離婚をしたいという場合には、子どもを置いて別居するのではなく計画的に別居を始めるのがおすすめです。

この記事では、離婚前に別居したいと思った時に注意したいポイントについてご紹介します。

離婚前の別居

同居しながら離婚について冷静な話し合いができない場合や、相手の姿を見るのも嫌になり、しばらくの間冷却期間を置きたいという場合には、冷静に自分の考えを整理するためにも、別居という選択はおすすめです。
「世間体が悪い」「お金がかかる」といった理由で、別居をためらう気持ちは分かりますが、離れて暮らすことで「離婚という選択肢が本当に正しいのか」を冷静に判断できるケースは多々あります。

実際、別居をしてみると、離婚後の生活をイメージできて関係が修復できることもあります。実際、「離婚しようと思っていたが、短期間の別居をしたことで、夫婦関係が修復できた」というのはよく聞く話です。

別居を切り出すタイミングと方法

「別居する」という気持ちが固まったら、冷静に自分の気持ちを相手に伝えます。
勝手に家を出てしまうと警察に捜索願が出されたり、悪意の遺棄と主張されたりするので、注意が必要です。冷静かつシンプルに「離婚するかどうか冷静に考えたいので、別居したい」という気持ちだけ伝えましょう。まずは相手に「別居したい気持ちを理解してもらう」ことが大切です。決して一方的にならないように、配偶者の気持ちも聞いてあげるようにしましょう。
正当な理由もなくいきなり家を出たり、別居後に生活費を払わなくなったりすると、調停や裁判などで悪意の遺棄と評価され、慰謝料を請求される可能性があります。
ただし、別居についてきちんと話し合い、相手の一応の同意や了承があったのであれば、不利になることはほとんどありません。

メールや手紙などで後から伝える方法もありますが、後々調停や裁判となったときに記録として残るということを忘れずに慎重に文面を作成して下さい。
感情的に暴言などを記載すると、後々離婚することになった場合に、調停や裁判で相手からこちらに不利な証拠として提出される可能性があります。

ただし、DVなどで急いで別居する必要がある場合には、無断で家を出ても不利にはなりません。身の安全を確保するためにも早急に非難することを第一に考えてください。なお、DVが原因で別居する時には、弁護士などの第三者を介して伝えましょう。直接伝えると相手が逆上し、相手に暴力を受ける危険性があります。

子どもを引き取りたいなら一緒に別居する

離婚後に子どもを引き取りたい場合には、別居中も子どもを養育している方が有利です。
子どもを置いて別居を開始すると、相手に「育児放棄」を主張されて、協議や調停で親権をとるのに不利になる可能性があります。親権をとるためには、必ず子どもを連れて別居を開始するようにしましょう。

なお、別居の際に何らかの事情で夫の元に子どもを残してしまい、その後に夫に無断で子どもを連れ去ることは違法行為にあたり、後の親権者の指定において不利になってしまうこともあります。
したがって、子どもを残して別居を開始した場合には、できるだけ早く子の監護者の指定と子の引き渡しを家庭裁判所に申し立てる必要があります。すぐに弁護士に相談するようにしましょう。

▶ 家庭裁判所「子の監護者の指定調停」

また、肉親や兄弟姉妹にも協力してもらえるよう、お願いしてみましょう。肉親や兄弟姉妹には余計な心配はかけたくないものです。子どもを連れて離婚する場合には、周囲の協力が得られれば大変心強いものです。

子どもに伝える時は、子どもが理解できる年頃であれば色々ごまかしたりせずに真実を話す方が良いでしょう。この時は、配偶者のことを悪く言うのはやめましょう。別居で環境が変わる子供の心に配慮し、くれぐれも子どもの心を傷つけないようにしたいものです。

別居中も夫婦としての義務は残る

別居した妻が直面するのは経済面です。長年専業主婦をしているようなケースでは、経済的には夫に依存しているため生活費に困ることになります。
仕事を見つける必要はありますが、別居中でも生活費の分担は夫婦の義務です。したがって、収入のある側から婚姻費用として生活費を出してもらうことができます。

