協議離婚の場合には、お互いの話し合いがまとまればどんな理由でも離婚できます。
しかし、裁判では単に「性格の不一致」というだけでは離婚が認められるのは難しく、「客観的に夫婦関係が破綻しているか」などが重視されます。
この記事では、性格の不一致を理由とした離婚について、ご紹介します。
Contents
「性格の不一致」離婚について
協議離婚(当事者間の話し合い)の場合には、離婚原因は何であれ、話し合いがまとまれば離婚することができます。したがって、「性格の不一致」を原因とした離婚も、協議がまとまれば離婚することができます。
しかし当事者間で話し合いがまとまらず、調停を経て裁判となった場合には、「性格の不一致による離婚」が認められるか否かは、ケース・バイ・ケースです。
性格の不一致は「離婚原因」1位
「性格の不一致」を理由とする離婚は、離婚原因のなかでもっとも多く、夫からの申立て、妻からの申立てともに「離婚原因別ランキング」の不動の第1位となっています。
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まずは話し合いをする
協議離婚とは、夫婦が話し合いをして離婚する意思について互いに確認し、離婚条件などについて取り決めて離婚届を提出することで成立します。
「性格の不一致」を原因とする離婚の方法で最も多いのが、この協議離婚です。
協議離婚は、離婚の理由を問われることがないので、夫婦が合意をすれば、離婚できます。
したがって、まずは夫婦で離婚するかしないかを話し合い、離婚することについて夫婦でまず合意をして、お金や子どもに関する離婚条件を決めていきます。
しかし、離婚に合意ができなければ、離婚することはできませんし、離婚条件について折り合わないこともあります。このような時には、早めに弁護士などの専門家に相談するか、調停に進むことを検討しましょう。
なお、離婚を急ぐあまり離婚条件について十分な話し合いをせずに離婚してしまうこともありますが、後々トラブルになる場合があります。協議離婚する場合には、財産分与や養育費などについてしっかりと話し合い、取り決めた内容を「離婚協議書」にまとめて、公正証書にしておくことを強くおすすめします。
「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成しておけば、養育費などについて万が一支払いが滞った時に調停などを経ることなく、強制執行をすることができます。
調停不成立なら離婚訴訟となる
話し合いがまとまらずに離婚できない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停では、夫婦同席(別々でも可能)で、調停手続きの説明を受け、夫婦が交互に調停委員と話し合いを行います。調停の結果、離婚に合意したら調停調書が作成されて離婚が確定します(ただし離婚届の提出は、必要です)。
調停でも話し合いがまとまらない場合には、裁判をすることを検討することになります。
なお、調停を経ずに、いきなり家庭裁判所に裁判を起こすことはできません。
日本では「調停前置主義」という規定があるため、調停をも申し立ててからでないと裁判に進むことができないからです。
調停で「性格の不一致」を理由に離婚するには
夫婦の話し合いがまとまらない場合には、いきなり裁判を起こすことはできないので、まず家庭裁判所に調停を申立てます。
調停では、調停委員が間に入って、お互いの言い分を調整しながら離婚を目指します。その話し合いの中でお互いが合意に達すれば離婚が成立します。
調停で「どうしても相手と顔を合わせたくない」「自分が先に帰宅できるようにしてほしい」などの事情がある場合には、申立ての際に相談するか「進行に関する照会回答書」に記載すれば配慮してもらうことができます。
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調停で「陳述書」を添えると効果的
離婚調停となった場合には、申立書と一緒に自分の言い分を陳述書にして提出することもできます。
陳述書は、調停の際に必ず必要となるわけではありません。
しかし、調停の前に陳述書を作成することで、自分の気持ちを整理することができますし、口頭で説明委するよりも調停委員に事前に内容を理解してもらうことができます。
陳述書には、結婚までの経緯や離婚に至った経緯(性格の不一致が原因で、愛情が完全に喪失し、夫婦生活が絶望的に破綻していて修復できる可能性がないこと)、離婚協議の状況、経済状況、健康状態、自分の考え、希望などを記載します。
