離婚経験者はよく「離婚は、結婚の何倍も大変だった」と言います。
確かに離婚することになると、慰謝料や財産分与など多くの事柄について話し合わなければなりません。
さらに未成年の子どもがいる場合には、両親のどちらを親権者とするか決めなければ離婚することができませんし、離婚後の養育費についても話し合う必要があります。
しかし、離婚する際に検討すべき事項について十分に検討せずに、感情的に離婚してしまって、離婚後に後悔したり無用なトラブルに招いてしまったりすることがあります。
そこでこの記事では、離婚後のトラブルや後悔を防ぐために、離婚前に最低限考えたい10個のポイントについてご紹介します。
離婚するべきか悩んだ時に考えたい10個のこと
厚生労働省の調査データによると、令和2年は約19万3千組の夫婦が離婚したという結果が出ています。
平成 15 年以降は減少傾向が続いているものの、離婚に対する抵抗感は以前より減っている傾向が見られます。
▶ 厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計の概況」 |
離婚数が減少傾向にあるものの、離婚時のトラブルを避けるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
財産分与や養育費、慰謝料についてしっかりと合意し、書面に残すことが重要です。また、親権や面会交流についても明確に取り決めておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
この記事では、後悔しない離婚を実現するために最低限考えたい10個のポイントについてご紹介します。
(1)本当に離婚すべき?客観的に冷静に考えよう
離婚したいと思い始めると、相手の何もかもが嫌になって「とにかく1日でも早く離婚したい」という気持ちになってしまうものです。
つらい結婚生活を送っている時には、離婚を急ぎたい気持ちになってしまうことは、十分理解できます。しかし、マイナスの感情だけが空回りしてしている状態では、冷静な判断ができなくなってしまうこともあるので注意が必要です。
目の前の道はいくつにも分かれていて、離婚がベストの解決方法であるとは限りません。じっくり考えて行動することが大切です。
「離婚するべきか、しないべきか」という悩みは、なかなか人に話せるものではありませんが、できるだけ自分ひとりで悩みを抱え込まず、信頼できる友人や家族に相談して冷静に客観的に検討するようにしましょう。
もちろん、DVなどの被害に遭っているなら別ですが、そうでない場合には、離婚したいと思っても決して焦らないことです。さまざまな事項について冷静に考え、客観的に判断するよう努力してください。
(2)裁判で主張できる「離婚原因」はある?
夫婦が離婚について話し合い双方が合意すれば、離婚理由が何であれ、問題なく離婚することができます。
しかし、あなたが離婚したくても相手が離婚に応じてくれない可能性もあります。その時には、それなりに相手を納得させる必要があります。
「ケチな性格が気に入らない」「愛情がなくなった」など、一方的な理由だけで離婚を言い出しても、そのような理由で相手を説得するのは難しいでしょう。
とくに相手があなたに未練を持っているなら、なおさらです。相手は離婚を拒否するでしょうし、意固地になって話し合いがスムーズに進まず別れるまでに相当な期間がかかることもあります。
さらに、相手が離婚に応じないために最終手段である離婚裁判を起こすことになった場合には、法律が定める離婚原因が必要になります。
そして、この法律が定める離婚原因がない場合には、離婚も認められないこともあります。
民法第770条
1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
配偶者に不貞行為が あった時 |
浮気、不倫など配偶者以外と性的関係を持つこと |
配偶者から 悪意で遺棄された時 |
悪意をもって同居しなかったり、生活費を渡さなかったりすること |
配偶者の生死が 3年以上明らかでない時 |
失踪・家出などで音信不通となり、3年以上生死が不明な時 |
配偶者が強度な精神病にかかり、 回復の見込みがない時 |
回復の見込みがない重度の精神疾患を患い、夫婦の協力義務が果たせなくなった時 |
その他、婚姻を継続し難い 重大な事由がある時 |
暴力、冒険、宗教上の問題、親族間問題などが原因で夫婦関係が破たんしている時 |
上記の離婚原因(浮気や暴力、家出、ギャンブルなど)をつくった側(有責配偶者といいます)は、立場が不利になります。有責配偶者である場合には、自ら離婚をしたいと思っても認められないことが多いですし、慰謝料を請求されれば支払わなければなりません。
