離婚後に養育費が支払われなくなった場合は、まず、離婚協議書、公正証書、調停調書、審判書などを確認し、どのような方法で養育費を取り決めたのかを整理します。
相手と直接連絡できる状況であれば、メールやメッセージなど、記録が残る方法で支払いを求めます。それでも支払われない場合は、配達証明付きの内容証明郵便を送る方法があります。
ただし、内容証明郵便には、それだけで給与や預金を差し押さえる効力はありません。養育費の取り決め方によっては、家庭裁判所の履行勧告や、地方裁判所への差押えの申立てを早めに検討する必要があります。
この記事では、養育費を請求する際の内容証明の書き方と、内容証明を送っても支払われない場合の対応について解説します。
Contents
養育費が支払われないとき
こども家庭庁が2026年に公表した資料では、令和3年度全国ひとり親世帯等調査において、養育費の取り決めをしている母子世帯は46.7%、父子世帯は28.3%でした。
一方、取り決めの有無にかかわらず、調査時点で養育費を受け取っていたのは、母子世帯で28.1%、父子世帯で8.7%です。養育費を取り決めた世帯に限っても、現在受け取っている割合は、母子世帯57.7%、父子世帯25.9%にとどまっています。
| 養育費の状況 | 母子世帯 | 父子世帯 |
|---|---|---|
| 取り決めをしている | 46.7% | 28.3% |
| 現在も受給している | 28.1% | 8.7% |
| 取り決めた世帯のうち現在も受給している | 57.7% | 25.9% |
参考:政府統計の総合窓口e-Stat/全国ひとり親世帯等調査
取り決めの方法によって対応が異なる
養育費が支払われない場合の対応は、取り決めの有無や文書の種類によって異なります。
| 養育費の状況 | 主な対応 |
|---|---|
| 取り決めをしていない | 話し合いまたは養育費請求調停を申し立てる |
| 口頭で取り決めた | 合意内容を確認し、書面化または調停を検討する |
| 離婚協議書などの文書がある | 催告後、先取特権に基づく差押えや調停を検討する |
| 強制執行認諾文言付き公正証書がある | 地方裁判所へ強制執行を申し立てる |
| 調停調書・審判書・判決書がある | 履行勧告や強制執行を利用する |
まずは記録が残る方法で催促する
相手と連絡できる場合は、電話だけでなく、メール、手紙、メッセージなどの記録が残る方法で支払いを求めます。
催促する際は、感情的な非難を並べるのではなく、次の事項を明確に伝えましょう。
- 未払いになっている期間
- 未払額の合計
- 支払期限
- 振込先
- 今後の支払い予定を回答してほしいこと
DVやストーカー行為のおそれがある場合は、直接連絡せず、弁護士や家庭裁判所を通じて請求する方法を検討してください。
内容証明郵便を送る
通常の催促に応じない場合は、内容証明郵便によって請求する方法があります。
内容証明とは、一般書留郵便として差し出した文書について、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に差し出したのか」を日本郵便が証明する制度です。
ただし、内容証明によって証明されるのは、文書の内容と差出しの事実です。記載された内容が真実であることや、相手に支払義務があることまで日本郵便が証明するわけではありません。
相手に届いた日も明確にしたい場合は、配達証明を付けて送るのが一般的です。内容証明は一般書留とする必要があり、簡易書留では利用できません。
内容証明を送ることは必須ではない
養育費の差押えや調停を申し立てる前に、必ず内容証明を送らなければならないという決まりはありません。
強制執行認諾文言付き公正証書、調停調書、審判書などがあり、すでに支払期限を過ぎている場合は、内容証明を送らずに差押えを申し立てることもできます。
相手が財産を移す可能性がある場合や、時効の完成が迫っている場合は、内容証明の返答を長期間待つよりも、裁判所の手続を優先した方がよいことがあります。
2026年4月から養育費の回収制度が変わった
2026年4月1日から、養育費の支払確保に関する新しい制度が始まりました。
離婚協議書などに基づいて差押えができる場合がある
従来は、夫婦が離婚協議書で養育費を取り決めていても、強制執行認諾文言付き公正証書などがなければ、原則として、先に調停や訴訟などを行う必要がありました。
2026年4月以降は、養育費の金額や支払方法を明確にした父母間の文書があれば、債務名義がなくても、養育費に認められた先取特権に基づいて差押えを申し立てられる場合があります。
先取特権が認められる上限は、子ども1人につき月額8万円です。改正法の施行前に養育費を取り決めていた場合でも、2026年4月1日以降に発生した養育費には先取特権が認められます。
ただし、離婚協議書を持っているだけで、自動的に給与や預金が差し押さえられるわけではありません。養育費の合意内容を示す文書などを提出し、地方裁判所へ担保権実行の申立てを行う必要があります。
