面会交流させてくれない子どもの養育費を支払うべきか

「離婚して離れて住む子供の養育費を妻に払っているのに、妻は子どもに全く会わせてくれない」…このように、離婚後に子どもとの面会交流を拒否されて悩む男性は多いものです。では、子どもとの面会交流を拒否されていることの対抗手段として養育費の支払いをストップすることはできるのでしょうか。

面会交流を拒否されている子どもの養育費

以前は、「子どもの養育費をきちんと支払っても子どもとの交流は一切ない」というケースは非常に多くありました。
以前に比べれば最近は、子どもとの面会交流の重要性が再認識されたことから、以前ほどこのようなケースは少なくなってはきています。

しかし、父親の浮気やDVなどが原因で離婚した場合には、離婚時に子どもとの面会交流の合意をすることが難しいので、結局、離婚後もそのまま時間が過ぎてしまうケースもあります。

(1)面会交流されても養育費は支払うべき

まったく会えない子どもの養育費を支払うことに、抵抗感を持つ父親もいます。
しかし、養育費支払い義務と面会交流は全く別の問題であり、養育費は親の当然の義務です。したがって、「面会させてくれないなら、養育費は支払わない」として養育費の支払いをストップさせることは認められません。

養育費の支払いをストップしてしまうことは、子の福祉の観点から望ましくありませんので、後々調停や裁判になれば、父親の給与に養育費支払いの強制執行される可能性もあります。そうなれば父親の生活にも支障が生じることになるからです。

当事者間で離婚時に作成した私的な合意書の書面上、「養育費を支払わなければ面会交流をさせない」旨の条項が記載されていても、養育費や面会交流の趣旨・意義に照らせば調停や裁判で、それらの条項は無効と解釈されます。

したがって、元妻が子どもと全く会わせてくれない、もしくは取り決め通りに面会交流させてくれないことを理由として、子どもの養育費の支払いをストップさせることはできません。

(2)面会交流調停を申し立てるべき

子どもとの面会交流が実施されないことに納得ができない場合には、対抗手段として養育費の支払いをストップするのではなく、面会交流の調停を申し立てましょう。
調停を申し立てた場合には、仮に当事者間で合意が成立しなくても審判に移行し、最終的には裁判所が判断します。

子どもが連れ去られる恐れや暴力を受ける恐れなどがない場合には、裁判所としては基本的に面会交流が子どものためになると考える傾向があるので、面会交流が認められる可能性は大きいといえます。

面会交流の調停では、子どもとの面会交流について話し合い、面会交流の回数や日時、場所などといった具体的な内容や方法について、調停委員など第三者を交えて話し合うことになります。

▶ 家庭裁判所「面会交流調停」

面会交流調停の申立書の記載例については、以下を参考にしてください。

なお、以下の記事では、面会交流の調停の申立書や調停の主な流れ、調停を有利に進めるためのポイントなどについて、詳しくご紹介しています。併せてご覧ください。

▶ 面会交流の調停とは|申し立て方法・主な流れ・有利に進める方法(過去事例付き)

(3)面会交流の調停での約束が守られない時には

面会交流の調停で、面会交流を実施すると取り決められたにも関わらず、その約束が守られなかったらどうすればいいのでしょうか。

①「履行勧告」「間接強制」などを申し立てる
1つ目の手段としては「間接強制」などの強制執行を申し立てることです。これは「もし約束通り子どもに会わせなかった時には、制裁金を科す」と、裁判所から圧力をかけてもらうことをいいます。

以下の記事では、面会交流の調停の申立書や調停の主な流れ、調停を有利に進めるためのポイントなどについて、詳しくご紹介しています。併せてご覧ください。

▶ 面会交流を拒否されたら|履行勧告・間接強制できるのはどんな時?

②親権者・監護権者の変更を求める調停を申し立てる
2つ目は、最終手段として親権者・監護権者の変更を求める調停を申し立てる方法です。
これは、「調停で、面会交流を実施すべきという取り決めがされたにも関わらず、面会交流をする気がない母親は、親権者(監護権者)としての責任を果たしていない」として、「自分(父親)が親権(監護権)を持つべきだ」として、変更を求めるわけです。

離婚後の面会交流トラブルを防ぐためには

これまでご紹介してきたような、離婚後の面会交流トラブルを防ぐためには、離婚時にしっかりと面会交流について話し合うことが大切です。

面会交流について取り決めなくても離婚することはできますが、離婚後に話し合うのは難しいケースがありますから、離婚前に決めておく方がよいでしょう。

(1)面会交流の方法を詳細に取り決める

面会交流について話し合う時には、会う頻度や面会の時間、場所などを具体的に決めて離婚協議書などの文書にしておきましょう。

取り決め方法に決まりがあるわけではないので、無理のない範囲で調整するようにします。一般的には、月1回~2回、時間を決めて子どもの行きたいところを選んだり、食事をしたりするケースが多いようです。