婚姻から生じる費用は、その資産、収入、その他の一切の事情を考慮して、夫婦が分担することになっています(民法760条)。これは、別居中の場合も原則として同じで、この規定に反して分担額を支払わないときには、家庭裁判所に対して、婚姻費用分担の審判・調停の申立てができることになっています。

別居に合意が出来ている場合には、別居する際に婚姻費用の支払いについて夫婦共同で調停を行い調停調書を作成しておくと安心です。もし相手が拒否をするような場合には、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。

▶ 家庭裁判所「婚姻費用の分担請求調停」

婚姻費用の請求が認められるのは、多くの場合請求した時点からでそれ以前に遡って請求することは難しくなります。
ですから、婚姻費用の分担についてはなるべく別居を開始する時に話し合っておくのがおすすめです。
なお、妻が愛人のもとに走り別居生活を強いられているというようなケースまで、夫に生活費を負担させるのは難しくなります。
夫婦生活を破たんさせた責任がある側が婚姻費用を請求することは、権利の濫用にあたると判断される場合が高いからです。

子どもの養育費は当然の義務

子どもを養育する義務は、どんな状況でも続きます。
どちらに別居の原因があるのかにかかわらず、離れて暮らす親が子供の養育費を支払わなければなりません。

子供の養育費(教育費を含む)については自分と同じ程度の生活レベルを保証する義務があります。婚姻費用分担請求の調停では、お互いの資産、収入、支出、子どもの有無や年齢などが考慮されます。

別居期間が長いと離婚に有利?

別居スタートから離婚に至るまでの期間で圧倒的に多いのは1年未満ですが、まれに別居してから離婚まで何年もかかるケースがあります。

このように別居開始からかなりの期間が経過していると、夫婦関係が破たんしていると判断される可能性が高くなります。近年では1年半の別居で離婚が認められたケースもあります。

ただし、単純に「別居期間が長ければ離婚するのに有利になる」と言えるものではなく、また、具体的にどれくらいかの別居期間があれば離婚できるという基準もありません。
調停や裁判では、総合的な要素で判断されます。ただし、別居期間が5年以上であれば、裁判所によって「夫婦関係が破たんしている」と判断される可能性がかなり高いといえるでしょう。

別居する前に準備しておくべきこと

別居する時には、感情的に家を飛び出すのではなく、冷静に準備をするようにしましょう。別居した状態でも婚姻費用の請求はできますが、別居したあと離婚をすることを想定してお金の準備や別居後の住居を探す必要もあります。また、子どもがいる場合は、子どもの将来を見据えて、別居後の子育てのための環境についても検討しなければなりません。

できるだけ同意を得ておく

モラハラやDVを受けていて「別居したい」と申し出ても、かえって暴力や暴言を受ける可能性が高くなりますし、相手の合意が不可能でしょう。
しかし、そのような特段の理由がない場合には、なるべく合意を得てから別居を開始するようにしましょう。相手に別居したいという意思も告げず、ろくに話し合いもしないままで突然別居を開始すると、後々調停や裁判で不利となる可能性があります。

別居を考え始めたらお金や仕事の確保、住まい探し

離婚が成立すれば財産分与や慰謝料を得ることができる場合がありますし、別居期間中は生活費として婚姻費用を請求することができますが、それだけで十分なお金を得られることは滅多にありません。また、手続きに時間がかかることもあります。
したがって、別居を考え始めたら、お金や仕事、住まいについて準備を進めましょう。相手の協力を得られない時には、役所や福祉事務所に相談するのもよいでしょう。
状況によっては、母子生活支援施設やひとり親家庭を優先した公営住宅を利用することができる場合もあります。

また、毎月の衣食住にかかるお金のほか、通信費や医療費、子どもの教育費などわかる範囲ですべて書き出して、仕事も早めに見つける必要があります。子どもが小さいのであれば、正社員として勤めるために保育園なども探す必要があります。