(3)夫婦関係を改善する努力をしたか
離婚について考え始めると、「離婚すれば、今の苦しみから解放される」という思いに捉われがちです。
しかし、離婚はあくまでも選択肢の1つであって、もし夫婦関係を改善できるのであれば、それが1番よいことともいえます。
「こんな欠点もあるけれど、こんな長所もある」と、相手のよいところを書き出してみましょう。「朝、出社前に必ずごみ捨てしてくれる」「毎日、手の込んだ食事を作ってくれる」「お風呂掃除をしてくれる」…などなど、日常的でつい当たり前になっている家事をひとつひとつ書き出して相手にきちんと感謝してみると、相手の良さを見直すことができます。
そして、感謝していることを相手にきちんと伝えることができれば、相手もあなたのよさを再評価してくれるかもしれません。
もちろんDVなどの被害に遭っている場合には、努力云々言っている前に、今すぐ避難すべきですが、それ以外が理由で離婚を考えている場合には、夫婦関係を改善する努力をすることをおすすめします。
そのうえで結果的に離婚することを選択しても、「夫婦関係を改善しようと、自分なりに十分努力した」という自負があれば、離婚後に後悔する気持ちも少ないはずです。
(4)離婚して後悔しないか
離婚すると、さまざまな問題が生じます。
結婚後ずっと専業主婦だった場合には、離婚すれば仕事を探す必要があります。子どもがいる場合には、どちらが子どもを引き取るかなどを決めなければなりません。
さらに、離婚するという選択が子どもの成長にどのような影響を及ぼすのか、しっかり考える必要があります。
あなたにとってどれだけ嫌な相手でも、子どもがあなたと同じように感じているかはわかりません。子どもはあなたと別人格なのですから、あなたがどれだけ相手と離婚したいと思っても、子どもは離れたくないと思っているかもしれません。子どもが、両親の離婚をどう考えるのか、しっかり確認すべきことのひとつです。
子どもの問題だけではありません。たとえば、親の介護をしている場合もかなり深刻な問題が生じます。介護をしながらできる仕事を探さなければならないからです。
これらの問題は、離婚後すぐにふりかかってくる問題です。気持ちのうえでも、生活のうえでも多くの困難な問題がふりかかってきます。
したがって、これらの多くの「離婚後の問題」に立ち向かう覚悟はあるか、もう一度自分自身に問いかけてみてください。
(5)離婚して本当に今より良くなるか
今の辛い状況は、離婚して本当によくなるのでしょうか。
本当に離婚することが、あなたが幸せになるための選択肢なのでしょうか。
浮気や暴力、借金などが理由であれば、離婚をする方が今より良くなる可能性は高いといえますが、そうでない限りは、離婚することを急ぐのはおすすめできません。
離婚届は、いつでも出せます。
ひとまず「離婚したい」という感情は横に置いて、感情以外の問題(子ども、お金、環境など)について十分検討してみましょう。
そして、これらの問題について「離婚した方が、今より良くなる」という結論が出た場合には、離婚することが、幸せへの選択肢と考えてもよいかもしれません。
自分の感情を押し殺すのは、気持ちのいいものではありませんが、離婚したいという気持ちを押し通すことが正しいとも限りません。残念ながら、世の中にはどうにもならないこともあるのです。頑なに離婚したいと考えず、「本当に離婚してもいいのか」という自問自答を何度も何度もしたうえで、結論を出すようにしてください。
(6)子どもにとって離婚はよい選択か
前述しましたが、子どもがいる場合には、子どもへの影響も十分考えてあげることが必要です。離婚は夫婦関係の解消ですが、親子関係まで解消するわけではないからです。
離婚すれば、子どもはどちらかの親に引き取られて、もう一方の親とは離れて暮らすことになります。親子関係が良好な場合には、子どもが「今まで一緒に暮らしてきた親と、これからは離れて暮らす」という環境をすぐに受け入れるのは難しいものです。それが子どもの心身に、大きな負担となることもあります。
「離婚は、子どもを巻き込むことである」ということを、親として最優先に考え、子どもの利益や福祉を最優先に考えたいものです。
(7)離婚後の経済的な見通しはついているか
結婚後も仕事を続けている人にとっては、あまり大きな問題はないかもしれませんが、結婚した時に退職して専業主婦になっている人や、まったく仕事をしたことがない人などは、離婚後の生活のために新たに仕事を探す必要があります。
慰謝料や財産分与、子どもがいる場合に相手からもらう養育費だけで生きていけるケースは、現実的には非常に少ないものだからです。
離婚後生活費に苦慮するケースも多く、「離婚して、苦労したことは何か」というアンケートでは、38%弱の人が「生活費」と回答しています。