調停で法定離婚原因が明らかになることがある
自分では「性格の不一致」が離婚原因だと思い込んでいた場合でも、調停で第三者が介入して話し合うことで、実はモラハラや悪意の遺棄など、法律で認められる離婚理由があることが分かる場合があります。
特にモラハラの被害者は、自分が被害者であるという自覚がない場合が多く、調停で初めて「あなたは、モラハラの被害者である」と指摘される場合もあります。
裁判で「性格の不一致」を理由に離婚するには
調停が成立せず、それでも離婚したい場合には家庭裁判所に訴状を提出して裁判を起こします。
ただし、裁判で離婚を争うには民法で定める5つの離婚事由のいずれかに該当なければなりません。
①配偶者(夫もしくは妻)に、浮気や不倫などの不貞行為があった時
②生活費を渡さない、勝手に家を出て行ったなど、配偶者から悪意で遺棄された時
③配偶者の生死が、3年以上明らかでない時
④配偶者が、強度の精神病にかかり、回復の見込みがない時
⑤その他、婚姻を継続しがたい重大な理由がある時
「性格の不一致」は、上記離婚原因には該当しませんが、⑤の「婚姻を継続しがたい重大な理由」に該当するとして、離婚が認められることがあります。
「性格の不一致」+「夫婦関係破綻の事実」がポイント
単に「性格の不一致」というだけでは、どちらが悪いのか明確に判断することが難しくなります。
したがって、「性格が合わない」とか「愛情が冷めた」ということが理由で離婚したいといっても、裁判で離婚を認めてもらうことができない可能性もあります。
そこで、「性格の不一致」を原因として離婚したい場合には、「夫婦関係が破綻したという事実」と「夫婦関係が修復しがたい状態である」ということを一緒に主張する必要があります。
「婚姻関係が破綻していること」の証明
性格の不一致のために夫婦関係が破綻していることが証明できれば、⑤の「婚姻を継続しがたい重大な理由」に該当すると主張できる可能性があります。
たとえば、「長期間別居が続いている」「経済的な不信行為がある」「夫婦の不仲が子どもに悪影響を及ぼしている」などの事実がある場合には、「夫婦関係破綻の事実」があるとして、離婚が認められる可能性が高くなります。
したがって、裁判では、相手のどのような行為によって夫婦関係が破綻したかを証明するために、可能な限り証拠を集めておくことが、大変重要です。
「性格の不一致」の財産分与&慰謝料
暴言や暴力、不貞行為などがあった場合には、慰謝料を請求することはできますが、単に「性格の不一致」を理由とした離婚では、慰謝料を請求することはできません。
ただし、婚姻期間中に夫婦で築いた財産については、財産分与の対象となります。
財産分与はできる
財産分与とは、結婚期間中に夫婦が築いた財産をそれぞれに分け合うことです。
結婚後、夫婦の協力によって築いた財産であれば、夫、妻どちらの名義のものであれ、2人の共有財産とみなされます。
したがって、性格の不一致を理由として離婚する場合でも、財産分与を請求する権利があります。
なお、財産分与の請求の期限は、離婚成立後2年以内です。それを過ぎると請求権はなくなってしまうので、注意が必要です。離婚後に財産分与を請求するためには、家庭裁判所に財産分与調停を申し立てる必要があります。
財産分与調停の申立書記載事例については、以下を参考にしてください。
ただし、時間が経つと、相手に勝手に財産を処分されてしまったなどのトラブルが起こることもあるので、財産分与については離婚前に取り決めておくようにしましょう。
慰謝料の請求は難しい
財産分与は、夫婦共有の財産があれば必ず請求できますが、慰謝料は離婚する時に必ず請求できるというものではありません。
慰謝料が認められるのは、不貞などにより被った苦痛に対する離婚原因慰謝料、離婚で配偶者としての地位を失う苦痛に対する離婚自体慰謝料があります(しかし、裁判ではこの2つを区別せずに扱うケースが多いようです)。
したがって、単に「性格の不一致」とか「愛情がなくなった」という理由では、相手に責任があるとはいえないので、慰謝料の請求は認められません。
ただし、性格の不一致だけでなく、暴力や暴言、不貞行為などの行為がある場合には、その行為によって被った苦痛に対する慰謝料を請求できます。
話し合いで慰謝料について決着がつかない場合には、家庭裁判所に慰謝料請求の調停を申し立てる方法もあります。
慰謝料請求調停の申立書記載事例については、以下を参考にしてください。