子どもがいる場合は、子どもの通学時期に合わせる

子どもを連れて別居する場合には子どもの学校の転校手続きや、保育園・幼稚園の転園を考える必要があります。子供の進学時期などに合わせて別居のタイミングを決定するというのもひとつの手です。

子どもがいる場合の離婚は、必ず親権を決める必要がありますが、親権者になりたいと考えるなら、絶対に子どもを手放さないことです。別居するときは必ず子どもを連れて出るようにしましょう。「まずは自分だけ別居して、後から子どもを迎えに行こう」と思っていても、1度子供と離れてしまうと、あとで引き取りたいと思っても拒否されるケースが多いので、子どものスケジュールを確認しながらできる限り計画的に別居を開始するようにしましょう。

別居する際に持ち出しておくとよいもの

別居後に勝手に資産を処分されることがないよう、結婚前から持っていたものや、自分のお金で購入したもの、個人的にもらったものはどは別居時に持ち出すようにしましょう。
結婚後に購入して共同でつかっていたものは、夫婦の共有財産になります。持ち出しても罪にはなりませんが、相手の心証を悪くして離婚に向けての話し合いが難しくなることがあります。相手と合意できた範囲、相手が困らない範囲で持ち出すのが賢明です。

別居後は出て行った方が簡単には家に戻ることができなくなり、証拠を取り出せなくなる可能性が高くなります。特に書類関係は、家を出る前に必ずコピー、写真を撮っておきます。もちろん、不貞やDVがあった場合はその証拠も忘れずに持ち出しましょう。

別居時に持ち出すとよいものリスト
・自分名義の通帳・実印・キャッシュカード
・印鑑
・パスポート、運転免許証
・健康保険証、年金証書(年金手帳)
・不貞・DVなどが原因で別居する場合にはその証拠
・株券、債券などの証券類(コピーでも可)
・子どもの持ち物
・現金
・知人や子供関係の連絡先
・貯金通帳、不動産権利書、生命保険証券などのコピー(後日財産を証明する資料のコピーとして)

離婚届の不受理申出を提出する

別居中に相手が離婚を迫ってきた場合には、勝手に相手が離婚届を提出しないよう、離婚届の不受理申出を提出しておきます。
役所で所定の用紙に記入して提出すれば、すぐに受理してもらうことができます。

別居中の住民票はどうする?

別居する際は、住民登録の原則として住民票は移動させなければなりません。しかし、一時的な別居である場合はいちいち住民票を移動させなくても特に問題はありません。
なお、、DVの被害者が別居する場合には、配偶者に別居先の住所を知られないために住民票の閲覧を制限することができます。この制度を利用するためには【1】DV被害者であり、生命または身体の危害を受けるおそれがあること【2】警察に相談した、被害届を出したなど、閲覧制限の必要性があること判断される必要があります。

別居中に浮気されたら

もともと夫婦関係が破綻していて、離婚に向けて別居を開始した場合であれば、その別居中に配偶者が浮気をしたとしても、相手やその浮気相手にも慰謝料請求をすることはできない可能性が高くなります。ただし、単身赴任などによる別居や関係を修復するための一時的な別居、話し合いもなく勝手に別居を開始してしまったというようなケースでは慰謝料を請求できる場合があります。

まとめ

以上、離婚前の別居をする時の注意点についてご紹介しました。
「子どもが小さいから」「別居してその後離婚しても経済的にやっていく自信がないから」と、なかなか別居の決心がつかない人もいます。

決して別居することをすすめるわけではありませんが、すでに夫婦の信頼関係にひびが入り婚姻生活が破たんしているのであれば、冷え切った夫婦関係のなかで子どもが成長する方が子どもにとって辛いケースもあります。

確かに経済的な負担は重くのしかかりますが、勇気を出して新しい生活に踏み出した方が自由に明るく生活できる可能性があります。

別居しても離婚成立までには解決しなければならないこと問題がたくさんあります。自分の手に負えないときは自分だけで頑張り過ぎないことも大切です。公的な支援や第三者や弁護士の知恵も借りながらよりよい別居、よりよい離婚を目指しましょう。

1件のコメント

ただいまコメントは受け付けていません。