生活費 | 37.7 |
役所の手続きなど | 27.6 |
子どもの養育費 | 21.9 |
住む家 | 21.7 |
子どもへの悪い影響 | 17.6 |
就職や昇進など、仕事について | 17.3 |
世間体 | 17.3 |
慰謝料の支払い | 12.7 |
裁判 | 10.4 |
老後の生活 | 9.2 |
老後の年金 | 6.8 |
その他 | 8.9 |
とくに苦労したことはない | 16.9 |
答えたくない | 2.3 |
いざとなったら生活保護を、と考えている人もいますが、生活保護を受給するのはそれほど簡単ではありませんので、できるだけ自分で解決したいところです。
「住み込みで働けるところを探す」「家賃の低い住宅を探す」など、住まいの問題は早々にクリアしたいところですし、自治体ごとの公的援助など利用できるものがないか、できる限り調べておきましょう。
以下の記事では、ひとり親家庭が利用できる制度・手当・支援などについてまとめていますので、あわせてご覧ください。
(8)別居期間を設けたか
離婚する前の冷却期間として、別居をしてみるのもおすすめです。
実家に帰るのもよいでしょうし、子どもの学校があるなどで実家に帰ることができないなら、マンスリーマンションなどを利用するのもひとつの手です。1週間でも家庭から離れてみると、よい気分転換になりますし、冷静に見えてくることも多いものです。
ただし別居する時に黙って家を出てしまうと、同居義務違反とみなされる可能性があり、後々調停や裁判となった場合に不利になってしまうこともあるので、別居したい理由を相手に告げてから別居をするようにしてください。
また、離婚して子どもの親権を取りたい場合には、相手の同意を得たうえで子どもを連れて別居をするようにしましょう。親権者について争った時には、別居期間中も子どもの養育をしていた側が有利になります。
さらに、後々裁判になった時には、別居期間がある方が裁判で夫婦関係の破綻を認められやすいという面もあります。
▶ 子供がいる離婚|戸籍・養育費・親権…知っておくべき10個の基礎知識
(9)弁護士などの意見は聞いたか
離婚の悩みはひとりで抱え込んでしまいがちですが、必ず第三者の意見を聞くことが重要です。しかし、相談相手は慎重に選ぶ必要があります。
たとえば、自分の親に相談すると、感情的になり「そんなひどい相手とは別れて戻ってきなさい」といったアドバイスを受けがちで、離婚への決断を急がされることもあります。
公平で冷静な判断ができる第三者、たとえば夫婦問題のカウンセラーや弁護士に相談することで、よりバランスの取れたアドバイスが得られ、慎重に離婚のプロセスを進めることができます。感情的な判断を避けるためにも、適切なサポートを受けることが大切です。
(10)離婚成立までの手順は理解しているか
離婚は、夫婦の合意があれば、成立します。離婚届に必要事項を記入して署名・捺印し、役所に提出するだけです。もちろん、子どもがいたり共有財産があったりしますから、それらについても互いに納得できるよう話をしておく必要があります。
離婚後の無用なトラブルを防ぎ、スムーズな離婚を実現するためにも、まずは離婚の種類と方法について知っておきましょう。
離婚には、大きく次の3つの種類があります。
協議離婚
夫婦が話し合い、合意して離婚する方法で、離婚した夫婦の90%程度が、この協議離婚の方法で離婚しています。慰謝料や財産分与などについて話し合い、互いが条件に合意すれば、役所に離婚届を提出します。未成年の子どもがいる場合には、離婚届の親権者の欄に記入がなければ受理されません。
慰謝料や財産分与などについての取り決めは、「強制執行認諾約款付き公正証書」を作成しておきましょう。離婚後に相手から約束通りお金が支払われない時に、裁判所によって相手の給料を差し押さえるなどの強制執行を行うことができます。
取り決めを文書にしただけだと強制執行することができず、調停などを申し立てる必要があります。
▶ 離婚協議書|書き方(サンプル付き)&確実に約束を守らせる方法
調停離婚
協議ができない場合や、合意できない場合に、家庭裁判所の調停によって離婚する方法です。
裁判離婚
協議離婚もできず、調停離婚も不成立となった場合に、裁判を起こして裁判の判決によって離婚を成立させる方法です。
また、離婚してからの手続きや届出もたくさんあります。
役所に何度も行く手間を省くためにも、段取りよく進めるようにしましょう。
それでもどうしても離婚したい時
ここまで読んで、離婚するべきか冷静に考え、それでも離婚したいと思った時には、離婚するための準備を進めましょう。
離婚をスムーズに有利に成立させるためには、事前の十分な準備が重要です。
まずは、相手に「離婚したい」という気持ちを伝える日を決めます。