月額8万円を超える部分も含めて強制執行したい場合は、強制執行認諾文言付き公正証書や調停調書などの債務名義が必要になることがあります。
取り決めがない場合は法定養育費を請求できる
2026年4月1日以降に、養育費を取り決めずに離婚した場合は、離婚時から引き続き未成年の子どもを主として監護している親が、もう一方の親へ、子ども1人につき月額2万円の法定養育費を請求できます。
法定養育費は、父母が正式な養育費を取り決めるまで、または子どもが18歳になるまでの暫定的な制度です。父母の収入や子どもの生活費を反映した金額ではないため、早めに話し合いや養育費請求調停によって適切な金額を決める必要があります。
なお、2026年3月31日以前に離婚した場合には、法定養育費は発生しません。
養育費請求の内容証明の書き方
内容証明に法律上決められたタイトルはありません。
「催告書」のほか、「養育費支払請求書」「未払養育費請求書」など、文書の内容が分かるタイトルを付けます。
記載しておきたい内容
養育費を請求する内容証明には、次の事項を記載します。
- 差出人と受取人の住所・氏名
- 養育費を取り決めた日
- 離婚協議書、公正証書、調停調書などの根拠
- 毎月の養育費の金額
- 未払いとなった年月
- 未払養育費の合計額
- 支払期限
- 振込先
- 支払いがない場合に法的手続を検討すること
- 作成日
「○日以内に支払ってください」とだけ書くより、「2026年8月10日まで」のように、具体的な年月日を記載した方が明確です。
養育費請求の内容証明テンプレート
催告書
私は、あなたとの間で、令和○年○月○日に作成した離婚協議書により、あなたが子○○の養育費として、令和○年○月から毎月末日限り、月額○万円を支払うことを取り決めました。
しかし、令和○年○月分から令和○年○月分までの養育費が支払われておらず、令和○年○月○日現在の未払額は、合計金○○万円です。
つきましては、上記未払養育費○○万円を、令和○年○月○日までに、次の口座へ振り込んでお支払いください。振込手数料は、あなたの負担とします。
○○銀行 ○○支店
普通預金 口座番号○○○○○○○
口座名義 ○○○○
上記期限までに支払いがなく、支払方法についての連絡もない場合は、養育費請求調停、先取特権に基づく差押え、強制執行その他の法的手続を行うことを検討します。
なお、本書面は、養育費請求権を放棄する趣旨ではなく、未払養育費の全額および今後発生する養育費の支払いを求めるものです。
令和○年○月○日
差出人
住所 ○○
氏名 ○○
受取人
住所 ○○
氏名 ○○ 殿
※実際には、取り決めの内容、未払い期間、公正証書や調停調書の有無などに応じて修正してください。
内容証明の作成ルール
郵便局の窓口から内容証明を送る場合、内容文書1通と、その謄本2通を準備するのが一般的です。文書以外の物を同封できないため、返信用封筒、領収書、離婚協議書のコピーなどを一緒に入れることはできません。
謄本については、次の字数・行数の制限があります。
| 書き方 | 字数・行数 |
|---|---|
| 縦書き | 1行20字以内・1枚26行以内 |
| 横書き | 1行20字以内・1枚26行以内 |
| 1行13字以内・1枚40行以内 | |
| 1行26字以内・1枚20行以内 |
この制限は謄本に関するもので、相手へ送る内容文書自体には字数・行数の制限はありません。
パソコンから「e内容証明」を利用する方法もあります。e内容証明では、Wordファイルを使って24時間差出しの手続ができ、正本が相手へ、謄本が差出人へ一般書留で配達されます。
内容証明と養育費の消滅時効
未払養育費については、毎月の支払期日ごとに、個別に消滅時効が進行します。
一般的な債権は、権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しない場合に、時効によって消滅する可能性があります。
確定判決や、確定判決と同じ効力を持つ調停調書などによって、すでに支払期限が来ている養育費が確定した場合は、10年の時効期間が適用されることがあります。ただし、調停成立時などに、まだ支払期日が到来していない将来分には、この10年の特則は適用されません。
したがって、「養育費の時効はすべて5年」「調停で決めた養育費はすべて10年」と一律にはいえません。取り決めの方法、取り決めた時期、各支払期日などによって異なります。
内容証明を送っただけでは時効はリセットされない
内容証明による催告を行うと、その時から6か月間、時効の完成が猶予されることがあります。
ただし、内容証明を送った時点から、新たに5年や10年の時効期間が始まるわけではありません。また、6か月の猶予期間中に再び催告しても、さらに6か月延長されるわけではありません。
時効の完成が迫っている場合は、内容証明を送るだけで終わらせず、6か月以内に調停、訴訟、差押えなどの手続を進める必要があります。
内容証明を送っても支払われないとき
内容証明の支払期限を過ぎても入金や連絡がない場合は、取り決めの内容に応じて法的手続を進めます。
家庭裁判所の履行勧告を利用する
