妻と離婚することになり、子どもの親権者について話し合いをしていたら、妻が離婚届の親権者の欄に「母」と書いて無断で提出してしまうことがあります。
このような場合でも、離婚届が受理されれば、妻に親権をとられてしまうのでしょうか。
妻が勝手に親権者を記入した離婚届
協議離婚は、離婚手続きに裁判所や第三者が関与しないで、夫婦間だけで手続きができるので、もっとも簡便な離婚の方法といえます。しかし、それだけに後日問題となることも少なくありません。
妻が勝手に離婚届を提出してしまったり、養育費や財産分与の話し合いをしないまま離婚をしてしまって、離婚後にトラブルに発展したりするケースは多々あります。
離婚届の署名欄に自分の署名だけをして、他の欄の記入を相手に任せてしまった場合、子の親権者欄に相手が勝手に自分を親権者と書いて、提出してしまうことがあります。
妻が勝手に子の親権者を、母と書いて提出した離婚届は、当然無効です。
したがって、このようなことがないよう、離婚届の記載はすべての必要事項を記入して確認した後に、署名捺印をすべきです。
また、離婚届が受理されてしまうと、形式的には離婚が成立し親権者が母となってしまうので、調停や訴訟を提起しなければなりません。
(1)そもそも離婚する意思がない場合
協議離婚の場合には、離婚届の受理時に離婚が成立します。そして、離婚するには離婚届の受理時に離婚する意思がなければなりません。
離婚したくないなら早めに離婚届の不受理申出を!
したがって、離婚届に署名捺印をした後、「やはり離婚をしたくない」と思う時には、相手に勝手に離婚届を提出されないように、離婚届の不受理申出をしておくことをおすすめします。離婚届はいったん受理されると、無効にするためには面倒な手続きが必要だからです。
離婚届の不受理申出とは、勝手に相手が離婚届を提出しないよう、役所に提出しておく書面です。「不受理申出書」に申し出る本人が記入して署名捺印し、夫婦の本籍地の市区町村役場に提出します。有効期限は無期限です。
役所で所定の用紙に記入して提出すれば、すぐに受理してもらうことができます。
もし離婚届を提出されてしまったら、協議離婚無効確認の調停
もし、すでに離婚届を提出されてしまっている場合には、協議離婚無効確認の調停を申し立てます。
協議離婚無効確認の調停申立ての際には、下記書類が必要です。
・ 申立書1通
・ 申立書の写し
・ 申立人と相手方の戸籍謄本
・ 離婚届の記載事項証明書
・ 手数料1200円
・ 連絡用の郵便切手代
また、以下の記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。
過去の判例でも、離婚届に署名捺印したものの、その後思いなおして、夫が知人の市職員に「妻から離婚届が提出されたら、ストップしてくれるように」と依頼し、妻が夫の離婚届に署名した後から6か月後に離婚届を提出した事例で、離婚を無効としたものがあります(大阪高判 平成6年3月31日)。
(2)離婚はするが「母が親権者」に納得できない時
勝手に離婚届を提出されたケースで、「離婚する意思はあるものの、親権は渡したくない」という場合には、その旨の戸籍記載について、「子の親権者指定協議の無効確認の調停」を提起することになります。
そして、調停が成立しない場合には、「親権者指定協議無効確認の訴訟」を提起することになります。
過去の判例でも、夫が自分を2人の子どもの親権者と記載した離婚届について、妻が「親権者を母とする」旨の記載に変更して離婚届を提出した事案について、親権者の指定協議の無効確認を認めています(東京高判 平成20年2月27日)。
(3)親権者指定協議無効後の手続き
離婚は有効で、親権者指定協議が無効となった場合、子の親権者について、どのような手続きが必要なのでしょうか。
このように、子の親権者指定協議が無効となった場合には、戸籍法116条によって、勝手に親権者の欄に記載された離婚届は、記載が抹消します。そして、離婚は成立するものの、子は父母共同親権に服することと考えられます。
ただし、現行の法律では、離婚後は共同親権が認められませんから、子の親権者については改めて父母で協議するか、父母のいずれかが子の親権指定の審判申立をすることになります。
まとめ
以上、勝手に親権者の欄に記載した離婚届を提出されてしまった場合には、速やかに離婚無効または親権者指定協議無効の調停申し立てをすべきです。
なお、「父親が親権者になることを前提として離婚する」つもりであった場合には、離婚無効を主張する方が有利に進む可能性が高くなります。
詳細の進め方については、離婚調停や離婚訴訟について豊富な経験をもつ弁護士に相談することをおすすめします。