離婚の決意をすると「1日も早く離婚したいと、相手に告げたい」と思ってしまうかもしれませんが、冷静かつ入念に準備をするためにも、離婚を決意した日から、半年~1年後に設定するとよいでしょう。
(1)自分のお金は自分の口座に移しておく
まずは、自分のお金を自分名義の口座に移しておきましょう。
相手の名義の口座を使っている人は、自分名義の口座をつくり、親から相続した財産や独身時代の貯金を移動しておきます。
結婚後に貯めた貯金は、夫婦の共有財産とみなされ財産分与の対象となりますが、親から相続した財産や独身時代の貯金は特有財産なので、離婚時に財産分与の対象となりません。
もし、親から相続した財産や独身時代の貯金を、相手の名義の口座にしている場合には、自分が通帳やカードを管理していたとしても、「自分だけの財産だ」と主張できなくなってしまうリスクがあるので、注意をしてください。
(2)財産分与リストを作っておく
財産分与とは、夫婦が婚姻中に取得した財産で、原則として夫婦で2分の1ずつ分与します。
預貯金、不動産や家具はもちろん、車など結婚後に購入した財産は徹底的にリストアップしておきましょう。
なお、財産分与のリストを作成するうえで、必ずチェックしておきたいものを以下にまとめておきますので、必ず確認してください。
財産分与リスト
①自宅など不動産…不動産登記簿謄本
②預貯金…通帳
③収入…給与明細
④有価証券…小切手、商品券など
⑤自動車…自動車登録証
⑥電化製品、家具…領収書
⑦貴金属…鑑定書
⑧年金、退職金…社会保険、会社規定
⑨生命保険…保険証券
(3)浮気、暴力などがあれば、証拠を集めておく
相手の浮気や暴力を理由として、離婚をする場合には、それらの証拠を集めておきましょう。浮気の証拠写真や動画、メール履歴、電話の着信履歴、カードの利用明細など、入手できるものはすべて入手しておきます。必要に応じて、調査会社などを利用することも検討します。
DVや子どもへの虐待など、相手から暴力を受けた時には、その傷跡の写真や医師の診断書も用意しておきましょう。
(4)別居する
先ほど、離婚する前の冷却期間として別居することをおすすめしましたが、別居期間が長いと裁判所に「夫婦関係が破綻している」と認められやすくなります。
ただし、一方的な別居は不利になってしまいますので、正当な理由を相手に告げてから、子どもを連れて別居します。また、別居中で離婚条件について話し合いをしていないのに勝手に相手に離婚届を提出されないよう、「離婚届の不受理申出」をしておきましょう。
離婚届の不受理申出については、以下の記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。
▶ 別居と離婚の関係|離婚前に別居する時に注意すべきポイント
(5)離婚理由がない場合は慰謝料も覚悟する
相手が浮気した、暴力をふるったという離婚理由がなく、「単に愛情が冷めた」という場合でも、相手が離婚に応じれば離婚することはできます。しかし、相手が離婚に応じない場合で、調停や裁判となった場合には、離婚が認められない可能性があります。
どうしても離婚したい場合には、「単に愛情が冷めた」という理由だけではなく、どうしてそうなってしまったのか、相手のどこが不満なのかをよく考えて、離婚準備を進めるようにしましょう。
場合によっては、別居をしてしばらく時間をおいて夫婦関係の破綻を訴え、慰謝料を自分が支払うくらいの覚悟も必要です。
(5)弁護士に相談しておく
弁護士というと「調停や裁判になったら、依頼すればいい」とイメージしている人もいますが、離婚を考え始めた段階で相談する方がおすすめです。
早めに相談すれば、調停や裁判となった時にも、十分な準備をしてから挑むことができます。
また、弁護士に相談すれば、どのような準備をすれば離婚を有利に進めることができるかアドバイスをもらうことができますし、必要な証拠や手続きなどを教えてもらうことができます。
といっても、弁護士なら誰でもよいというわけではありません。離婚案件に豊富な経験や実績があり、真摯な態度で相談に乗ってくれる人を選ぶようにしましょう。
今は、初回無料で相談に乗ってくれる弁護士もいます。何人かに相談して、「この人となら、信頼関係を築くことができる」と思える弁護士に依頼するとよいでしょう。
まとめ
以上、離婚するべきか悩んだ時に考えたい10個のことと、離婚したい時に知っておきたい離婚の基礎知識についてご紹介しました。
離婚は、結婚の何倍ものエネルギーが必要です。途中で離婚をすることを辞める人もたくさんいますし、早く離婚したいと焦って不利な条件で離婚してしまう人もいます。
この記事が、あなたのこれからの人生にとってプラスの選択をするための参考になることを、心より願っています。