養育費が調停、審判、人事訴訟などの家庭裁判所の手続で決められている場合は、その家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができます。
履行勧告では、家庭裁判所が相手の履行状況を調査し、養育費を支払うよう促します。申出は電話や書面などで行うことができ、費用はかかりません。
ただし、履行勧告自体に、給与や預金を差し押さえる強制力はありません。また、公正証書や夫婦間の離婚協議書については、履行勧告を申し出ることはできません。
履行命令を申し立てる
家庭裁判所で定められた金銭の支払義務については、一定の場合に履行命令を申し立てる方法もあります。
正当な理由なく履行命令に従わなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。ただし、過料が科されても、そのお金が養育費として受取人へ支払われるわけではありません。養育費を実際に回収するには、別に強制執行を検討する必要があります。
給与や預金を差し押さえる
強制執行認諾文言付き公正証書、調停調書、審判書、判決書などがある場合は、相手の住所地を管轄する地方裁判所へ債権差押命令を申し立てます。
養育費を理由に給与を差し押さえる場合は、税金などを差し引いた手取額の2分の1まで差し押さえられます。手取額が月額66万円を超える場合は、原則として33万円を除いた部分が差押えの対象になります。
未払分だけでなく、今後支払期日が来る将来分の養育費についても、給与や家賃収入などの継続的な収入であれば、差押えを申し立てられます。
一方、銀行預金を差し押さえられるのは、原則として、すでに支払期限を過ぎている未払分だけです。将来分の養育費を預金口座から継続的に差し押さえることはできません。
相手の勤務先や財産が分からない場合
2026年4月から、養育費について、財産開示や勤務先情報の取得と給与差押えを一つの申立てで進める「ワンストップ執行手続」が始まりました。
地方裁判所へ申立てをすると、財産開示や第三者からの情報取得によって判明した給与債権について、同時に差押命令を申し立てたものとして扱われる場合があります。
ただし、勤務先や銀行口座が判明しても、残高がない、退職しているなどの事情により、必ず回収できるわけではありません。
養育費を取り決めていない場合
養育費を取り決めていない場合は、まず父母で話し合います。
話し合いができない場合や、金額について合意できない場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所などへ養育費請求調停を申し立てます。
調停では、父母双方の収入、子どもの年齢、必要な生活費や教育費などを確認し、裁判所が公表している養育費算定表を参考に話し合います。調停が成立しない場合は審判へ移行し、裁判官が金額などを判断します。
2026年4月1日以降の離婚であれば、正式な取り決めができるまで、法定養育費として子ども1人につき月額2万円を請求できます。
ただし、法定養育費があるからといって、養育費請求調停を長期間申し立てなくてもよいわけではありません。実際の収入や生活状況に応じた金額を、早めに決めることが大切です。
相手の住所が分からない場合
養育費を請求するために必要な場合は、正当な請求理由を示したうえで、相手の住民票の写しや戸籍の附票を取得できることがあります。法務省も、養育費請求に必要な場合は、これらの書類によって住民票上の住所を確認できると案内しています。
ただし、元配偶者であれば無条件で取得できるわけではありません。養育費の取り決めを示す書類、申立てを予定していることが分かる資料などを求められる場合があります。
また、相手がDVやストーカー被害者として住民票の閲覧制限などの支援措置を受けている場合は、住所を確認できないことがあります。
まとめ
養育費が支払われない場合は、まず、離婚協議書、公正証書、調停調書などを確認し、未払期間と未払額を整理します。
内容証明郵便は、養育費を請求した事実や請求内容を証拠として残す方法ですが、それだけで相手の給与や預金を差し押さえることはできません。
一方、2026年4月からは、養育費の取り決めを記載した父母間の文書に基づき、子ども1人につき月額8万円を上限として、先取特権による差押えを申し立てられる制度が始まりました。また、取り決めのないまま同年4月1日以降に離婚した場合は、子ども1人につき月額2万円の法定養育費を請求できます。
強制執行認諾文言付き公正証書、調停調書、審判書などがある場合は、履行勧告や給与・預金の差押えを検討します。相手の勤務先が分からない場合は、ワンストップ執行手続を利用できる可能性もあります。
養育費の請求には消滅時効が問題となることがあります。内容証明による催告は、時効の完成を一時的に猶予するにすぎないため、支払いがない状態を長期間放置しないことが大切です。
養育費については、現在の「養育費・親子交流相談支援センター」でも電話やメールによる相談を受け付けています。
電話番号は03-3980-4108、固定電話から利用できるフリーダイヤルは0120-965-419です。