(2)面会交流に対する行動を記録する

離婚前に別居をしていて、子どもとの面会交流を求めている場合には、それに対する相手の行動を記録しておきましょう。

後々、調停となった場合に「何度も面会させてくれと要求しているのに、会わせてもらえない」といった主張では説得力がありませんので、「○月○日、どのように要求し、それについて母親側はどのような対応をしたのか」という事実を詳細に記録するようにしましょう。

そうすれば、母親が親権者・監護権者としてふさわしくないことを証明する資料として説得力を持ちます。

メールでやり取りしている場合には、そのメールも証拠として残しておくようにしましょう。

(3)調停を利用する

離婚時に面会交流の話し合いがスムーズに進まない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てて話し合いを進めることになります。

調停では、調査官が子どもの生活状況や精神状態、意思などを調査して、子どもにとって適正な取り決めができるように話し合います。

面会交流調停は、離婚が成立する以前の別居期間中に申し立てることが重要です。そこまでしないと、裁判所や妻側に「本当は、それほど子どもに会いたいわけではないのに、揺さぶりをかけるために子どもを利用している」などと思われかねないからです。

さらに、別居中に面会交流調停を申し立てることで、「本気で子どもに会いたい、子どもと暮らしたい、そのためには多少の苦労も手間もいとわない」という姿勢を、裁判所に示すことができます。

面会交流調停は、平日に行われるので仕事との兼ね合いなどで苦労することにはなりますが、離婚後に子どもと会いたくても会えないという悲劇を避けるためには、多少の負担は覚悟してください。

なお面会交流調停は、離婚後であっても申し立てることができますし、以前取り決めた内容を変更したい場合も、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。

(4)調停事項の記述に注意する

これまでご紹介してきたとおり、父と子の面会交流ができないことを理由として、養育費の支払いを拒否することはできません。

しかし、最近、離婚調停において面会交流の条項を入れ、さらに詳細な面会交流の要領を定めたにもかかわらず、現実には調停条項に基づく面会交流が実現しなかったケースで、以下のような調停事項を入れた例が出ています。

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申立人(父)は、相手方(母)に対し、長男の養育費として平成23年○月○日から同人が22歳に達した年の翌年3月まで、月額金2万円を、毎月末日限り「長男名義の口座」に振り込む方法により支払う。


相手方(母)は、理由の如何を問わず、第七項の面会交流が実現できなかった場合、申立人に対して、同項記載の面会交流が実現できなかった月における養育費の支払いを免除する。ただし、同項記載の面会交流が実現できなかったことが、申立人(父)の責に帰する事情による場合には、この限りではない」(福岡家事 平成26年12月4日)。
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つまり、「面会交流を実現できない月は、養育費の支払いを免除する」という調停条項を入れたわけです。

このような条項は極めてまれであり、その妥当性に疑問はありますが、父母双方が、互いに養育費支払い義務と面会交流の実施義務の履行の裏付けを希望している場合には、検討してみるのもよいでしょう。

(5)調停委員の意見にひるまない

面会交流の調停では、調停委員や裁判所から「月に1回、ファミレスで食事をする程度」「宿泊はダメ」など、厳しい条件を突き付けられることがあります。

しかし考えてみれば、それまで一緒に生活してきた父親に「月に1回、ファミレスなら会わせてやる」という態度は、ずいぶんひどい話です。特に妻が子どもを連れて一方的に別居したケースであれば、なおさら不当な扱いと言わざるを得ません(※もちろん、父親のDV等が理由で母親が子どもを連れて出て行ったなどの事情がある場合には、母親の主張は不当とはいえませんが)。

したがって、父親の暴力などの事情がない限り、調停委員や相手の弁護士の主張にひるまずに、「毎月2回の泊りがけの面会交流は、父子の交流として極めて妥当なものであり、社会通念に照らして過分な要求ではない」ということを、しっかり冷静に主張していくことが必要です。

まとめ

以上、面会交流をさせてくれない子どもの養育費の支払いについて、ご紹介しました。
離婚後に子どもとの面会交流が実現しない場合には、父親はその対抗策として、養育費の支払いをストップするのではなく、面会交流が実現するよう、調停等を利用することを検討しましょう。

面会交流が実現しないからといって、養育費の支払いをストップすれば、ますます母親の気持ちを頑なにしますし、給与等が差し押さえられることもあるからです。

なお、面会交流は、母親の「単に会わせたくない」という理由で拒否されることは認められませんが、相手が暴力をふるう、養育費を支払う義務、能力があるのに支払わない(親の義務を果たさない)、子どもに一方の親の悪口を言う、連れ去りのおそれがある、子どもが面会を嫌がるなどの理由がある場合には、調停でも面会の拒否や制限がされることがあります。

このような事情がある場合には、早めに弁護士に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。