なお、慰謝料にも財産分与と同様、時効があり、通常の離婚原因慰謝料は損害および加害者を知った時から3年を経過すると請求できなくなります。
※2020年4月1日からは、暴力など生命・身体を侵害する不法行為の慰謝料については損害および加害者を知った時から5年以内まで、請求することができます。
養育費の請求は当然できる
未成年の子どもがいる場合には、親には子どもを扶養する義務がありますので、離婚をして親権者や監護権者ではなくなったとしても、養育費は当然支払う必要があります。
養育費については、離婚後しばらくすると支払われなくなるなどのトラブルが多々あります。したがって、金額や支払い方法、支払期間(成人まで、大学卒業までなど)など、具体的に決めておきましょう。そして、決めた内容は強制執行認諾文言付き区政証書にしておけば、養育費の支払いがされなくなった時に、裁判をしないで強制執行することができます。
「性格の不一致」の離婚相談
これまでご紹介したように、「性格の不一致」を理由とする離婚は、離婚原因別第1位ですが、相手が離婚に応じない時には、「性格の不一致」だけでなく、婚姻関係が破綻していることを証明する必要があります。
ここでは、「性格の不一致」を原因とする離婚事例について、ご紹介します。
(1)7年間の別居している
「夫は非常に神経質な性格であるのに対して、妻は大まかな性格であったため、結婚当初から互いに不満を感じるようになりました。何度か話し合いをしましたが、そのたびに一層ストレスを感じ、互いの人格そのものを批判するようなケンカに発展するようになりました。
妻から離婚を申し入れましたが、夫が世間体を気にして離婚を拒否し、7年間別居したうえで、離婚調停で話し合うことになりました。調停でも話し合いがまとまらず裁判となりましたが、裁判で離婚が認められ、離婚が成立しました。」
このケースでは、7年間という長い別居期間があり、その間も妻の「離婚したい」という意思が強固であったことから、夫婦関係は完全に破綻し修復が困難だと裁判所に判断され、離婚が成立したものとみなされます。
長期の別居期間に加えて、「相手が生活費を渡さなかった」「別居中に不貞行為があった」などの事実があれば、さらに離婚が認められやすくなるでしょう。
(2)老け込んだ夫に幻滅した
「夫と妻は、15歳以上年の離れた夫婦でした。結婚当初は、夫に大人の魅力を感じていた妻ですが、そのうち、夫が老け込んでいるように見えてきて、魅力を感じなくなりました。
妻は夫に離婚をしたいと申し入れましたが、夫は応じません。そこで妻は、離婚調停を申し立てました。しかし、離婚調停では、『単に魅力を感じなくなったという理由だけでは、裁判になっても離婚が認められることは難しい』と説明をされました。しかし、妻は『魅力を感じず愛情もなくなったのに、離婚できないのは耐え難い』と感じています。」
裁判となった場合には、客観的な状況からみて、夫婦関係が破綻しているかどうかを判断します。したがって、単に調停委員の方が説明されたとおり、「魅力を感じなくなった」というだけでは、裁判で離婚が認められるのは厳しいでしょう。
ただし、双方の話し合いで合意できれば、理由がどのようなものであろうとも離婚をすることはできます。どうしても離婚したいと思うなら、まずは夫と何度も話し合いをして離婚に応じてくれるよう説得することが大切です。それでもどうしても夫が離婚に応じてくれないのであれば、再度調停を申し立てるか、弁護士を介入させ夫を説得してくれるよう依頼してみるのもよいでしょう。
まとめ
以上、性格の不一致を理由として離婚する方法や注意点について、ご紹介しました。
これまでご紹介したとおり、協議離婚ではどんな理由でも離婚することができるので、夫婦で話し合いがまとまれば、性格の不一致を理由として離婚することはできます。
ただし、調停でも話し合いがまとまらず裁判になった場合には、単に性格の不一致という理由では離婚は難しいので、併せて「婚姻関係が破綻している事実」を証明する必要があります。
また、自分では「性格の不一致」だと思い込んでいた場合でも、実はモラハラの被害者であるなど、法律で認められる離婚理由が存在している場合もあります。
どうしても離婚したい場合には、「性格の不一致では、離婚できない」「相手が離婚に応じてくれない」と安易に諦めず、弁護士に相談することをおすすめします。
そして、「裁判で主張できる離婚理由がないか」「離婚理由がある場合、裁判を有利に進めるためにはどのような証拠が必要か」などについてアドバイスをもらうとよいでしょう。